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28:祟られると大変だもの

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 一部の金貨だけをギルドで換金して、迷宮に挑むため早速――買い物に。 

「買い物? いったい何を」
「食料」
「あぁ、そうか」

 手持ちの非常食は、残り二日分ほどしかない。
 どのくらいの規模のダンジョンだか分からないが、日帰りできる――とは考えにくいよな。

「それと装備ね。レイジくん、あの洞窟では自分の装備を選んでなかったでしょ?」
「え……う、うん。まぁ……」

 運動音痴ではないが、正直、剣や弓、槍なんかも使える気がしない。
 使えないものを持っていても仕方がない――と思って自分の分は取らなかったんだけど。

「だからあなたの装備を見繕うのよ」
「俺の? いや、俺剣とか弓とか扱ったことないし」
「武器じゃなくって、防具よ」
「あ、そっちですか」

 やってきた武具店で心臓部分を守る程度の皮鎧を購入。。
 それから手袋だ。

「旅の途中にも思ってたんだけど、素手だといろいろ怪我しそうだし、ね」
「あぁ、うん。これなら気にせずいろいろ触れる」
「でしょ? それとブーツも」
「あ、それは俺も買おうと思ってたんだ」
「ふふ。だってその靴、長旅には向かなさそうだものね」

 そうなんだよ。
 ソディアが見繕ってくれたブーツに足を通すと、意外なほど履き心地が良い。

「手直しするかい?」

 そう言って店員の中年おばさんが言う。
 どうやらサイズ補正をその場でしてくれるようだな。

「大丈夫そうです。どうも」
「いえいえ。お嬢さんの見立てがよかったんだねぇ」
「俺もビックリするぐらい、ピッタリですよ。さんきゅー、ソディア」
「そ、そう? よ、よかった」

 照れ臭そうに顔を染めるソディア。
 ついでだ、彼女にも何か買ってやろう。

 武器は――アブソディラスから貰ったものがある。
 防具は――特に不足しているようには見えない。
 じゃあ……アクセサリーか?

 ゲームだとアクセサリーも重要な防具に含まれるんだけども、こっちの世界ではどうなんだろうか。
 さすがにイヤリングやネックレスに防御力があるとは思えない。
 けど、魔法が付与されているものなら?
 そう思って店内を物色すると――あった!
 男性店員がどんっと構えるカウンターの後ろが棚になっていて、そこにネックレスやイヤリングが飾られていた。

「見たいのかい、兄ちゃん?」

 察したのか、男性店員がにんまりした顔で尋ねてくる。
 せっかくだ、ソディアには内緒でこっそり買いたい。
 幸い彼女は店の奥にある、女性向け装備コーナーに夢中だ。
 よし、今のうちに――。

「付与されている効果はどんなものが?」
「へへ、そうこなくっちゃな。効果はな――」

 飾られてあるほとんどは、魔法を使う際に消費する精神力の代役となる、魔晶石がはめ込まれたアクセサリーだ。
 他にあるのは【ライフストーン】という、回復魔法の代用品として使える石が嵌った物。
 下級の火の魔法を撃てる【ファイアストーン】という石が嵌った物。眩しい光を発する物などがある。
魔晶石は洞窟で、巾着に入るだけ持ってきた。だから必要ない。
 回復――ソディアは使えると言っていた。必要ない。
 下級の火魔法――火球だな。もっと凄いのを彼女は唱えていた。必要ない。

 うぅん、手詰まりだ。
 こうなったらデザイン性だけで選ぶか?

「どれもいらないって顔だな。じゃあ――値段は張るが、こんなのもあるぜ?」

 そう言って店員がカウンターの下から取り出したのは、青と緑の宝石をそれぞれ嵌めたイヤリングだ。
 しずくのような形の宝石を、まるで果実に見立てたようなデザインのそれは、男の俺から見ても綺麗だと分かる。

「こっちは風の精霊石で、こっちは水の精霊石だ。精霊が好む石でよ、上手く精霊を住まわせることが出来れば、ダンジョン内でも風を吹かせるし、水の無い所でも飲み水に困ることもなくなるってもんだ」
「ってことは、今はそれぞれ住民は――」
「いねえよ」

 いない、か。
 でも関係ない。
 ソディアは精霊使いだ。彼女が自分で呼び出し、住まわせることができるだろう。
 そして精霊魔法は、俺の推測が正しければ――。

「買おう」





「嘘っ。こ、これを私に?」
「うん。装備、見繕って貰ったお礼に」
「レ、レイジくんに合いそうなものを探してきただけじゃない。お金だってレイジくんが自分で払ったのよ。それなのに……」
「いらない? うぅん、俺は男だし、アクセサリーなんて付ける趣味は無いからなぁ」

 さっきギルドで換金した金貨で、手持ちは五十枚ほどになっていたんだけど、イヤリングで四十八枚使った。
 尚、俺の装備では金貨一枚で済んでいる。
 イヤリングを買うと言った時の店員の顔は、そりゃあもう大喜びってもんじゃなかったな。
 かなり大口商品だったんだろう。
 それを考えると、今更返品てのもなぁ。

 チラりとソディアを見ると、イヤリングを見て目をキラキラさせている。

「着けてよ。似合うと思って買ったんだし。着けないっていうなら、祟られるんだぞ」
「え!? だ、誰に?」
「俺に」

 ……滑った!?
 ソディアってば無反応……。これは返品まったなしなのか。

「っぷ……ふふふ。レ、レイジくんが祟るの? やだ、もう。ふふふ」
「わ、笑うなよ。滑ったかと思って、すっげー恥ずかしかったじゃないか」
「あら。笑わなかったら、それはそれで滑ったってことじゃない?」
「そ、そうだった」

 私の勝ち――と言わんばかりに、彼女がくるりと舞って微笑む。
 それから徐にイヤリングを嵌め、それが見えるように髪を掻き上げた。

「祟られると大変だもの」

 そう言ってソディアはもう一度微笑んだ。
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