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 何故だ!?
 何故エスクェード王国騎士団の旗が掲げられているのだ!?
 千年も昔に滅んだ国の騎士団だぞ?
 愚かにも冥府の女神を討ち取ろうとし、全滅した騎士団だぞ?
 存在するはずがない!

「ヴァ、ヴァン王子……みな動揺しております。あの最強の騎士団が復活したのかと」
「するはずがなかろう! 惑わされるなっ、あれは幻――あれは――まさかっ」

 まさか、死霊どもか!?
 目を凝らし呪文《・》を唱えると反応があった。
 遠すぎてわからぬが、あれが死霊であることは間違いない。
 この私の死霊術に反応し、紫色のオーラを発しているのが見えるからな。

 何故奴らがここに?
 何故あの迷宮から出てきたのだ。

 何故迷宮を彷徨うはずの奴らが……。

 ん?
 移動を開始した?
 誰かに従っているというのか。
 
「ヴァン王子、どういたしますか!?」
「五月蠅い、黙っていろ! 今回の指揮は兄が取っているのだ。奴に任せておけばいいっ」
「し、しかし。今回の作戦は、頃合いを見計らってヴォード王子を暗殺し、戦の勝利もヴァン王子ひとりの功績にするという手はずでしたから」

 家臣のことは無視だ。
 あの死霊どもが誰かに仕えているというなら、いったいそれは誰なのか。

 目を閉じ俺は命令を与える。

 ――カシダ、騎士たちが移動する先に誰がいる?

 死霊術によって操ったカシダに命じ、奴に騎士たちの向かう先へと走らせた。
 奴の目を通して戦場を見る。
 カシダを止めようと立ちふさがるドーラム兵など、奴の大剣の一振りでその胴が真っ二つになる。
 いいものだ。
 人が死ぬということは。
 大地が血に染まるということは、本当に素晴らしい。

 遂にだ……遂に我が軍団を作る時が来たのだ!
 その邪魔をする者は許さないっ。

「そうだ。エスクェードの騎士どもも我が軍門に下らせよう」
「え? あの騎士どもはエスクェードの!?」
「そうだとも。あれは死霊どもだ。私の術でなんとでもなる」
「それは素晴らしい。あの無敵を誇る――いえ、唯一神にのみ破れた、地上では最強と言われる騎士ども。ヴァン様の死の軍団の一員になれば、それこそ名実ともに無敵となりましょう」

 そうだとも。
 そして大陸全土を血で濡らすための、最強の部隊となるだろう。
 奴らが討ち取ろうとした、あの方のためのな!

 カシダ、敵の死霊使いは見つかったか?

 あの男……まさか、異世界からのあの男か!?
 っち、まさかあの男が死霊どもを。

 迂闊であった。
 やはり奴も古代竜の力を手に入れていたのだな。

 カシダ、その男を殺せ! 
 でなければ騎士どもが私に従わぬからな。
 それに……邪魔だ。
 死霊使いはこの世に私ひとりでいい。それ以外はみな邪魔だ!

 どうしたカシダ、何故命令に逆らう?
 カシダ――。

 っち。
 まだ奴の魂が残っているのか。それとも肉体の記憶というやつか。

「ヴァ、ヴァンさま……これはまずぅございます」
「っち。わかっておる!」

 騎士どもめ、主の命で動き出しおったな。
 
 地上最強の騎士団――エスクェード王国騎士団。
 どうせ話を盛り上げるためのホラであろうと思ったが……伝説は、ただの物語ではなかったというわけか。

 前線に出ている兄上の軍はほぼ壊滅だな。

「撤退するぞ」
「し、しかしヴァン王子!?」
「十倍以上の戦力だったのだぞ? たかが五百かそこらの死霊が加わった程度で、今では四倍程度にまで落ちているではないか。これで貴様はどうやって勝つつもりだ? 言ってみよ」
「そ、それは……」

 勝てぬ戦などせぬ。
 今回の敗因は全て兄の責任にすればいい。
 お膳立てをしてやったのに、勝てなかったのは兄の責任だ――と。 
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