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29:迷宮でやすぜ
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昼食は屋台で済ませ、それから非常食を三日分買い足す。
ここでカルネの生活魔法講座の出番だ。
『食料の腐敗速度を遅らせる魔法ですぅ。では――食材の鮮度維持、ですぅ』
「食材の鮮度維持、です――はっ、危うくつられるところだった」
魔法がかかった食材は、普段の三倍日持ちするという。
手持ちの食料と合わせて、これで五日ほどダンジョンに篭れるな。
町を出てすぐ――。
「町の隣に別の町? いや、遺跡か?」
「ううん。あれが迷宮なの。私も入るのは初めてだけど、有名な迷宮だから噂だけは知っているわ。あの町は――」
『はいは~い。カルネちゃんの出番ですぅ』
足元の影からカルネがうんちくを語り出す。
『神々の大戦の折、敗退した冥府の女神が地底に逃げ込んだことによって出来たのが、ここの迷宮ですぅ。その後、人がこの地を支配するようになってから、この地を納めていた国王が、地底に逃げ込んだ冥府の女神を討ち取るため、迷宮に騎士団を送り込んだですぅ』
王国の騎士団は周辺諸国に名を轟かせるほど、当時は最強を誇ったという。
そんな騎士団を有していた国王は、敬虔な光の神の信徒だった。
国王は騎士団を迷宮に向かわせ、自らの神に代わって冥府の女神を打ち取ろうとしたのだと。
もちろん、自国にそんな不吉な迷宮があったのでは、国民も安心して生活が送れないだろうからというのもあった。
当時の迷宮は今の何十倍もの広さがあったといい、また誰も足を踏み入れていなかったというのもあってひとつ下の階層へと続く階段を見つけるのも数日かかり。
そこで国王は迷宮の上に町を築き、迷宮を出れば即休息が取れるような環境を築いた。
そうして数十年かかってようやく最下層までたどり着いたのだが――。
『王国軍も騎士団も全滅。そして町も廃墟と化したのですぅ』
なるほど、ね。
冥府の女神の怒りによって、地下百階以上あったという迷宮は、今の地下五十階から下が崩落。
結果的に、初級から中級冒険者にとって、手ごろな迷宮に仕上がった、と。
破壊された町の中を練り歩き、たどり着いたのは巨大な穴。
地面にぽっかり口を開いたその穴は、何もかも――光さえも飲み込むかのように漆黒の闇に包まれていた。
そんな穴の縁に階段があり、ほかの冒険者がその階段を下りていくのが見える。
が、何段か下りたところで忽然と消えた。
「迷宮と呼ばれるもののほとんどはね、大昔にどこかの神様が何かしらをやらかしたせいで出来上がった、空間の割れ目みたいなものなの」
だからこちら側とあちら側とでは、完全に別空間になっている――とソディアが言う。
何をやらかせばそんなことになるのか。
で、この迷宮でやらかしたのが、冥府の女神ってことだな。
階段を下りる前からランタンに明かりを灯し、それからソディアと並んで下りていく。
二人が並んでも十分過ぎるほど広い階段は、やがて漆黒に包まれ何も見えなくなる。
思わず立ち止まると、俺の手に何かが触れ、そして引っ張る。
「気にせずもう一段下りて。そこがちょうど境界線なの」
「わ、わかった」
言われてもう一段下りると、すぐ目の前にソディアが立っていた。
「見えるようになった」
「えぇ。そこだけはどんな光も通さないのよ。ほら」
振り返るとすぐ後ろは漆黒の闇。何も見えない。
こちら側も暗いが、でもランタンの明かりに照らされてごく狭い範囲だがしっかり見える。
試しにランタンを漆黒の闇に突っ込んでみると――。
「やだっ。こっちまで真っ暗になっちゃうじゃない」
ソディアがそう叫び俺にしがみ付く。
「あ、ごめん」
闇からランタンを引き抜けば明るくなる。
ふぅん。変わった仕組みだな。
後から入ってくる人とぶつかる恐れもあるからっていうんで、その場を移動。
階段は五十段ほどあっただろうか。
ようやく階段を降り切った俺は、辺りを見渡して絶句した。
ここは穴の中――地下のはず。
なのに何故ここは草原なのか。
しかも微妙に明るい。
「ランタンの火、消しちゃってもよさそうね」
「そ、そうだな……おい、なんで地下に草原があるんだ?」
と足元に尋ねると、にゅっと出てくるチャック。
『草原というほど広くはありやせん。ただ地面に草が生えている。その程度ですぜ』
「とはいえ、地下に草だぞ? やっぱ不自然だろ」
『はぁ、そう言われても、迷宮なんて常識の通用しない場所でやすから』
『明るいのはほら、天井や壁に生えた光り苔のせいですぅ』
見上げた空――ではなく天井は、確かにキラキラしている。
にしても、随分と高い天井だな。戸建ての家の屋根ほどもある。
そして壁――と言っても、階段から左右に伸びた壁の先端は、さすがに暗くて見えない。
つまり、迷宮といいつつ、迷路のような壁が見当たらない。
ただただ広い空間のようだ。
「ずっと続いているのか?」
『この先に森がありやす』
「迷宮じゃないのか!?」
『迷宮でやすぜ』
さも当然と言った顔のチャックは、このエリアは草地と木々で覆われた二種類のゾーンに分かれていると。
草地ではウルフやアントといったモンスターが。
森ではゴブリンやバットといったモンスターが生息する、と。
『地下二階に下りる階段は、その森の真ん中にありやす』
「チャックさんはその階段の位置を知っているの?」
『真っ直ぐ行くかい? 案内なら任せな』
ゴブリンとは戦った。数が多くてもアンデッド軍団には関係無い。
しかも今回は人数が増えているんだ。その上、新しく加わったのは、手練れの冒険者だ。
「道案内は任せた」
『了解しやした。行くぞ、野郎ども!』
『『おーっ!』』
こうしてアンデッド軍団の行進が始まった。
……他の冒険者に見られないことを祈ろう。
そう、ばく進していくアンデッド軍団を見て思う。
「間違ってもその辺の冒険者を触ったりするなよ~」
『心得てやす』
『そんなヘマしないっすよ。てぃ!』
軽い掛け声とともにコウが両手剣を薙ぎ払う。
バウバウと吠えながら駆け寄った狼が真っ二つに。
『いやっほーっ! 斬れたっす。斬れたっすよレイジ様っ』
「あぁ……よかったな」
『はい!』
武器が使える。
それだけでコウは嬉しいようだ。
それはラッカも同じようで、一矢放っては弓に頬ずりし、また放っては頬ずり。ほほ骨が擦り減らないか心配だ。
あとはあれだな……。
『お~っほっほっほ。アタシを飾る毛皮にしてあげるわ。お~っほっほっほ』
『ギャインギャイン』
やっぱり……似合いすぎるだろ。
ここでカルネの生活魔法講座の出番だ。
『食料の腐敗速度を遅らせる魔法ですぅ。では――食材の鮮度維持、ですぅ』
「食材の鮮度維持、です――はっ、危うくつられるところだった」
魔法がかかった食材は、普段の三倍日持ちするという。
手持ちの食料と合わせて、これで五日ほどダンジョンに篭れるな。
町を出てすぐ――。
「町の隣に別の町? いや、遺跡か?」
「ううん。あれが迷宮なの。私も入るのは初めてだけど、有名な迷宮だから噂だけは知っているわ。あの町は――」
『はいは~い。カルネちゃんの出番ですぅ』
足元の影からカルネがうんちくを語り出す。
『神々の大戦の折、敗退した冥府の女神が地底に逃げ込んだことによって出来たのが、ここの迷宮ですぅ。その後、人がこの地を支配するようになってから、この地を納めていた国王が、地底に逃げ込んだ冥府の女神を討ち取るため、迷宮に騎士団を送り込んだですぅ』
王国の騎士団は周辺諸国に名を轟かせるほど、当時は最強を誇ったという。
そんな騎士団を有していた国王は、敬虔な光の神の信徒だった。
国王は騎士団を迷宮に向かわせ、自らの神に代わって冥府の女神を打ち取ろうとしたのだと。
もちろん、自国にそんな不吉な迷宮があったのでは、国民も安心して生活が送れないだろうからというのもあった。
当時の迷宮は今の何十倍もの広さがあったといい、また誰も足を踏み入れていなかったというのもあってひとつ下の階層へと続く階段を見つけるのも数日かかり。
そこで国王は迷宮の上に町を築き、迷宮を出れば即休息が取れるような環境を築いた。
そうして数十年かかってようやく最下層までたどり着いたのだが――。
『王国軍も騎士団も全滅。そして町も廃墟と化したのですぅ』
なるほど、ね。
冥府の女神の怒りによって、地下百階以上あったという迷宮は、今の地下五十階から下が崩落。
結果的に、初級から中級冒険者にとって、手ごろな迷宮に仕上がった、と。
破壊された町の中を練り歩き、たどり着いたのは巨大な穴。
地面にぽっかり口を開いたその穴は、何もかも――光さえも飲み込むかのように漆黒の闇に包まれていた。
そんな穴の縁に階段があり、ほかの冒険者がその階段を下りていくのが見える。
が、何段か下りたところで忽然と消えた。
「迷宮と呼ばれるもののほとんどはね、大昔にどこかの神様が何かしらをやらかしたせいで出来上がった、空間の割れ目みたいなものなの」
だからこちら側とあちら側とでは、完全に別空間になっている――とソディアが言う。
何をやらかせばそんなことになるのか。
で、この迷宮でやらかしたのが、冥府の女神ってことだな。
階段を下りる前からランタンに明かりを灯し、それからソディアと並んで下りていく。
二人が並んでも十分過ぎるほど広い階段は、やがて漆黒に包まれ何も見えなくなる。
思わず立ち止まると、俺の手に何かが触れ、そして引っ張る。
「気にせずもう一段下りて。そこがちょうど境界線なの」
「わ、わかった」
言われてもう一段下りると、すぐ目の前にソディアが立っていた。
「見えるようになった」
「えぇ。そこだけはどんな光も通さないのよ。ほら」
振り返るとすぐ後ろは漆黒の闇。何も見えない。
こちら側も暗いが、でもランタンの明かりに照らされてごく狭い範囲だがしっかり見える。
試しにランタンを漆黒の闇に突っ込んでみると――。
「やだっ。こっちまで真っ暗になっちゃうじゃない」
ソディアがそう叫び俺にしがみ付く。
「あ、ごめん」
闇からランタンを引き抜けば明るくなる。
ふぅん。変わった仕組みだな。
後から入ってくる人とぶつかる恐れもあるからっていうんで、その場を移動。
階段は五十段ほどあっただろうか。
ようやく階段を降り切った俺は、辺りを見渡して絶句した。
ここは穴の中――地下のはず。
なのに何故ここは草原なのか。
しかも微妙に明るい。
「ランタンの火、消しちゃってもよさそうね」
「そ、そうだな……おい、なんで地下に草原があるんだ?」
と足元に尋ねると、にゅっと出てくるチャック。
『草原というほど広くはありやせん。ただ地面に草が生えている。その程度ですぜ』
「とはいえ、地下に草だぞ? やっぱ不自然だろ」
『はぁ、そう言われても、迷宮なんて常識の通用しない場所でやすから』
『明るいのはほら、天井や壁に生えた光り苔のせいですぅ』
見上げた空――ではなく天井は、確かにキラキラしている。
にしても、随分と高い天井だな。戸建ての家の屋根ほどもある。
そして壁――と言っても、階段から左右に伸びた壁の先端は、さすがに暗くて見えない。
つまり、迷宮といいつつ、迷路のような壁が見当たらない。
ただただ広い空間のようだ。
「ずっと続いているのか?」
『この先に森がありやす』
「迷宮じゃないのか!?」
『迷宮でやすぜ』
さも当然と言った顔のチャックは、このエリアは草地と木々で覆われた二種類のゾーンに分かれていると。
草地ではウルフやアントといったモンスターが。
森ではゴブリンやバットといったモンスターが生息する、と。
『地下二階に下りる階段は、その森の真ん中にありやす』
「チャックさんはその階段の位置を知っているの?」
『真っ直ぐ行くかい? 案内なら任せな』
ゴブリンとは戦った。数が多くてもアンデッド軍団には関係無い。
しかも今回は人数が増えているんだ。その上、新しく加わったのは、手練れの冒険者だ。
「道案内は任せた」
『了解しやした。行くぞ、野郎ども!』
『『おーっ!』』
こうしてアンデッド軍団の行進が始まった。
……他の冒険者に見られないことを祈ろう。
そう、ばく進していくアンデッド軍団を見て思う。
「間違ってもその辺の冒険者を触ったりするなよ~」
『心得てやす』
『そんなヘマしないっすよ。てぃ!』
軽い掛け声とともにコウが両手剣を薙ぎ払う。
バウバウと吠えながら駆け寄った狼が真っ二つに。
『いやっほーっ! 斬れたっす。斬れたっすよレイジ様っ』
「あぁ……よかったな」
『はい!』
武器が使える。
それだけでコウは嬉しいようだ。
それはラッカも同じようで、一矢放っては弓に頬ずりし、また放っては頬ずり。ほほ骨が擦り減らないか心配だ。
あとはあれだな……。
『お~っほっほっほ。アタシを飾る毛皮にしてあげるわ。お~っほっほっほ』
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