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3章

第──43

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「本日は薬草がメインだったのですね。えぇっと──5500ルブとなりました」
「おぉ。結構いい金額になったな」
「質の良いものが揃っていましたので」

 そのあたりはリシェルやシェリルのお墨付きでもあった。やっぱりエルフの森の薬草は高価なんだな。

「空、せっかく冒険者になったんだし、依頼っていうのを受けてみない?」
「私も賛成です。依頼を受けるってどういうものなのか、体験してみたいです」
「体験……んー、まぁいいか。どうせなら──ライナさん、この近くで瘴気が出ている場所なんてないですか?」
「瘴気……もしかして、狂暴化したモンスターを倒したいっていうのですか?」

 いや、そうじゃないんだけども。

「あまりお勧めしませんよ。ゴブリンの変異種を倒したとはいえ、ゴブリンは元々雑魚《・・》の中でも雑魚《・・》ですから」
「雑魚って、めちゃくちゃ強調しますね……」
「えぇ。雑魚《・・》ですから」

 ちょっとゴブリンの同情してしまう。
 ライナさんは俺たちを心配して、瘴気が発生している場所へは行かないようにと注意する。

「あぁそうです。以前、空さんがいらしたときに不思議な現象がありまして」
「不思議な?」
「でもそれ以来発生していないので、調査もできなかったのですが。実は昨日、またその不思議現象が起きたんですよ」
「その調査をして欲しいと?」

 ライナさんは微笑み、その不思議現象について教えてくれた。
 なんでも前回俺がこの町に来ていた時に、街中ではあちこちで不可思議な現象が多発していたらしい。

「最初はあまり気にならなかったそうなんですが、実はあの時、町中の煙という煙が消えていたのですよ」
「煙が消えた?」
「はい。屋台で肉を焼く際に出る煙も、竈の煙も……そして火事の煙まで」

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ お れ か 。

「あと不思議なんですが、汚水の臭いが消えたり、何故かそれまで咳の多かった方が一時的に治まったり」

 やっぱり俺か!

「香ばしい匂いとかは消えてないんですよ。いったい何が原因なのか、それを知りたくて調べて欲しいんです」
「……はい」

 ちらりと後ろを振り返ると、リシェルとシェリルが爆笑していた。





「はぁ、犯人はお前さんだったのか」
「す、すみません。俺が重度の花粉症でして」
「かふんしょう?」

 煙が消えたり臭くなくなったり、咳が止まったり。その原因が俺であることを伝えると、ライナさんは慌ててギルドマスターを呼び出した。
 ギルドマスタールームで事情を説明することになって、空気清浄のことを説明。

 花粉症という診断はこの世界にはないようなんだよな。でも存在はしているっていう。

「なるほど。季節風邪か。うちの親父がそうだったが、春と秋には辛そうだったなぁ」
「俺は春夏秋冬関係なく、僅かな花粉にも反応していましたよ」
「あれは草木の花粉が原因だったのか。はぁー、なるほどね」

 他の人の花粉症対策になったり、汚水の臭いを消すのはいいことだが……困ることもある。

 火事の煙だ。

 これ消しちゃったら、火事が発生していることも気づかないし、火元がどこだかも分からない。
 さすがにマズいだろう。
 
 腐王をふっ飛ばした時もそうだったが、煙は立ち上る瞬間に浄化してしまっていた。
 たぶん、煙もまた有害なものだから浄化してしまっていたのだろうけど。

「そうだ。清浄化させる成分の調節も出来るようになったんだ。これからは花粉限定でスキルを使うようにします。あと範囲の指定かな」
「ふむ……咳を止めてくれるのはありがたい。町にいる間は、範囲を狭くする必要はないだろう」
「そ、そうですか? じ、じゃあ成分操作だけしておきますね」

 いざスキルを掛けなおすが、どうやって成分指定すればいいのやら。
 検証は難しくない。
 外で焚火を起こして貰えばいい。

 スキルを唱えるときに、花粉系のアレルギー反応の出るものだけを清浄してくれと意識する。
 それから試験会場でもあった建物の裏手で、ギルドマスターが適当な木材に火を点けた。

「お、煙がちゃんと出てるな」
「花粉のほうも大丈夫だと思います。俺がくしゃみしていませんから」
「よし、問題解決だな。あ、依頼料は支払わねーぞ。原因はお前だったんだからな」
「う、そう、ですよね。はい、すみません」
「はっはっは。まぁそう落ち込むな。その代わり、いい仕事を紹介してやるよ」

 建物へと戻った俺たちに、ギルドマスターが一枚の紙を持って来た。

「護衛の任務だが、要人護衛じゃねえ。積荷を王都まで運ぶ間の護衛だ」
「積荷ですか?」
「あぁ。果物なんだがな、それがまたくっせーのなんの」
「でもとっても美味しいんですよ」

 ギルドマスターの隣でライナさんは笑顔でそういうが、ギルドマスターは「うえぇ」と声を上げる。
 好き好きのある食べ物なんだろう。

「ただな。その食いモンの匂いってのが問題でな」
「そんなに臭いんですか?」
「いや、それもあるんだが。どうもモンスターが好む匂いなんだよ」

 なるほど。
 その匂いを俺のスキルで消臭し、モンスターを寄せ付けないようにして町まで運べばいいのか。

「まぁ匂いのこともあってな、依頼料は結構いいんだよ」
「その果物自体が高級だっていうのもありますしね」

 高級──果物──臭い。
 なんかそんな果物、知っている気がする。

 その仕事を受け、ギルドマスターからの紹介状を持って依頼主のいる村へと到着したのはそれから二日後。

 村の外れに果汁園があって、護衛である俺たちが到着してから収穫するという。
 村人が一日かけて収穫してきたのは、緑色のトゲトゲが生えた楕円形の物──まさにドリアンだった。

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