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2章

第──40

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 生命の樹の近くに、立花の墓を作った。
 花の種を植え、ノームに頼んで咲かせてもらった小さな花たち。

 せめて彼の魂が、日本へ戻れますように。

 俺にはそう祈ることしかできない。

「さ、開けた穴も塞がないとな」

 立花の他にも、小山たちに置いていかれた者が三人。
 精霊使いと騎士っぽい男たちだが、立花を埋葬したあとになって確認すると、既にこと切れた後だった。
 できればいろいろ聞き出したかったのだけれど。

「そうですね。ノーム、お願い」

 精霊使いや騎士の遺体のある穴も綺麗に埋めて貰う。
 花は必要ないだろう。

「空、これからどうするの?」
「んー……」

 まずは長老のところへ行く。毛玉を見て貰うために。
 それから……どうしようか。

 俺たちを召喚した国がセイドリアってのは分かった。
 分かったからどうするのかという話でもある。

 隣国と戦争をしようとしているらしいが、セイドリアってどこにある国なんだろうな。

「二人はセイドリアって国を知っているかい?」
「セイドリア……き、聞いたことがあるような、ないような?」
「セイドリア王国は、ここからずっと北東の方角にあります。えぇっと、描きますね」

 そう言ってリシェルが小石を拾って、地面に描き始めた。
 描かれた地図はアメリカ大陸のように上下に分かれたもの。その北の部分を東にびろーんっと伸ばした感じだ。

「私たちの住む大森林がここです」
「南側の中央付近か」
「はい。セイドリアがここなんです」

 北側の大陸の、かなり東よりだな。ずいぶん遠い。
 それを知って、俺はどこかほっとした。





 翌朝、エルフの里でフロイトノーマ長老に毛玉を再び診てもらった。
 その結果──

「従属の契約はされていない」
「え? でもこいつ、山岡に──」
「まぁ待て。今契約がされていないということは、契約者が故意に解除したか、もしくは死んだかだ」
「あ……」

 俺は山岡のことを思い出した。
 小山に左腕を切り落とされ、胸も斬られた。
 出血多量で死んだとしてもおかしくはない。
 それに、一瞬とはいえ200度の温度に晒されたんだ。生きてるほうが奇跡だろう。

「じゃあ毛玉は……その、一緒にいても大丈夫ですかね?」
「ふむ……完全に魔物化はしているが、魔物の全てが狂暴という訳ではない。それに、空殿の空気清浄で過剰な分の瘴気は消滅している」

 元の動物に戻すことはできないが、狂暴化もしないだろう。
 逆に魔物化したことで、知能が高くなっているようにも見える。

 それが長老の出した答えだった。

「お前、頭がよくなったのか?」
『きゅっ』

 後ろ足で立ち上がると、もさもさな胸を張って見せる。
 おぉう、賢く(?)なってるぞ。

『きゅっきゅきゅ~』

 前足をもそもそ動かした毛玉。
 するとまさかまさかのステータスが浮かんだ!?

「お、お前。ステータスなんてあるのか!?」
『むっきゅっ』
「ほぉ、これは興味深い」
「え? 長老も知らなかったことなんですか?」
「動物や魔物にもステータスがあるとは思っていた。人にあるのだから、他の生物にあってもおかしくはないだろう。だが──」

 それを確認するためには、動物か魔物がそれを出しているのを見るしかない。
 ただ動物が自分のステータスを見ようと、そこまで考えが及ぶかって話もあると長老が話す。
 確かにそうだよな。動物がステータスを見て、どうするかってのもある。

『きゅっきゅ』
「なんだ、俺に見て欲しいのか?」
『きゅ~っ』
「そうかそうか。どれどれ」


 けだま 1歳 雄
 種族:パチパチ兎(魔獣化) LV3
 属性:雷
 筋力:34  体力:43  敏捷:198
 器用:62 魔力:174 幸運:315

●スキル●
 静電気ボール5


 なんか偏ったステータスだな。敏捷が高いのは兎ならではなんだろうけど。
 魔力も高いし、幸運……これはまた……。

「しかしお前……男だったのか」
『きゅっきゅっ』

 そうだと言わんばかりに、毛玉は前足を床に着いたり立ったりを繰り返す。
 種族はパチパチ兎のまま、魔獣化と書いてある。魔物じゃなくって魔獣なのか。
 獣……こいつが?

『きゅ?』

 いえ、ただの毛玉です。

 そして驚くべきことはもう一つ。

「お前の名前、毛玉で決定なんだな」
『きゅう~』

 頭をごりごりとこすりつけてくる毛玉だが、角ができたせいで少し痛い。

「パチパチじゃないのね」
「毛玉も本来名前じゃないですよね」

 シェリルとリシェルがじとーっとした目で見ている。
 いや、パチパチだって名前としてどうなんだってレベルじゃん。

「姿は少し変わったが、毛玉は毛玉のままでよかったよ」
『きゅぅうぅ』
「腐王も消滅したし、瘴気をだすものもなくなった。魔瘴石を作れる立花も……。だから、もう動物が魔物化する心配もないな」

 毛玉を抱き上げ高い高い。

「いや、腐王だけが瘴気を発しているわけではないぞ」
「邪神の眷属の遺体は、この世界にあと5体ありますから」
「それだけじゃないわ。人間が戦争を始めると、戦場にたくさんの死体が残るでしょ。魂を浄化させず放置していたら、それも瘴気を放つようになるの。でしたよね、長老?」

 うえぇぇ。
 じゃあ北東のセイドリア王国ってのは、瘴気をばらまこうとしているのか。
 なんて迷惑な国なんだ。




*******2章終わりです。*********

アルファって感想でもポイントが入るようです。
ツッコミ・ネタアイデアなんでもござれ!
もうちょっとHOTランキングに残っていたいので、応援よろしくお願いしますorz


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