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2章

第──32

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「畑の収穫を手伝って頂けませんかのぉ?」
「柵が壊れかけておって、力仕事は年寄りには堪えますのじゃ」
「井戸の苔落としがー」
「家畜の放牧がー」
「〇〇がー」

 がーがーがーっと、次から次に依頼が舞い込んでくる。
 どうしてこんなことに……。

 早朝、睡魔の限界を感じてリシェルたちと交代してテントに潜った。毛玉も一緒だ。
 もふもふ気持ちいです。おかげですぐに夢の中。
 かと思ったら村長が村人を連れてテントにやって来てこの状況だ。

 依頼と言っても俺たちはまだ冒険者じゃない。
 つまりギルドからお金は支払われない……はず。

 支払われないってことは、村がギルドに依頼料を払う必要もなく。
 もしかしてそれを分かってて、あれこれ頼みごとを持ってくるのか?
 タダ働きさせようとして。

 うぅん。異世界人、なかなかちゃっかりしてるな。
 けど確かに村には若い奴の姿が見えないんだよ。
 聞けば、子供はだいたい町で仕事を探して戻ってこないんだとか。
 そっちで嫁さんや旦那さん見つけて、そこで子供つくって故郷には戻ってこない。

 あぁ、日本でもそういうのあるねー。
 ド田舎のほうだと仕事がなくって、外に出たまま誰も家を継いでくれないとか。
 それでなんだっけ? 限界集落?
 今住んでる人が亡くなったら、もう消えてなくなる村とか結構あるらしい。
 なんかそういう番組見たよ。

「仕方ないなー。んじゃ今日だけですよ。明日には冒険者来るんでしょうし、正式にそっちで依頼してくださいよ」
「いやぁ、ありがたいねぇ」
「という訳でリシェル、ノームに野菜の収穫と柵の修理を頼んでくれるか?」
「分かりました」

 何も全部俺たちがやる必要はない。
 ノームを呼び出し、野菜の収穫と柵の修理を頼めばあっという間に終わる。
 井戸の苔にしたって水の精霊に頼めばいい。

 家畜の放牧を俺とシェリルでやって、精霊の面倒を見るためにリシェルが村に残った。
 毛玉は村で採れたて新鮮野菜を貰って貪っている。まぁ置いて行こう。

 家畜を放牧させるだけだと思ったら、ここでも柵がー、新鮮な野草がーとあれこれ注文が入り、それを一つず片付けていく。
 お昼は村の人が弁当を持って来てくれたけれど、うん……結構豪華だな。

「なんだか仕事させられっぱなしね」
「うぅん。なぁんか怪しいんだよなぁ」
「そうねぇ」

 そう思いつつ、じーちゃんばーちゃんの頼みを無碍にもできず。
 のんびり流れる雲を見ながら食べる弁当も美味しい訳で。

「そういえばこっちの世界の夏って、どんな感じ? 暑くてじめじめしてるのか?」
「暑いけれど、じめじめはしていないかも。もちろん土地によって違うはずよ。少し南の地方にいけば、湿度が高いって叔父さん言ってたもの」
「やっぱり国や地域で違うのか。俺の住んでいた世界と同じだな」
「空が住んでいた国はじめじめしていたの?」

 してた。めちゃくちゃしてた。
 そんな話をしながら時間が過ぎ、気づけばもう夕方だ。
 
 この世界に来たばかりの頃と比べると、陽もだいぶん伸びたな。
 家畜を小屋に入れるため必死になって追いかけ、やっと全部を小屋に入れ終わると辺りは薄っすらと暗くなり始めていた。

「おかえりなさい、空さん、シェリル」
「ただいまリシェル。村の仕事はどうだった?」
「……ふっ」

 ふっ!?
 い、今リシェルが「ふっ」って言った!?
 な、何やらされたんだ……。

「あら? パチパチがいないわね」
「そうなの。パチパチったら、日向ぼっこしていたハズなのに、気づいたらいなくなってて」
「二人はパチパチって呼んでいるのか」
「だって毛玉じゃ可哀そうじゃない」

 パチパチと毛玉に差はあるのだろうか?
 そのうち出てくるだろうと思い、村長が用意してくれた夕食をご馳走になる。
 
 はい。今夜も畑の見張り番です。





「帰ってこないなぁ」
「まさかわたしたちを追って、牧場の方に行ったんじゃ……」
「有り得そうだな」
「探しに行きますか? 畑の見張りはひとまずノームに任せてもいいですし」
「え? じゃあ昨日は……」
「す、すみません。昨夜は私の体力が……」

 体力がない状態では上手く魔法は発動しない。
 それと疲れ過ぎてノームのことを忘れていたと、リシェルは素直に謝る。
 まぁ仕方ないさ。

「よし。ノームに任せて牧場へ行こう」
「はいっ」
「念のため弓を持っていくわ」
「そうだな。俺も長老から貰った剣を持っていこう」

 エルフが使う剣なので、細身のレイピアと言うやつだ。
 それを長老から頂き、普段から腰にぶら下げている。
 戦うときは、まず空気操作で神経ガス系成分を吸わせ、敵を気絶させたり眩暈を起こさせたり。
 そうして無抵抗になったところをズバっとやる。

 せこくない。決してせこい戦いではない!

 リシェルが召喚した光の精霊が周囲を照らし、俺たちは各々好きなように毛玉を呼ぶ。

「おーい、毛玉ーっ」
「パチパチー、どこ~?」
「パチパチぃ、ご飯ですよ~」

 呼べども呼べども返事はなく。
 こうなると不安になってくる。まさか毛玉……モンスターに喰われたりしてないだろうな。

「あ、森の方っ。パチって光ったわっ」
「パチ? 静電気みたいな?」
「そう。きっとパチパチよ!」

 シェリルは狩人。視力が良い上に、彼女は夜目も利く。
 彼女の案内で牧場の奥にある小さな森へ入ると、俺の目にも火花のようなものが見えた。
 同時に毛玉以外の、何者かの姿が一瞬、火花に照らされ浮かび上がった。
 
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