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19:だが断るだが断るだが断るぅぅぅぅっ

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『それらしい兵隊なんかはいなかったっすよ』

 アブソディラスの提案で、一度彼の住居=洞窟に寄る事にした。
 だがあの洞窟に帝国兵がまだいるんじゃないかっていう不安もあったので、まずはコウを先行させ様子を見て来て貰った。
 どうやら大勢が移動した跡があったとかで、彼らは出て行った後のようだ。

 ここにやって来たのは他でもない。ゴーストでも装備できる武具があるからだと。
 聞いてみてなるほどとは思ったが、本当に大丈夫なんだろうか。

「それで、魔法や銀製の武具だとゴーストでも触れるってのは理解できるんだけど、それって触る=ダメージになるんじゃないのか?」

 アブソディラスの言う『装着できる武具』というのが、魔法が付与された武具だったり銀製の武具だったり。
 でもそういう武具って俺が知る限り、対アンデッド武具なんじゃなかろうか。
 そういう設定はコンシューマーゲームやオンラインゲームにもあったし、漫画や小説、アニメに映画と、あらゆる媒体でもお馴染みの設定だ。あとは聖水に弱いとかな。
 それを装備するって、着てる傍からダメージ受けまくりなんじゃ?

『そのままじゃとそうじゃな。着用すれば浄化されるかもしれぬの』
『『ひいいぃぃぃぃっ!』』

 アンデッド軍団が悲鳴を上げると、洞窟内に響き渡って耳がいたい。
 あの王子一行が残っていたら、今の悲鳴でバレていたところだな。

 岩の隙間を縫うようにして進み、俺が天井を破壊した場所へとやってくる。
 器用に一部の岩だけをどうにかして砕き、道を作ったみたいだな。

『なんでこんなことになったんっすかね?』
『よっぽどの力がなければ、こんな大きな洞窟の天井を崩せないわよ』
『ドラゴン様のお力ですかの~?』

 アンデッド軍団が俺の頭上――アブソディラスを奇異な眼差しで見つめる。

「崩落させたのはレイジくんよ。信じられないぐらい規格外な魔力でやったんだから。さ、奥に行きましょう」
『ゆ、勇者様が……』
『さすが勇者様』
『さす勇』

 アンデッド軍団が、今度は俺を尊敬の眼差しで見る。

『なんじゃ……この扱いの差はなんじゃ!』
『だって勇者様はご主人様ですもの』
『勇者様至上主義っすから』
『差別じゃあぁぁぁぁっ』

 アブソディラスの悲痛な叫びが洞窟内に木霊した。
 頭の上のあれは無視して……いつまでに勇者様って呼ばれるのも苦痛だな。
 だって俺は追放された身だし。

「ってことでさ、勇者様禁止ね」
『えぇーっ! それじゃあなんて呼べばいいんっすか!?』
『じゃあ、ボ・ウ・ヤ』
「却下。普通にレイジでいいからさ」
『『わかりましたレイジ様!』』

 ……様もいらない。
 その後もアンデッド軍団による珍道中は続く。
 石に躓いたスケルトンが頭蓋を落とすと、それをゾンビが蹴飛ばし全員で追いかける。
 拾おうとしたチェルシーの手をすり抜け、頭蓋は転がっていく。
 
 おいおい、転がってる頭蓋の数、増えてないか?
 ようやく全ての頭蓋が揃っても、嵌め間違いなんかも起こって大騒ぎだ。
 こんなの事情を知らない人に見られたら、大変だぞ。

 てんやわんやとようやくあの場所へと辿り着いた。
 俺がこの世界に初めてやってきた場所であり、アブソディラスが殺された場所だ。

『あっちの壁じゃ』
「壁に何かあるの――う……」

 マズい……金縛りか……何か……何か禍々しいモノがこっちを見ている。
 憑りつかれる。きっと目を合わせれば確実に憑りつかれる。
 だから見てはダメだ。

 全身の毛が逆立ち、身震いするほどの冷気を感じる。
 周辺の空気が一気に下がっていくようだ。

「な、なに? 急に寒く……」
「あぁ、ソディアも……感じる、んだ? でも、目、合わせちゃダメだからね。何か言われても、答えないように、ね」
「ど、どういうこと?」

 目の前の肉塊から目を逸らし、彼女の手を掴んで一歩ずつ後ずさる。
 そして回れ右して――。

『あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛。ムカつくうぅぅっ』
『あんの糞王子め! 俺らを騙しやがってぇ』
『冒険者は使い捨てのコマだぁ? ぶっ殺すぞ!』
『ムカツクムカツクムカツクムカツクゥゥゥゥゥ』

 で、出て来やがった!
 冒険者、だったのかこの怨霊たちは。
 ソ、ソディアは?
 あ、ダメだ。まともに見ちゃってる。
 服の袖を引っ張ってみるが、反応が無い。

『ぬぅ。怨念が強すぎて、死霊使いの素養の無い者にまで見えておるのぉ。ミタマよ、これは払うか、使役するしかないぞい。主はまだしも、そこな娘はこのままじゃと憑りつかれてあちら側に――』
「げっ。それダメじゃん!」

 くるりと踵を返し、俺は意を決して声を上げる。

「冒険者たちよっ!」

 一斉に振り向く怨霊化した冒険者たち。
 うわぁお。アズの村人アンデッド軍団より多いじゃないですかやだなぁもうっ。
 全身にどろどろとした黒い靄なんか纏ったりして、立派な怨霊じゃないか。
 しかもさすが冒険者だ。
 怨霊化してても装備がしっかりしてるっていうね。
 これ、装備持ったまま死んだ場合は、その装備も霊体化するのか。装備いらずでいいなぁ。

「じゃなくって――、おい、お前らよく聞け!」
『あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛』

 すぅっと息を吸い込み、俺は唱える。

「成仏してください成仏してください成仏してくださぁぁぁいっ!」
『『だが断るだが断るだが断るぅぅぅぅっ!』』

 成仏してくださいバリア発生!?
 マ、マジかよ。こんなこと、今までなかったのに。

『浄化は失敗かのぉ。ならば――』
「わ、わかった。"現世に未練、恨みを残す彷徨える怨霊よ。我に従い、その恨みの力を我に授けよ"はぁぁいっ」

 呪文をいつもより気合を入れて唱える。

『主よ……何故「はいっ」を入れるのじゃ……』
『もう癖っすね』

 五月蠅い。放っとけ。
 はいっが入ろうがなんだろうが、呪文の効果はあった。
 騒いでいた怨霊たちがぱたりと静まり返り、身に纏っていたどろどろとした靄が晴れていく。
 そして――。

『『我らの力、なんなりとお使いください』』

 ――敬礼していた。
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