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「あぁあ、やっぱり来たのか、魅霊」

 神殿を進むと、その奥にあった祭壇の前から聞き覚えのある声がした。
 声を聞くなり樫田が前に出て剣を構える。

「相田ぁ、てめー、よくものこのこと出てきやがったな!」
「樫田たちまで助けたのか。魅霊、お前って馬鹿だね? 向こうで散々お前の事虐めてた奴を助けるなんてさ」
「……いや、なんていうか。樫田から虐められていたというか、絡まれてた気はするけど、いじめとはちょっと違ったような?」

 弁当を食べてても「しけたもん食いやがって!」と絡まれ、窓の外で手招きしている霊を見て固まっていたら「女見てんのか? あ? 何もいねーじゃん! 期待させてんじゃねえ!! 罰としてジュース買ってこいっ」とパシリにされ。

 子供の頃の公園での話を樫田から聞かされてから……もしかしてアレは樫田なりに、ひとりぼっちだった俺を気遣ってくれていたのかなとか思えるようになった。
 もう少しうまい気の使い方なかったのかよとも思うけれど。

 高田にしても樫田と一緒になって「おうおう」言ってただけだし、戸敷は勉強好き過ぎ人間で俺とは特にどうこうも無かった。
 そう、苛めとは違っていたんだ。

「樫田は本当は優しい奴なんだぜ?」

 そう俺は相田に言ってやる。

「ちょ、おまっ、何言って!? お、俺が優しい訳ないだろう!!」
「樫田さんは案外優しい人ですよ」
『そうよぉ。坊やは優しいんだから。きっとあっちでも優しくしてくれるわよねぇ?』
「コ、コベリア!? なななななななんい言ってんだ。だ、だいたいあっちってどっちだよ!!」
『んふふ。分かってるく・せ・に』
「わあぁぁぁっ」

 あと樫田って相当初心だよね。
 どうすんだろうな、あのカップル……。

「はっ。何が優しいだ。仲良しごっこもそのぐらいにして貰おうか。これからは俺の時代になるんだからな!」
「相田の時代?」
「そうとも。もう間もなく女神が復活する。お前たちが王子を排除してくれたおかげで、女神と契約するのは俺様ってことさ」

 相田……クラスで目立つ存在だったけど、そこまで目立ちたかったのか!
 しかし女神復活って……。

 見れば相田の後ろにある台には、何人もの女性が横たわっており……真っ赤に染まった台、その下は血の海。
 全員もう死んでいるのだろう。
 
「血が足りない。だからお前たちの血が必要なんだよ!」

 そう言って相田が剣を構える。

「奴は俺に任せろ!」

 樫田も剣を構えて切りかかるが、相田は甲冑を身に纏っていないにもかかわらず、樫田の刃をもろともしない。
 相田の皮膚、どうなってんだ?

『うむ。儂の鱗じゃの!』
「……あぁ、相田って鱗の勇者だったか……」
『さすが儂の鱗じゃもん』
『無駄に硬いからねぇ』
「でも彼だって、古竜の能力を受け継いでいるんでしょ?」
「樫田さんは牙だぜ姉ちゃん」
「ねえちゃ!? ソ、ソディアよっ」
「おうおう、ソディア姉ちゃん」
「……好きにして……」

 樫田は牙――ってことは、攻撃系?

「樫田はパワー特化だが、彼が使っているのはただの剣だ。そんなものでは竜の鱗など、傷つけられる訳が無い」

 戸敷はそう言い、魔法を繰り出す。
 樫田がそれに気づいて避けるが、相田は避けようともせず真正面から魔法を喰らった。
 が――やはり傷一つ付かない。

「魔法耐性も万全……か」
『うむ。さすが儂の鱗じゃ!』
「ドヤ顔で言うなよ! どうすんだ、これっ」
『どうもこうも。四人に与えられた儂の力は均等じゃ。お互い決定打は無いじゃろう』
「だから、どうすればいいんだって……アブソディラスの力は均等に与えられている?」
『うむ。主と違っての。四人で儂の2割ほどを仲良く分け合っておるのじゃ』
「残り8割は?」

 見上げたアブソディラスは、俺を見下ろしている。

『主の中じゃ』
「なら話が早い。魅霊、僕が教える魔法を使ってみてくれ。オリジナルなんだ」
「……え……」

 独学で魔法作っちゃってるのか、戸敷って!?





「"煉獄に燃ゆる紅蓮の揺らめきよ。血潮よりも紅き刃よ。我が身、我が力となりて、彼の者を無と化せ"」
「ぶっはー。なんだその厨二病のような呪文は」
「完璧だろう」
「戸敷、お前って形から入るタイプだよな、あぁ?」

 唱えてるの俺なんですけど!?

 こんな恥ずかしい呪文は、だがちゃんと完成した。

 掲げた右手には赤黒い炎が渦巻き、刃は刃でも、槍のような形を形成していた。
 ただし――大きい。

「お、おい……待て……それをまさか投げる気じゃないだろうな?」

 相田が慌てたように後ずさる。
 俺にだって分かるさ。この魔法は異様なことぐらい。
 初めて使う、しかも戸敷が創ったという魔法なので、失敗しないよう集中したのが悪かったのかもしれない。

『ぬ、主よ。それをはよ投げぇー。危ないぞ。暴発させでもしたら、とんでもないことになるぞい!』
『あははははは。ちょっと全力で結界出しておこうかー。あ、トシキ君だっけ? ちょっと手伝って貰えるかね』
「身を守る為、喜んでお手伝いしよう」
「レイジ君、頑張って!」

 何を頑張ればいいですか!?
 とにかく、

「相田、受け取れ!」
「止めろっ。投げるな、投げ――あああぁぁっ!」

 軽く投げた。
 だがそもそも5メートルほどもある槍なので、ちょんっと投げた程度でも相田に届く。
 その瞬間――物凄い量の魔力が膨れ上がり、弾け飛んだ。

 全てを飲み込むかのような爆風は、魔王と戸敷が創り出した結界で防がれる。
 結界の外は爆風にあおられ、煙で一切何も見えない状況が続いた。

『やるすぎじゃー、主ぃーっ』
「だってどんな魔法か分からなかったから、失敗しないようにって頑張ったんだよ!」
「あぁすまない魅霊。説明していなかったな。あれは対魔王用にと編み出した、町一つ破壊するような大魔法をぎゅっと圧縮したものだ。敵単体にしか効果の無い、局所魔法ではあるんだ」

 そのはずなのに、随分と威力範囲が広いようだ。どこで間違ったかな?
 なんて恐ろしいことを戸敷はケロっとした顔で言っている。
 魔王は魔王で『え? 私の為に創った魔法なのかい? 嬉しいなー』なんて、こっちもいろいろズレたことを言っているし。

 やがて煙が晴れると、そこに相田の姿は――あった。

 ただし、その体は透けて見えていた。
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