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29話

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「さぁみなさん。わたくしとお城に戻りますわよ。お友達もみーんな心配で、一緒に来てくださっているのですから」
「七尾、石川!?」

 誰かが前に出された。遠くて見えない──と思ったら、長老が魔法で視力を強化してくれた。
 王女の前に押し出されたのは、残りのクラスメイト六人だった。
 城を脱走したものの、捕まったみたいだな。

『ふん。彼らが大人しく従わなければ人質にと思っていましたが。案外素直でしたわね。はぁ、残念』

 おいおい、人質にって……。
 しかも田淵たちが大人しいことは残念って、どういうことだよ。

「ヒューマンって、どうしてこう傲慢なのかしらね」
「カケルのお友達、人質にされでますぅ」
「いけないヒューマン。スーモ嫌いなの」
「とりあえず、クラスメイト全員救出してからだな」

 その役目は俺じゃない。

 王女の言葉は田淵たちにも聞こえている。
 
『じゃあ、始めるぞ?』

 そう田淵の声が聞こえてきた。
 
「いつでも」

 俺の声はネフィの魔法で飛んでいく。
 そして──

「俺たちにお仕置きをするそうだが、どんなことをしてくれるんだ?」

 田淵が王女を挑発した。





「ぐわぁーっ!」
「なっ、なっ。なんですの!? どうして勇者たちがこんなに強く!?」
「ひ、姫様っ。勇者たちが勇者たちに奪われました!」
「はぁ? もっと分かりやすく仰いなさい!」

 勇者としてこの世界に召喚された田淵たちは、当たり前だがその辺の王国騎士より強い。
 そしてこの半年の間、俺たちは七尾たちを探しながらあちこち歩きまわっていた。しかも人目に付かないよう、凶悪なモンスターが生息する森の中をだ。
 嫌でもスキルのレベルが上がるってもんだ。

 その上でエルフの長老やドワーフたちからいろいろなスキルを学んで、それを使いこなすまでになっている。
 ある意味、本当の勇者っぽくなってるよな。

 あっという間に七尾たち六人を救出した田淵たち。
 そして窪地に身を伏せた。

「じゃあ、俺の出番っと」
「頑張ってくださーい、カケルぅ」
「頑張るのー」
「"無"──」

 レベルはもう50を超えた。効果時間は約三分。そして球体の大きさはバランスボールよりもデカくなった。
 それを薄く、紙のように伸ばして──投げる!
 幅は10メートルほど。長さはその倍以上。
 それが王国軍が展開する丘の──下を消滅させた。

「なっ、なんですの? 攻撃を外した?」
「はは、そのようですな」

 丘の上からは自分たちの足元がどうなっているかは見えないんだろうな。
 王国軍の足元は、3メートルほど下からごっそり穴が空いている。
 その穴は今も現在進行形で広がっていた。

「ふ、ふふふ。あの男、確かスキルが無かった男ですわね。エルフの森で魔法を学んだようですが、無能は変わらないようですわ。おーっほっほっほっほ」
「そのようですなーっはっはっは」
「おーっほっほっほ」
「はーっはっはっ──「おだまり!」すみません」
「さぁ、とっとと捕まえておしまい!!」

 そろそろ無の効果時間が終わるかな。二発目いっとく?
 と考えていると、王国軍が動いた。
 それが止めになった。

 ズズンッ

 短い地響きで丘が潰れた。
 それまでギリギリ堪えていた地面が、王国兵が動いたことで持ちこたえられず。
 俺の無で消えた地面の分陥没した。
 
 10メートルも落下したんだ。ただじゃあ済まないよな。

 土埃が収まった。
 土と、騎士との間に王女の姿がある。

「な、な……なんですの!?」
「おぉ、意外と元気だ。やっぱりこの世界の奴らは頑丈だなぁ」
「なぁに。わしらドワーフほどでもないさ」
「ですねぇ」

 ドワーフ族長が、そしてエルフの長老らが森から出てきていた。
 そして動けなくなっている王女のところへ行って、

「ヴェレッタ・ブレアゾン王女。わたしはエルフの里の者です。一応長老という立場でしてね」
「くっ。わ、わたくしを王女と知って、このような目に会わせてタダで済むとお思い!? お互いの不可侵条約を忘れたわけではないでしょうねぇ」
「忘れたのはお嬢ちゃんのほうだろう。森を半分焼き払え。そう部下に命じておっただろう?」
「な、な、なな、な、なにを仰っていますの。おほほほほほ」

 この期に及んでしらばっくれるのか。

「まぁいいでしょう。あなたのお父上にご報告いたしましょう。そして神の前にて真実をお話しください。その為の準備はこちらで致しますよ。神をお招きいたしましょう」
「ふひっひっひ。神の前で嘘をつけるかのぉ」
「ふふふ」
「ひひひ」

 長老とドワーフ族長の顔が……怖い。

 
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