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2章

第──33

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「"光の精霊! 明るく照らしてっ"」

 リシェルの声が森に木霊する。
 その声に応えるかのように、小さな光の玉がいくつも飛んで行った。
 そしてパチパチと点滅していた辺りをいっきに照らす。

『ゲギャッ』
『グゲーッ』

 うん?
 見覚えのあるベビーゴブリンだが、大きいか?

「ゴブリンだわっ」

 シェリルの声を聞いて、なるほどと頷く。
 こっちが本家本元のゴブリンだってことか。
 身長は俺の頭二つ分ほど低い程度で、胴に対して手足が細い。装備は腰ミノか。

「だけどあのゴブリン……ずいぶん大きいですね」
「俺には十分小さく見えるけどな。それより毛玉を助けよう」

 剣を抜きつつ「"空気操作"」と唱え、左手で範囲を決める。

 ゴブリンは5匹。それが地面の毛玉を襲おうとして円陣を組むように立っていた。
 好都合だな。
 
 毛玉を巻き込まないよう、操作範囲の高さ調節をして──二酸化炭素濃度を、今できる最大濃度に!

『ゲギャッ──ガッ』
『ンガガッ』
『フギーッ!?』

 おぅおぅ、パニックになってやがる。
 パニックになればなるほど、人は呼吸する速度が上がる。まぁあいつら人じゃないけど、呼吸して生きてるし同じだろう。
 あとやっぱりオツムが足りてないようだ。

 その場でじたばたするばかりで、逃げようとかそういう思考はないのか。
 少し移動すれば酸素あるんだけどなぁ。

 スキルの効果時間60秒を待って、それが切れる頃には4匹が地面に倒れていた。
 毛玉が報復とばかりパチパチしているのが見える。
 残る一匹も意識朦朧状態。
 駆けて行って俺が剣で仕留め──る前に、シェリルの弓に倒れてしまった。

「俺の出番……」
「で、出番あったじゃない!」
「カッコいいところ見せたかったのに」
「い、いいじゃない! い、いつだってカ、カッコいいわよっ」

 ……なにそれ。物凄く嬉し恥ずかし。
 倒れた4匹は念のために止めを刺しておこう。首のところをザクっとやれば、まぁ呆気なく死ぬ。

『ぎ……ぎゅい……』
「おっと、毛玉、大丈夫か?」

 地面でもぞもぞ動く毛玉に手を伸ばすと、何故か毛玉はその手を避けた。
 毛が汚れている。少し赤い染みも。
 けどそれより……。

「お前、大きくなったのか?」

 30センチほどだった毛玉が、ちょっとだけ大きくなっている気がする。
 それを聞いて毛玉がビクりと震えた。

「毛玉。俺たちを探しに牧場まで来たのか? ごめんな、すれ違いになったみたいで。さ、怪我を治してもらおう」
『きゅうぅぅ』

 まるで初めて畑で見かけた時のように、弱々しくなっている毛玉。
 何かあったのか?
 いや、こんな暗い森でゴブリンに襲われたんだ。怖かったんだろう。

 避けようとする毛玉を無理やり捕まえ、抱き上げてリシェルの所へと向かった。

「リシェル、回復頼む」
「あ、はい……あれ? パチパチ、少し大きくなってますか?」
「成長期なんだろ? 怪我してるから頼む」
「分かりました」

 毛玉の治癒をする間にシェリルが死んだゴブリンを確認していた。

「これ、変異体だわ」
「変異体?」

 腕の中の毛玉がもぞりと動く。

「こら、暴れるなっ。シェリル、変異体って?」
「……瘴気を吸い込んだ動物は、変異してモンスターになるって話したわよね」
「あぁ。人も狂ったりするんだろ?」
「えぇ、そう。でもおかしくなるのは、なにも人や動物だけじゃないの」

 まさかモンスターもか!?
 瘴気はそもそも、全ての生命に対して害にしかならない。それはモンスターに対しても。

「例外として、悪魔種族やアンデッドには影響ありません。それに瘴気を吸ってモンスター化した動物にも。耐性ができてしまうので」
「だけど瘴気を吸ってモンスター化した動物の寿命は短いわ。肉体が瘴気に耐えきれず、内側から腐って死んでしまうから」
「うへぇ……」
「それは普通のモンスターにも言えることなんです。瘴気をたくさん吸えば確かに肉体が強化され、狂暴性が増します。けれど──」

 そう長くは生きられない。
 モンスターは本能でそれを知っているから、好んで瘴気の中に留まろうとはしないらしい。
 たとえゴブリンでも、だ。

「寿命が短いって、どのくらいなんだろう?」
「森の動物が変異したものだと、一年ぐらいだったかしら」
「叔父様が言うには、体の大きなものほど長く生きれるけれど……小型のドラゴンでも五年と持たないそうです」

 その小型のドラゴンの寿命は、エルフと同じぐらい長いらしい。大型ともなれば千年以上生きているのもいるだろうって。
 普通の動物やゴブリン程度の体のサイズなら、一年生きられるかどうか。

 それが分かっていて変異するほど瘴気を吸い込む奴も、確かにいないだろう。

「それにね空。瘴気を少し吸った程度じゃ、体は変異しないわ」
「はい。せいぜい気分が悪くなる程度です」
「そう、なのか」
「そうじゃなかったらエルフの里は今頃、変異したエルフだらけよ」
「むしろ空さんがこちらの世界に来た時には、もう死滅していたでしょうね」

 まぁそれもそうか。
 じゃああいつらはよっぽど瘴気を吸い込みまくったのか?

「さ、治療は終わりました。村へ戻りましょう」
「そうね。とにかくゴブリンがいることは分かったし、戻って対策を立てたほうがいいわね」
「あぁ。こいつらが畑を荒らしていたに違いない」

 ぷるぷると震える毛玉を抱いたまま、村へと戻った俺たち。
 眠っている村長を叩き起こし森での出来事を報告すると、思いもよらない反応が返って来た。

「ゴ、ゴブリン? そんな馬鹿な。この近辺にゴブリンなんて、生息してないはず!?」

 ……だったら何故畑の見張りを依頼したあぁぁっ!?
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