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3章

第──41

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「うむ。転移魔法の印は、どうやら他にはないようだ」
「それはよかった」

 俺たちが召喚された場所を中心に、二日ほどかけて長老が魔力の流れを探ってくれた。
 その結果、印はどこにもなく、最初の一つだけだったようだ。
 これで奴らが魔法ひとつでこの森へやってくる心配はなくなった。

 けど、世界から瘴気はなくならないという。
 なんてことだ。
 瘴気はまるで花粉だ。害でしかない!
 やつらがそこかしこに浮遊している……そう思っただけでなんかイライラしてきた。

 俺は世界を浄化──いや、清浄する!

『きゅきゅ?』
「毛玉。俺はこの世界をクリーンにするぜ」
『……ぎゅ?』

 なにお前バカなこと言ってんの──そんな幻聴が聞こえてきそうな毛玉の表情。

「空、どうしたのよ」
「何か思いついたのですか?」

 リシェルとシェリルが揃ってやってきた。

「うん。俺、せっかく授かったこのスキルで、世界中の花粉を消し飛ばしてやりたいと思って」
「「……え?」」
「や、違った。世界中の瘴気を消し飛ばしてやりたいだ。さっきのナシにしてっ」

 花粉に置き換えていたもんだから、思わず間違ってしまった。
 まぁ正直、世界中から花粉を消し飛ばしたい気持ちはある。あるけど、草木がある限りそれは無理。そして草木がなければ生き物は生きていけない。

 そのうち、花粉症による花粉症のための空気清浄機町とか作って、花粉で苦しむ人たちを助けたいな。

「瘴気を消し飛ばすか……空殿になら可能な話だな」
「長老」
「旅!? わたしは賛成よっ。大森林以外の、もっと広い世界を見てみたいわ」
「わ、私も……私も、空さんと一緒に世界を見て回りたい、です」
「あ、ちょっとリシェルずるい! わたしだって空と一緒がいいに決まっているもの!」

 右と左から、リシェル・シェリルにぐいぐい引っ張られる。
 そして足元では『きゅうぅぅぅ』と必死に体をこすりつけている毛玉が。

「はっはっは。二人と一匹にそこまで好かれるとは、男冥利に尽きるではないか」
「いや長老。リシェルとシェリルはいいとして、足元のこいつは雄ですから!」
「……雄だからと言って差別はいかん。愛はみな等しく平等に」

 なにわけの分からないこと言ってんだこの人はぁーっ!





「このリュック、どのくらい入るのかしら?」
「収納品の一覧は、横に5マス、縦に……15マスあるよ」
「では75個ですね」

 学校から一緒に召喚された俺のリュック。
 ゲームのようなアイテムボックス的なものだけれど、少しだけ違う点がある。

 ゲームであれば同じアイテムは1枠にスタックできるが、俺のリュックはなんであろうが1つにつき1枠消費される。
 リンゴを2個入れれば、使う枠は2つだ。

 だがこの消費枠を節約する方法もあった。

「じゃあこれがわたしの衣類箱ね」
「私のはこっちです」

 地球でお目にかかれる衣装ケースの木製版だ。その中には下着から着替えまで、何着分も入っている。
 リュックの口に木箱の角を入れれば、あとはしゅるっと吸い込まんでくれる。
 中身はたくさんだが、枠の消費は一つだけ。

「俺の分は町でまた買わなきゃなぁ」
「やっぱり空の下着は、あいつらが使ったのかしら」
「あちらは全員、男性でしたものね」
「空のパンツ……穿いていたってことよね」
「そうですわね」

 止めてくれ!
 変な想像するじゃないかっ。

 他にも野菜や果物、干し肉などもそれぞれ箱に詰めてリュックの中へ。
 寝具にテントも忘れてはいけない。

「荷物はこんなものかな?」
「そうですね。リュック、大丈夫ですか?」
「あぁ。小さいものは木箱にまとめて入れあるし、20枠ぐらいしかまだ使ってないよ」
『きゅっきゅ』

 足元で毛玉が何かを咥えてやってきた。
 これも入れろっていうのか?

 毛玉が持って来たものは──ニンジンだ。

「毛玉……」
『きゅうううぅぅぅっ』
「悲痛な声で鳴くな!」
『ぎゅうううぅぅっ』
「今度は威嚇か! 威嚇なのか!!」

 一歩も引こうとしない毛玉だが、ここで大事なことを伝えなければならない。

「毛玉ちゃん用のご飯も、たっくさん入れていますよ」
「そうよ、毛玉。そのニンジン、ここで食べちゃいなさい」
『きゅっ!? ガッガッガッガッガッガ』

 目を輝かせて咥えたニンジンをお召し上がりになりやがった。

 小山たちの事件から半月後。俺たちは旅に出ることにした。
 この半月の間で畑を拡張。木の苗も植え、家の周辺も少しは森らしくなった。
 畑はノームに任せ、水やりはウンディーネの仕事にしてある。
 育った野菜はエルフの里で必要なら自由に持って行って貰い、必要ないものは動物たちにお裾分け。

 ある程度作業も完了し、ようやく旅の支度ができるようになったのが昨日だ。

「じゃあノ―ム、ウンディーネ。頼んだぞ」
『むっ』
『こぽぽ』

 精霊たちに別れを告げ、俺たちは新居を後にする。
 まずは冒険者ギルドのあるオヌズの町だ。
 そこで俺の着替えを買いなおす!

 家が小さくなるにつれ、リシェルとシェリルが後ろを振り返る回数が増えてきた。
 やっぱり生まれ育った森を離れるのは、寂しいんだろう。

 こういう時車があれば、数日遠出して、また戻って来てなんて暮らしもできるのだけれど。

「リシェル、シェリル。時々は帰るようにしよう」
「え? で、でもそんなことしたら、遠くまで旅ができないじゃない」
「そ、そうです。私たちのことはお気になさらず、遠くまで行きましょう」
「でも……」

 言葉を続けようとしたとき、俺の顔の横からにゅっと現れた者はいた。

「心配ない。これをやろう」
「ひいぃっ!?」

 気配を感じて慌ててその場を離れると、

「私だ、私」

 と言って長老が立っていた。

「この指輪を空殿にやろう」
「指輪?」
「最初に行っておく。愛を誓うための指輪ではない」
「聞いてないしそんなこと!」

 だからこの世界のエルフはどうなってんだ!!

 

 
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