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2章

第──37

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 昼食をとりながらどう罠を張るか話し合った。

「典型的なところだと、落とし穴だよな」
「ノームに頼んでおきますね」
「動物用の罠でもよければ、わたしも得意よ」
「お、じゃああっちこっちに設置するか」
「オッケー」

 他にできそうなこと……俺のスキルは90秒しか持たないし、空気中のごくわずかな範囲を弄るだけのもの。
 うん。罠にはならない。
 目視してピンポイントで狙わなきゃいけないしな。

 罠は二人に任せよう……。

 食後はノームが穴掘りと、同時にエルフ以外が近くにいたら知らせて貰うようにし、俺は毛玉の治療に当たる。
 ひたすら空気清浄をし続ける程度だけども。
 
「"空気清浄"──く……ん?」

 いつも出てくる緑のシャボン玉の中に、青いのが混ざってる?
 うぅん、こういう変化は……スキルレベルはカンストしているし、なんだろう?

「ステータスオープン……あ」


●スキル●
 空気清浄99★★ / 空気操作10
 空気の成分分析 /


 空気清浄のスキルの後ろの星が増えた?
 スキルの詳細はっと──


 自身の周辺とその他任意の範囲の空気を清浄化する。
 浄化する成分を任意操作することができる。
 

 任意?
 俺を中心だったのが、任意の範囲になったのか。
 浄化する成分を任意で操作ってことは、たとえば花粉は浄化しないとか選べるのか。

 ……選ぶわけないだろう!
 それだけか?
 それだけのためにわざわざ青いエフェクト出したのか?

 しょーもなっ。

 空気清浄の続きでもやるか。
 何度か毛玉に空気清浄をかけてやり、合間に乾いた洗濯物を片付け。
 そんなことをしていたらリシェルとシェリルが慌てた様子で戻って来た。

「来たわよっ」
「戻ってきたようですっ」





 風の精霊が教えてくれたという方角──エルフの里とは真逆の、町の方角からやって来たのは七人の男たち。
 そのうち三人の顔に見覚えがあった。

「小山、立花、それに山岡か。なにしに来たんだあいつら」
「空、知り合い?」
「あの若い三人は俺と同じ世界から一緒に召喚されてきた奴らだ。俺を……この森に捨てていったクラスメイト……」
「空さんを……では他の方々は、召喚主の家来さんでしょうか?」

 残りの四人。そのうち二人は魔術師っぽい服を着ていて、残り二人は騎士かなにかだろう。
 槍を持った全身鎧──確かに見覚えがある。

「あ、あそこにノームが穴を──」

 そうリシェルが言った瞬間。
 先頭を歩いていた騎士二人の姿が悲鳴とともに消えた。

「あ、穴!? おい、今朝はなかったよなっ」
「小屋の住人が戻って来たんじゃないの小山君。ま、マズイって、逃げようよ」
「うるせぇーっ立花。ぶっ殺すぞ!」
「ひぃっ」
「穴が深いですね。生きてはいますが、軽傷ではありますまい」

 ローブを着た男が何かごにょごにょと呟くのが聞こえる。
 もしかしてあれは──

「あの男の人、精霊使いですっ。ノームに命令をして、穴を底から押し上げようとしています」
「精霊使いが向こうにもいるのか。もうひとりの方は普通の魔術師かな?」
「たぶんそうでしょうね。空を召喚した奴らなら、森まで転移魔法で来ているだろうし」

 精霊魔法では転移系のスキルがない。だから必然的に彼らの移動には魔術師が必要になる。
 以前長老に聞いたけど、転移魔法は簡単なスキルの部類ではないのだとか。使える魔術師はそれなりの実力者だとも言っていた。

 鈴木は……まぁ腐王に気を取られていただろうし、そもそも腐王があいつを殺してしまったから、実力云々どころじゃなかったな。

 さて、どうしたものか。

 まず何故この森に来たのか、それを突き止めなきゃいけないんだが。

「くっ。な、何故精霊が言うことを聞かないのだ!?」
「はっ。てめーがマヌケだからだろう。けっ。落とし穴に嵌るような奴なんか、そのまま穴ン中で死んでろ」
「い、生きてるよ小山君」
「山岡、てめーも穴に落ちたいのか? あぁ?」

 小山、相変わらず弱い者いじめか。異世界に来てまでやってること変わらないって……。
 立花と山岡はいたって普通の生徒だ。まぁ自分が巻き込まれたくないから、いじめられっ子を助けるような人間でもない。見て見ぬふり。そういう奴らだ。
 特に小山と絡むことのなかった二人だけど、さすがに異世界に召喚されて一緒に行動すればそうもいかないか。
 嫌々二人は小山に従っているようにも見える。

「てめーら、俺の前を歩けっ」
「ひっ。お、小山君酷いよ」
「あぁ? 俺になんか文句あんのか?」

 小山が背負った大剣を構える。
 それを見て立花と山岡の二人が悲鳴を上げ、小山の前を歩き出した。
 立花が途中、畑の柵に手を掛け、それから──柵の一部が消えて、立花の手に長い棒が二本!?
 ど、どうなっているんだ?

「あれは錬金術よ。そこにある物の形を変えたり、数種類の素材を合成して新しい物を作ったりできるの」
「錬金術を使える者は多くはなく珍しいのですが、召喚された方なら納得かもですね」
「錬金……いいスキルだなぁ」

 立花と山岡がその棒で地面を突き、穴の有無を確かめながら進んで行く。
 なかなか慎重だな。

 だけどまぁ、穴を掘ったのは精霊な訳で。
 今この瞬間にも、穴を作ることはできるんだよなぁ。

「リシェル」
「はい。ノーム、お願いね」
『むむっ』

 いつの間にやら俺たちと一緒に奴らを覗き見していたノーム。
 一瞬俺と目が合うと、何故か頬を赤らめた。

 いや待って。俺人外の泥人形をハーレムに持つ気はないからな。

 もじもじポーズをしながら土の中へとノームが消えると、それと同時に悲鳴が上がった。

「なんで真ん中歩いてる俺が穴に落ちるんだあぁぁあぁぁぁぁっ」
「うわぁあぁぁっ」
「これは精霊のしわ──ざああぁぁっ」

 大丈夫だ小山。
 全員、個別に穴に落としているから。
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