上 下
34 / 97

34:何で影の中にこの人数が入るのか

しおりを挟む
 アンデッド軍団は殲滅された。

 ってことになっているので、ここからは俺、そしてソディア、あと竜牙兵、あと案内役のチャックだけで進むことになった。

「竜牙兵も十体いれば安心だな」
「数、増やせたのね」
「あぁ、俺も今知ったところだ」
『そりゃあ召喚できるじゃろ。骨があればいくらでも増やせるんじゃから』

 いくらでも……俺の全身の骨を使えば……いや、止めよう。
 再生能力が高いとはいえ、全身の骨が一瞬で生えてくるとか、もう化け物じゃないか。
 考えただけで恐ろしくなる。

 下の階層に行けば行くほど、出てくるモンスターが強くなる。
 更に同じモンスターでも、上の階層にいたやつより下の階層の奴のほうが強い。
 だが竜牙兵も強い。
 そもそも腕の立つ冒険者数人分の実力があるんだ。
 その上【死】に対する恐怖なんかもない。
 ただひたすらモンスターを倒し、俺を守ってくれるだけだ。
 そんな竜牙兵にエールを送る。それが俺の今の仕事だ。

「がんばれ~竜牙兵。負けるな~竜牙兵」
「もうっ、気が抜けるからその声援止めてよ」
「ごめん。やることなくって暇でさ」

 "爆炎《フレイム》"は当然だが、爆風の威力があり過ぎておいそれとは使えない。
 最終破壊兵器だからな。
 
 そういや"火球《ファイア》"って薪を消し炭にはしていたけど、実際威力ってどうなんだろう。
 ちょっと使ってみるか。

 三十八階層まで下りてきたが、ここにきてまたもやフィールドタイプのエリアか。
 地下三十八階に草原とか、まったく非常識な迷宮だな。
 背丈の高い草をかき分け進み、襲ってくる黒い犬ブラックハウンド目掛け試し打ち。

「"燃えよ、始原の炎――火球《ファイア》"はいっ」

 突き出した右手から発射した直径二メートルの火球は、ブラックハウンドを包み込んで吹っ飛ばす。
 火球が壁に激突した後、焦げて炭化した犬だけが残っていた。

 おぉぉ! 威力あるし、一撃なら使えるじゃん!
 
「"火球"って、魔法の中でも初歩の初歩。最低火力なんじゃなかったかしら」
『普通は火傷を負わせる程度ですぅ。異常ですねぇ』

 はっはっは。
 これで俺も活躍できるぞ!

「よし、次! "燃えよ、始原の炎――火球《ファイア》"はいっ」

 次々襲ってくる犬どもを、その都度消し炭にしながら前進。
 チャックの案内で三十九階へ、そして四十階へ。

「どうせ安全地帯には入れないんだ。行けるところまで行く?」

 ソディアにそう尋ねると、

「そうね。さっきみたいにアンデッドを置いて安全地帯に行くと、ほかの冒険者に見つかって大変だし。進みましょう」

 という返事が。
 四十階層の冒険者はさすがに腕がたつだろう。
 一組のパーティーでも討伐しようなんて言い出しかねない。
 だったら――。

『四十五階層まで下りると、そこからは城の中みたいな構造になってやして。小部屋も結構ありやすから、内側から鍵を掛ければ安心して休めます』
「ならそこまで行こう。残りは明日だな」
「そうね。あの相田って連中もまだ下りてはきてないでしょうし。四十六階からは慎重に行きましょう」

 最下層までもう一歩だな。
 それにしても、迷宮っていうからワクワクしたんだが、思っていたより呆気なくここまで来たもんだ。
 まぁ、総勢六十名のアンデッドと竜牙兵という、数の暴力に訴えてきたからなぁ。
 これが純粋に俺とソディアの二人だけだと、こうはいかなかっただろう。
 そのうえ階段の位置を記憶している冒険者付きだ。迷うこともなければ当然早いのも当たり前。

 本日の野宿先となる四十五階層は、チャックの言う通り城の中みたいな構造になっていた。
 実際のお城を見たこと無いし、入ったことも無いのでこんなもんだろうという感じではあるが。
 壁は石を煉瓦上に積み上げたようなもので、ランタンが一定間隔で置かれている。
 ただし、灯りは無い。

『姉さん。ランタンの受け皿に水を注いでくだせぇ』
「……もう姉さんで固定なのね」

 ぶつぶつ言いながらソディアが水の精霊を呼びだし、ランタンの受け皿に水を少しだけ注ぐ。
 すると、何故か火が――いや、何かが発光している?

『これは光石《こうせき》つって、水に触れると発光する物でさあ。一部のモンスターの体内から出てくる貴重品で、四十五階から下の階層にはこいつが設置されているんですよ』
『でも光石には寿命があって、消耗品なのですぅ。結構高値で取引されるアイテムなのですよぉ』
「へぇ。ランタン代わりにしか使えそうにないのにか?」
『ええ。なんせ光ですからね。火を使うより安全でやすから』

 あぁ、そういうことか。
 火の不始末で火事なんてのは地球でもよくあることだ。
 普通のランタンだと油も一緒に燃やすから、倒れたり落ちたりすればあっという間に火事だな。
 その点、光なら倒れても落ちても、光はただの光だ。

「水に触れると発光するのか?」
『はいですぅ。他にも風と反応して炎を出す石や、温めると水を出す石なんかもあるですぅ。もちろん、単純に宝石を出すモンスターもいますですよぉ』
『我々はまっすぐ下層を目指しやしたが、上層階でも数は極端に少ないでやすが、そういったのを落とすモンスターはいるんでやすよ』
『冒険者は主にそういったモンスターを狙って、迷宮にはいるのです』

 他にもモンスターの素材なんかを、ギルドが買い取ったりしているから、それも目的なのだとか。
 倒せばダンジョンに還るモンスターだが、その前に解体して素材を剥ぎ取るのだという。
 か、解体か。
 グロはノーサンキューだな。

 暫く通路を進んだ先で、重厚そうな鉄の扉を発見。

『じゃあ今日はここで休みやしょう。あっしが先に中を確認しやすんで、ちょいとお待ちを』

 と言ってチャックは扉を開くことなく、にゅ~っとすり抜けていく。

『安全でやんす。たまに室内にもモンスターがいるでやんすから』

 と言って出てくる。
 ゴーストって便利だな。

 中に入ると、今度はソディアが扉に向かって魔法を唱えた。

「"扉閉鎖《ドア・ロック》"」
「それも生活魔法?」
「えぇ。鍵の無い扉を外から開けられないようにする魔法よ」

 へぇ、こういった迷宮では役に立つ魔法だな。

 安全と、他人に見られない状況を確保すると、足元の影からアンデッド軍団がわっと出てくる。

『はぁ、こう人数がおおいと、レイジ様の影も狭く感じますじゃ』
「むしろ何で影の中にこの人数が入るのか……」
『影の見た目と中が同じではないぞい。影の中は使役したアンデッドにとっては、別の空間だとか言われておるからのぉ』
「アブソディラスも詳しくはわからないのか?」
『うむ。儂、死霊術は知識として知っておるが、使ったことも無ければ人さまの影に入ったこともないからのぉ』

 使ったこともないのに自信たっぷりに呪文を教えてくるとか……古代竜が凄いのか、それとも無責任なのか。
 
 着火魔法"火球《ファイア》"で火を起こし、夕飯の支度をしている間――アンデッド軍団がなにやら作戦会議をしはじめる。
 なんでもチャックの話だと、今、四十五階層には他の冒険者がいない、ということだ。

『他に冒険者が来ているなら、ランタンに光が点っているはずだ。受け皿に水を灌ぐと、だいたい丸一日は光っているからな』

 それが点いていなかった、ということはこの二十四時間、誰も来ていないということになる。
 もちろん明日、降りてくる冒険者もいるだろう。
 だが、少なくとも俺たちの方が先に進んでいる分、遭遇することはマズ無いはず。

『だから野郎ども。明日は張り切って暴れるぞ!』
『『おーっ!』』

 また始まるのか。
 アンデッド無双。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...