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「何故だ! 何故私の死霊術が破られる!?」

 ヴァルジャス第二王子ヴァンは、苛立ちを隠すことなく叫んだ。
 冥府の女神が創造した四人の幹部・四天王。そのうちの三体の封印を解いた褒美として、彼らから死者を操る力を与えられている。
 元々死霊使いとしての素養のあったヴァン。
 更にはこの地を血で濡らすことで、冥府の女神の力も増している。
 その眷属たる三人の力も借り、皆殺しにしたヴェルタの住人たちを使役することも出来た。

 なのに、今そのヴェルタの住人は、彼の支配から逃れた。

『貴様が召喚した、あの死霊使いだな』
『何故召喚した時に殺しておかなかった?』
『貴様の責任だ。貴様の手で決着をつけてこい』

 樫田、高田、そして戸敷の体に憑依した眷属らが、忌々しそうにヴァンを睨む。

(くっ。あぁ、殺しておきたかったさ。だがあの時はまだ、もろもろの準備も整っていなかった。だから私の計画を帝国に――父に知られるわけにはいかなかったのだ!)

 帝国そのものは決して悪ではない。
 だがヴァンが悪だったのだ。

 死霊使いとしての素養があると知ると、とたんに彼は人の死を軽視するようになった。
 死んでも自分が駒として動かしてやればいい。
 そう考えるようになったのだ。

 そして死を司る、冥府の女神を信仰するようになった。
 女神デストラの、死者を支配するというその力を狂信するようになったのだ。

 いつしか彼は、世界のすべてを自分に跪かせたいと思うようになる。
 自分に与えられた力で――死霊術で。

(おのれミタマレイジめ。よくも私の邪魔をしてくれたな!)

 ヴァンは剣を持ち、迷宮の入り口に設置された天幕から出て行く。
 足早に、近くにいる者へと次々に指示を出していった。

「穴の拡張を急げ! 迷宮探索隊以外の全軍を持って、ヴェルタに潜む賊を皆殺しにしろ!」

 戦笛が鳴らされ、それを耳にした兵士らが立ち上がる。
 笛の音は新たな音色を呼び、周辺へと拡大されていく。

「『我が忠実なる家臣どもよ。我が呼びかけに応え、我が手足となりて敵を討て!』」

 ヴァンの紡ぎ出される言葉が、眠れる死者を呼び起こす。
 それはかつて、帝国に忠誠を誓った騎士たちであった。
 その中には、彼の腹違いの兄の姿もある。

「さぁ兄上。どうか私の為に手柄を立ててきてください。ミタマレイジの首を取れれば、もう少し良い待遇にして差し上げますよ。そうですね……レイスぐらいには進化させてあげましょう」
『うぅ……ぁ……あ゛ぁ』

 意志の無い、腐りかけの死体。
 命ぜられた任務を全うするため、彼はヴェルタの町に向かって歩き出す。
 それに続くように、多くの死者と生きた兵士らが移動を開始した。

 生者も生きた心地がしないのだろう。その表情は暗く沈み、中にはガタガタと震える者すら居る。
 だが異を唱える者は居なかった。
 最初は居たのだが、王子に意見した者はことごとく死者の仲間入りをさせられたからだ。

 帝国第一王子を暗殺し、その直属の騎士団に死の呪いを浴びせ、ヴァン王子は自分の手駒とした。
 同時に皇帝も暗殺し、自らが皇帝の座に就いた。
 多くの帝国騎士が死の騎士団となり、その数は万を超えている。
 万を超える兵士らを、彼は既に虐殺しているのだ。

 自らの意志で跪く者は生かす。

 何も彼は、人類滅亡を願っているのではない。
 自分こそが全ての世界を作りたいだけだ。
 だから傅く者が必要なのだ。

「さぁミタマレイジ。貴様の命もここまでだ。この私が貴様を有効活用してやろう。ふははは、ふはははははははっ」
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