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1章

第──24

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「……やり過ぎた……」
「ま、まぁ……元々この辺一帯は、枯れ木ぐらいしかなかったんだし」
「今はその枯れ木もありませんが」

 最大硬度に固められた土の壁。そこから顔を覗かせ辺りを見渡した俺たちは、とりあえず絶句した。
 腐王が転がっていた穴が元々あったので、クレーターとかは出来ていないけれど。代わりに周辺一帯が真っ黒。

 だけど煙はない。というか焦げた地面から煙が上るよりも先に、空気清浄スキルで浄化されていくから。
 とはいえ、飛び散った腐王の肉片から漏れる瘴気は、一瞬だが目に見える。
 それも漂う前に浄化されてしまうけれど。

「腐王……ちっさくなったけどさ……まだ瘴気出してるみたいだし、俺、このまま空気清浄しまくってるよ。二人はこのこと、長老に知らせてきてくれないか?」
「ひ、ひとりで大丈夫?」
「だからってどちらかひとりで帰らせられないだろ?」
「そ、そうですけど……。いえ、そうですね。シェリル、直ぐに帰りましょう。私が長老に報告するから、あなたは夕食に必要な食糧を」
「あ、そうね。帰らなきゃご飯も作れないものね。分かったは空」

 どうやら温かい食事にはありつけそうだ。
 二人が里の方へとかけていくのを見送り、それから小さな肉片に空気清浄していった。

 何百回、もしかすると4桁ぐらい使ったかもしれないこのスキル。
 それだけスキルを使っていると、いろいろ細かいことも分かるようになった。
 スキルを使用した瞬間が浄化パワーがデカいけども、実際には俺の周辺──最初の頃の効果範囲である半径3メートル圏内で特に有効だ。
 
 腐王が巨大な肉団子だったころは恐ろしくて近づけなかったが、テニスボールぐらいのなってしまえばそれもない。
 近づいて空気清浄を使い、緑色のシャボンをソレに触れさせた。

 俺にしか見えないシャボン玉は触れることができる。
 まぁ突くみたいな?
 そうして漂う方角をコントロールでき、それを肉片に充てればいい。

 肉片に触れぽんっと消えるシャボン玉。
 それと同時に腐王の肉片もじゅわーっと溶けていった。
 溶けたものは大地に浸み込むことなく、そのまま瘴気となって、だがすぐに浄化され消滅。

 リシェルとシェリルが戻って来るまでの間に、ほとんどの肉片を溶かすことができた。





「おぉ。家の形ができあがった!」

 腐王の肉片を全て浄化し終わって半月。
 やって来た長老は若手のフロイトノーマさん以外にもう二人ほど。
 800歳を超えるベテラン(?)長老らしいけど、見た目はやっぱり30前後と若かった。
 残っていた肉片を見て彼らは「早すぎたのだろう」と。
 
 何がどう早すぎたかと言うと、死霊術での召喚や契約では、その死霊の状態に応じて時間がかかるものらしい。
 腐敗が進んでいる場合、無理に契約すると肉体が持たず朽ちてしまう。
 ゾンビは腐ってて当然だけど、腐ってるくせに耐久力があるのはしっかり術者の魔力でカバーしてやっているから。
 鈴木はそれをしないまま、ただただ腐王を呼び起こしただけ。
 しかも腐王の魂はそこになく、触れたものを腐らせる力も持っていなかった。
 鈴木が腐ってなかったからな。

「それに。先日君が腐王を強力な空気清浄で浄化しただろう。あれから奴の肉体は滅びに向かっていたのだ。生半可な死霊術では、固定することもできなかっただろう」
「俺の浄化……役に立てていたのかな」
「立っている。少なくともこの大森林は、君の力で蘇ったのだ。自信を持ちなさい」

 あの時の腐王は、ただ腐りかけている瘴気をまき散らす肉の塊。

 鈴木の中途半端な死霊術で、肉塊の腐敗が加速したのは不幸中の幸いかもしれない。

 幸いだったのは、あの爆発で家の基礎が吹き飛ばなかったことだな。
 それと生命の苗木が無事だったこと。

「まだ家具やらなにやらがなんにもないけれど、雨風はしのげるから今夜からでも使えるよ」
「おぉ! ついに屋根のある暮らしが始まるんですねっ」

 戸の開け閉めを確認しながら、大工エルフがニッコリ笑ってそう言う。
 男だけど美人だ。変な気を起こすことはないが、それでも口元が緩んでしまう。

「空ぁーっ。畑の柵作り、手伝ってよもうっ」
「あ、ごめんごめん」

 家の近くには畑も耕している。町で買った苗や種を植えた畑だ。
 
 腐王の屍が転がっていたこの近辺では、動物はおろかモンスターの姿さえ見なかった。
 というのはもう過去の話で、最近は動物が出るようになったんだよ。
 雑草もあちこち生えて来たけど、それでもまだこの周辺は食べれる物が少ない。
 そんなところに果物の木が植えられ、畑には野菜が育っているんだぜ。

 食い荒らしにくる動物が来るようになったんだよ!

 畑の作物は順調すぎるほどに育っている。
 もちろん、土の精霊ノームの働きによるものだ。
 あと空気中のアミノ酸だとか、成長に必要な成分をちょちょいと弄ってだな。

「この分なら来週には収穫できそうです」
「お。もう花がついたのか。こりゃあ急いで柵を立てなきゃな」
「今日中に終わらせましょ」
「え!?」

 き、今日中?
 いやだって、里からも持って来た野菜の苗だなんだので、ここの畑ってテニスコート分ぐらいあるんですけど?

「柵を立てた後は網を被せなきゃいけないの。柵だけだと簡単に入られちゃうんだから」
「はぁ、やることいっぱいだなぁ」
「ふふ。じゃあ三人で頑張りましょう」

 この半月の間に森の浄化は全て終わった。
 瘴気に当てられ狂暴化しつつも、まだモンスターになり切れていなかった動物は生命の樹によって、その営みを正常なものに戻した。
 
 森はまた美しく蘇る。

 暫くここでその様子を見ながら暮らし、時々冒険に出かけよう。

「あ、そうだ。家が完成して、畑の対策も全部終わったらさ。町にいかないか?」
「町? 何か欲しいものでも?」
「いや。登録、しようかなと思ってさ」

 いつでも冒険に出られるよう、ギルドにね。

「でもそうなると数日、家を空けることになるんだよなぁ。畑の世話とか誰かに頼まなきゃならないだろうな」
「それなら大丈夫です。畑のことはノームにお願いしますし、家のことはブラウニーに任せれば平気ですから」
「つまり冒険者への登録ね!」
「そういうこと」

 俺がそう言うと、二人の目が輝いた。

 突然異世界に召喚され、しかも俺だけその場に捨てられてしまったけれど。
 こうして自由を満喫し、何より可愛い恋人が二人もできた。

 召喚された19人の中で、俺が一番幸せ者なんじゃないか?
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