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3:そんなに見ないでよ
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「はぁ、はぁ……ま、まだ走るのか?」
「そう……ね。洞窟は塞がっちゃったし、奴らも死んじゃっているでしょうから大丈夫ね」
……俺、人を殺してしまったのか?
自分の手を見つめるが、実感が全くない。
崩れ落ちる洞窟から脱出した俺たちは、山の斜面を暫く駆け下り、そして今ようやく足を止めた。
あんなことしてしまったんだ。ただでは済まないだろうな。
とはいえ、洞窟が塞がったのなら直ぐに追いかけられることもないだろう。
いそいそと制服の上着を脱いでそれを彼女に向け差し出す。
「これ……腰にでも」
「え……やっ」
今更自分の姿を思い出したのか。
奪うようにブレザーを受け取ると、そのまま下半身を隠してうずくまってしまった。
大勢の兵士に囲まれても、気丈に振舞ってみたり、顔真っ赤にして恥ずかしがったり……。
女の子って、不思議だよな。
しばらくして落ち着いたのか、ブレザーを腰に巻き付け袖で結ぶと――。
「た、助けてくれたことと、服のことにはお礼を言うわ。……ありがとう」
「あー……気にしないで。実際俺も、洞窟を追い出された後どうなったかわからないし」
殺されていたかもしれない。
「それで、あなたは何者なの?」
そう尋ねて彼女は鋭い視線を向けてくる。
さっきまで「やっ」とかって、可愛い声で悲鳴を上げていた子とは思えないこの鋭さ。
「私の質問に答えなさい。あなたは何者? 帝国兵と何故洞窟にいたの?」
『おほー。気の強い娘っ子じゃのう』
「五月蠅い!」
「五月蠅いですって!」
「やっ、違う。違うんだっ」
まずは誤解を解かなきゃ。
「お、俺の名前は魅霊 霊路。高校三年生で、体育館を出たら突然――」
突然洞窟の中にいた。
俺自身にわかることを全部彼女に話す。
帝国の王子というのが俺を召喚したこと。その生贄にあの洞窟に死んでいたっぽいドラゴンが使われたこと。
俺の適正職占いで出たのが死霊使いだってこと。
そして、体よくポイ捨てされたことを。
「ぁ……生贄に……された?」
「あぁ、うん。ドラゴンがね」
「そんな……嘘……」
急に膝を落としてわなわな震え始める彼女。
『やはり冒険者かのぉ。たまにの、儂の住処に来ては、名声のために挑もうとする冒険者がおるんじゃよ。まぁほとんどの場合、洞窟内におるモンスターどもが片付けてくれるんじゃがの』
「片付けるって……それまさか殺してるってことか?」
『うむ。主だって生きるために肉は食うじゃろう?』
「ま、まぁ……」
そう言われると反論も出来ない。
「ねぇ……誰と話しているの?」
怪訝そうな顔で彼女がこちらを見つめている。
……見えて……ない?
異世界人でも幽霊が見えないのか?
そ、そりゃあそうか。自分たちが殺したであろうドラゴンの霊が目の前にいたんじゃ、落ち着いていられる訳がない。
異世界でも俺の霊媒体質は稀有な存在なんだな。
「ねぇ……」
「ごめん。えっとね、俺の肩にはさ、生贄にされたドラゴンの霊が憑いているんだ」
「……え?」
「だからね……。俺、幽霊が見える体質で、それで……憑りつかれたんだ」
二度説明しても首を傾げ、俺を不思議そうな目で見つめてくる。
あぁ、明るい日差しの下で見ると、彼女の髪の毛って緑掛かった銀髪なんだな。
その目は紅色をしていて……ん?
頭上にいるドラゴンの目も赤いな。
でも彼女の目のほうが断然綺麗だよ、うん。
プロポーションも抜群だし、男が百人いたら、九十九人が振り向くような美人だ。
なお、残りひとりはデブ専が混じっていたと考えてもらえればいい。
首を傾げたままの彼女が、ようやく口を開く。
「……あなたの背後に、古代竜がいるの?」
「そう」
「異世界人なのよね?」
「う、うん」
「その古代竜の名前は? 知ってる? 知らないなら聞いてみて」
『儂の名前はアブソディラスじゃ。古の神々によって創造された、伝説の――』
「アブソディラスだって。黒光りした巨大な――あれ? そういえば小さくなってる?」
俺の頭上にいるドラゴン――アブソディラスは、最初に見たときの一戸建ての家を二軒、縦に並べた様なサイズだった。
なのに今は俺より少し大きいぐらい?
『元のサイズじゃったら、主と話すときも目線を合わせられんじゃろ。死霊になってサイズも自由自在じゃしの、便利なサイズにしたんじゃ』
「――とアブソディラスが言ってるんだ」
俺の話を聞いた彼女は額を抑え、頭痛でもするかのような仕草をしている。
まぁ……非常識な話だとは思っている。
そもそも俺の今の現状が非常識そのものなのだし。
「わかったわ。君の言うことを信じましょう」
「ほっ。よかった」
「私はソディア。この通り冒険者よ――冒険者って、わかる?」
「うん、まぁその辺なら」
アニメや小説、ゲームなんかでも馴染みのある単語だしね。
たぶん、想像通りだろう。
「それと……ごめんなさい。急に怒鳴ったりして」
「い、いや、いいんだ」
「本当にごめんな――あら? どうしたのその背中。怪我でもしたの?」
背中……あっ。そういえば、さっき帝国兵に槍で突かれて!
そう思ったら急に背中が……いや、全然痛くない。
その背中を彼女がペタペタ触る。
「おかしいわね……血が滲んでいるみたいなのに、どこにも傷がないわ」」
「え?」
『自然治癒しただけじゃろ』
頭上のアブソディラスがさも当たり前そうな顔で言う。
自然治癒って……いやいやいや。
「あなたの世界の人間は、自然治癒能力が高いのかしら?」
「ないないないない。何かで切ったぐらいの傷だって、塞がるのに数日はかかるはずだ」
「え……でも、どこにも怪我なんて」
そうだ。制服に穴でも開いていれば――そう思って俺の制服――を巻いたソディアの下半身を見つめる。
「や、やだっ。そんなに見ないでよ、恥ずかしいじゃないっ」
「あ、ご、ごめん。さっき服の上から槍で突かれたからさ、穴でも開いてるんじゃないかと思って」
「穴? 確かにシャツには穴があるわ……本当に回復しちゃってるの!? 信じられない」
俺も信じられないよ。
「と、とにかくここを離れましょう。君の話だと、帝国兵はまだいっぱいいるようだし」
「そ、そうだね。なんか最初に殺すとか言ってて物騒だったし」
「死霊使いだから……でしょうね。でも、異世界から召喚してきて、それだけで殺そうとするかしら?」
「その死霊使いって、そんなにヤバい職業なのか?」
「そうね……異世界から来たんじゃ、何も知らなくても仕方ないわね。それじゃあ歩きながら話しましょう」
山を下りると今度は森だった。
人が通れるような整備された道ではなく、ソディアは獣道を進もうと提案した。
万が一、待機している帝国兵がいたら、間違いなく道にいるからだ。
「獣道を通ればモンスターにも出くわすけど、私が戦うから大丈夫よ」
「え、俺もさっきの力で戦え――」
「ダメ! 異世界からきて初めての魔法だったんでしょ? それであの破壊力なんて、尋常じゃないわよっ」
「そ、そんなに……」
いや、確かに洞窟の天井を吹き飛ばしたけどさぁ。
『儂が教えた魔法はの"爆炎"とゆうて……本来は中の下ぐらいの威力の魔法なんじゃ。壁や天井を破壊するような、そんな力はないはずなんじゃ』
「いい? "爆炎"の魔法は火属性よ。火属性は土や岩に対してあまり効果がないの。にもかかわらず、あなたま魔法でそれらを破壊したの。普通じゃ考えられないんだからっ」
「ご、ごめん……」
やっぱり俺は、マップ破壊兵器だったらしい。
道中彼女から聞いた話だと、死霊使いは魔法使い――こっちの世界だと魔術師、その格上バージョンが魔導師と呼ばれていて、その魔導師の派生職業のようなものだと。
普通に魔法が使えるし、どちらかと言えばその道に精通した者だともされている。
ただ問題なのが、その名の通り死霊を使役するという点だ。
死人の魂しか使役できない。だから殺す。
そして殺した相手を使役し、更に使者を増やして自分の軍勢を作り上げていく。
死霊術は禁忌とされた魔法であり、だからこそ一般的には邪悪な存在だと。
「好きで死霊使いになった訳じゃないのに……」
「どうしてそんな不吉な職業に適正があったのかしら……私も詳しい訳じゃないけど、勇者召喚魔法で召喚された人って、元の世界での特技とか性格とか、何かしらに共通する職業になるって」
「……霊媒体質か」
肩を落とし足場の悪い獣道を進んで行くと、前方の茂みが揺れた。
すかさずソディアが剣を抜き、飛び出してきた兎を一刀両断にした。
兎なんだけど……一メートル以上あるだろ?
しかも斧とか持ってんだけど、異世界の兎ってどうなってんだ!?
「モンスターを見るのは初めてみたいね。いなかったの? 君の――その、レイジくんの世界には」
「いやいや、いないから。モンスターもドラゴンも、あと魔法も存在しない世界だから」
「そう……なの。じゃあ、これからいろいろ大変ね」
あぁ……うん。大変だな。
これから俺、どうしよう。
『なぁに。この伝説の古代竜アブソディラス様が憑いておる! 安心せいっ』
「成仏してくれないかな、このドラゴン」
『ふんっ。成仏させたければ、儂の願いを叶えることじゃな』
願い?
それって未練ってやつじゃないのか?
たいていの幽霊は、未練を残して死んだ人の霊だったりするからなぁ。
未練が無くなれば成仏するっていうのは、定番ネタではあるけれど。
「願いって、なんだよ」
頭上を仰がず、出来るだけ目を合わせないよう尋ねる。
その頭上から鼻息が聞こえて――。
『人をさが――いや、世界を旅することじゃ!』
と奴が言う。
……え。
思わず振り仰いで見たモノは、両手を腰に、ドヤ顔で鼻を鳴らすアブソディラスの姿だった。
「そう……ね。洞窟は塞がっちゃったし、奴らも死んじゃっているでしょうから大丈夫ね」
……俺、人を殺してしまったのか?
自分の手を見つめるが、実感が全くない。
崩れ落ちる洞窟から脱出した俺たちは、山の斜面を暫く駆け下り、そして今ようやく足を止めた。
あんなことしてしまったんだ。ただでは済まないだろうな。
とはいえ、洞窟が塞がったのなら直ぐに追いかけられることもないだろう。
いそいそと制服の上着を脱いでそれを彼女に向け差し出す。
「これ……腰にでも」
「え……やっ」
今更自分の姿を思い出したのか。
奪うようにブレザーを受け取ると、そのまま下半身を隠してうずくまってしまった。
大勢の兵士に囲まれても、気丈に振舞ってみたり、顔真っ赤にして恥ずかしがったり……。
女の子って、不思議だよな。
しばらくして落ち着いたのか、ブレザーを腰に巻き付け袖で結ぶと――。
「た、助けてくれたことと、服のことにはお礼を言うわ。……ありがとう」
「あー……気にしないで。実際俺も、洞窟を追い出された後どうなったかわからないし」
殺されていたかもしれない。
「それで、あなたは何者なの?」
そう尋ねて彼女は鋭い視線を向けてくる。
さっきまで「やっ」とかって、可愛い声で悲鳴を上げていた子とは思えないこの鋭さ。
「私の質問に答えなさい。あなたは何者? 帝国兵と何故洞窟にいたの?」
『おほー。気の強い娘っ子じゃのう』
「五月蠅い!」
「五月蠅いですって!」
「やっ、違う。違うんだっ」
まずは誤解を解かなきゃ。
「お、俺の名前は魅霊 霊路。高校三年生で、体育館を出たら突然――」
突然洞窟の中にいた。
俺自身にわかることを全部彼女に話す。
帝国の王子というのが俺を召喚したこと。その生贄にあの洞窟に死んでいたっぽいドラゴンが使われたこと。
俺の適正職占いで出たのが死霊使いだってこと。
そして、体よくポイ捨てされたことを。
「ぁ……生贄に……された?」
「あぁ、うん。ドラゴンがね」
「そんな……嘘……」
急に膝を落としてわなわな震え始める彼女。
『やはり冒険者かのぉ。たまにの、儂の住処に来ては、名声のために挑もうとする冒険者がおるんじゃよ。まぁほとんどの場合、洞窟内におるモンスターどもが片付けてくれるんじゃがの』
「片付けるって……それまさか殺してるってことか?」
『うむ。主だって生きるために肉は食うじゃろう?』
「ま、まぁ……」
そう言われると反論も出来ない。
「ねぇ……誰と話しているの?」
怪訝そうな顔で彼女がこちらを見つめている。
……見えて……ない?
異世界人でも幽霊が見えないのか?
そ、そりゃあそうか。自分たちが殺したであろうドラゴンの霊が目の前にいたんじゃ、落ち着いていられる訳がない。
異世界でも俺の霊媒体質は稀有な存在なんだな。
「ねぇ……」
「ごめん。えっとね、俺の肩にはさ、生贄にされたドラゴンの霊が憑いているんだ」
「……え?」
「だからね……。俺、幽霊が見える体質で、それで……憑りつかれたんだ」
二度説明しても首を傾げ、俺を不思議そうな目で見つめてくる。
あぁ、明るい日差しの下で見ると、彼女の髪の毛って緑掛かった銀髪なんだな。
その目は紅色をしていて……ん?
頭上にいるドラゴンの目も赤いな。
でも彼女の目のほうが断然綺麗だよ、うん。
プロポーションも抜群だし、男が百人いたら、九十九人が振り向くような美人だ。
なお、残りひとりはデブ専が混じっていたと考えてもらえればいい。
首を傾げたままの彼女が、ようやく口を開く。
「……あなたの背後に、古代竜がいるの?」
「そう」
「異世界人なのよね?」
「う、うん」
「その古代竜の名前は? 知ってる? 知らないなら聞いてみて」
『儂の名前はアブソディラスじゃ。古の神々によって創造された、伝説の――』
「アブソディラスだって。黒光りした巨大な――あれ? そういえば小さくなってる?」
俺の頭上にいるドラゴン――アブソディラスは、最初に見たときの一戸建ての家を二軒、縦に並べた様なサイズだった。
なのに今は俺より少し大きいぐらい?
『元のサイズじゃったら、主と話すときも目線を合わせられんじゃろ。死霊になってサイズも自由自在じゃしの、便利なサイズにしたんじゃ』
「――とアブソディラスが言ってるんだ」
俺の話を聞いた彼女は額を抑え、頭痛でもするかのような仕草をしている。
まぁ……非常識な話だとは思っている。
そもそも俺の今の現状が非常識そのものなのだし。
「わかったわ。君の言うことを信じましょう」
「ほっ。よかった」
「私はソディア。この通り冒険者よ――冒険者って、わかる?」
「うん、まぁその辺なら」
アニメや小説、ゲームなんかでも馴染みのある単語だしね。
たぶん、想像通りだろう。
「それと……ごめんなさい。急に怒鳴ったりして」
「い、いや、いいんだ」
「本当にごめんな――あら? どうしたのその背中。怪我でもしたの?」
背中……あっ。そういえば、さっき帝国兵に槍で突かれて!
そう思ったら急に背中が……いや、全然痛くない。
その背中を彼女がペタペタ触る。
「おかしいわね……血が滲んでいるみたいなのに、どこにも傷がないわ」」
「え?」
『自然治癒しただけじゃろ』
頭上のアブソディラスがさも当たり前そうな顔で言う。
自然治癒って……いやいやいや。
「あなたの世界の人間は、自然治癒能力が高いのかしら?」
「ないないないない。何かで切ったぐらいの傷だって、塞がるのに数日はかかるはずだ」
「え……でも、どこにも怪我なんて」
そうだ。制服に穴でも開いていれば――そう思って俺の制服――を巻いたソディアの下半身を見つめる。
「や、やだっ。そんなに見ないでよ、恥ずかしいじゃないっ」
「あ、ご、ごめん。さっき服の上から槍で突かれたからさ、穴でも開いてるんじゃないかと思って」
「穴? 確かにシャツには穴があるわ……本当に回復しちゃってるの!? 信じられない」
俺も信じられないよ。
「と、とにかくここを離れましょう。君の話だと、帝国兵はまだいっぱいいるようだし」
「そ、そうだね。なんか最初に殺すとか言ってて物騒だったし」
「死霊使いだから……でしょうね。でも、異世界から召喚してきて、それだけで殺そうとするかしら?」
「その死霊使いって、そんなにヤバい職業なのか?」
「そうね……異世界から来たんじゃ、何も知らなくても仕方ないわね。それじゃあ歩きながら話しましょう」
山を下りると今度は森だった。
人が通れるような整備された道ではなく、ソディアは獣道を進もうと提案した。
万が一、待機している帝国兵がいたら、間違いなく道にいるからだ。
「獣道を通ればモンスターにも出くわすけど、私が戦うから大丈夫よ」
「え、俺もさっきの力で戦え――」
「ダメ! 異世界からきて初めての魔法だったんでしょ? それであの破壊力なんて、尋常じゃないわよっ」
「そ、そんなに……」
いや、確かに洞窟の天井を吹き飛ばしたけどさぁ。
『儂が教えた魔法はの"爆炎"とゆうて……本来は中の下ぐらいの威力の魔法なんじゃ。壁や天井を破壊するような、そんな力はないはずなんじゃ』
「いい? "爆炎"の魔法は火属性よ。火属性は土や岩に対してあまり効果がないの。にもかかわらず、あなたま魔法でそれらを破壊したの。普通じゃ考えられないんだからっ」
「ご、ごめん……」
やっぱり俺は、マップ破壊兵器だったらしい。
道中彼女から聞いた話だと、死霊使いは魔法使い――こっちの世界だと魔術師、その格上バージョンが魔導師と呼ばれていて、その魔導師の派生職業のようなものだと。
普通に魔法が使えるし、どちらかと言えばその道に精通した者だともされている。
ただ問題なのが、その名の通り死霊を使役するという点だ。
死人の魂しか使役できない。だから殺す。
そして殺した相手を使役し、更に使者を増やして自分の軍勢を作り上げていく。
死霊術は禁忌とされた魔法であり、だからこそ一般的には邪悪な存在だと。
「好きで死霊使いになった訳じゃないのに……」
「どうしてそんな不吉な職業に適正があったのかしら……私も詳しい訳じゃないけど、勇者召喚魔法で召喚された人って、元の世界での特技とか性格とか、何かしらに共通する職業になるって」
「……霊媒体質か」
肩を落とし足場の悪い獣道を進んで行くと、前方の茂みが揺れた。
すかさずソディアが剣を抜き、飛び出してきた兎を一刀両断にした。
兎なんだけど……一メートル以上あるだろ?
しかも斧とか持ってんだけど、異世界の兎ってどうなってんだ!?
「モンスターを見るのは初めてみたいね。いなかったの? 君の――その、レイジくんの世界には」
「いやいや、いないから。モンスターもドラゴンも、あと魔法も存在しない世界だから」
「そう……なの。じゃあ、これからいろいろ大変ね」
あぁ……うん。大変だな。
これから俺、どうしよう。
『なぁに。この伝説の古代竜アブソディラス様が憑いておる! 安心せいっ』
「成仏してくれないかな、このドラゴン」
『ふんっ。成仏させたければ、儂の願いを叶えることじゃな』
願い?
それって未練ってやつじゃないのか?
たいていの幽霊は、未練を残して死んだ人の霊だったりするからなぁ。
未練が無くなれば成仏するっていうのは、定番ネタではあるけれど。
「願いって、なんだよ」
頭上を仰がず、出来るだけ目を合わせないよう尋ねる。
その頭上から鼻息が聞こえて――。
『人をさが――いや、世界を旅することじゃ!』
と奴が言う。
……え。
思わず振り仰いで見たモノは、両手を腰に、ドヤ顔で鼻を鳴らすアブソディラスの姿だった。
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