上 下
24 / 52
1章

第──24

しおりを挟む
「……やり過ぎた……」
「ま、まぁ……元々この辺一帯は、枯れ木ぐらいしかなかったんだし」
「今はその枯れ木もありませんが」

 最大硬度に固められた土の壁。そこから顔を覗かせ辺りを見渡した俺たちは、とりあえず絶句した。
 腐王が転がっていた穴が元々あったので、クレーターとかは出来ていないけれど。代わりに周辺一帯が真っ黒。

 だけど煙はない。というか焦げた地面から煙が上るよりも先に、空気清浄スキルで浄化されていくから。
 とはいえ、飛び散った腐王の肉片から漏れる瘴気は、一瞬だが目に見える。
 それも漂う前に浄化されてしまうけれど。

「腐王……ちっさくなったけどさ……まだ瘴気出してるみたいだし、俺、このまま空気清浄しまくってるよ。二人はこのこと、長老に知らせてきてくれないか?」
「ひ、ひとりで大丈夫?」
「だからってどちらかひとりで帰らせられないだろ?」
「そ、そうですけど……。いえ、そうですね。シェリル、直ぐに帰りましょう。私が長老に報告するから、あなたは夕食に必要な食糧を」
「あ、そうね。帰らなきゃご飯も作れないものね。分かったは空」

 どうやら温かい食事にはありつけそうだ。
 二人が里の方へとかけていくのを見送り、それから小さな肉片に空気清浄していった。

 何百回、もしかすると4桁ぐらい使ったかもしれないこのスキル。
 それだけスキルを使っていると、いろいろ細かいことも分かるようになった。
 スキルを使用した瞬間が浄化パワーがデカいけども、実際には俺の周辺──最初の頃の効果範囲である半径3メートル圏内で特に有効だ。
 
 腐王が巨大な肉団子だったころは恐ろしくて近づけなかったが、テニスボールぐらいのなってしまえばそれもない。
 近づいて空気清浄を使い、緑色のシャボンをソレに触れさせた。

 俺にしか見えないシャボン玉は触れることができる。
 まぁ突くみたいな?
 そうして漂う方角をコントロールでき、それを肉片に充てればいい。

 肉片に触れぽんっと消えるシャボン玉。
 それと同時に腐王の肉片もじゅわーっと溶けていった。
 溶けたものは大地に浸み込むことなく、そのまま瘴気となって、だがすぐに浄化され消滅。

 リシェルとシェリルが戻って来るまでの間に、ほとんどの肉片を溶かすことができた。





「おぉ。家の形ができあがった!」

 腐王の肉片を全て浄化し終わって半月。
 やって来た長老は若手のフロイトノーマさん以外にもう二人ほど。
 800歳を超えるベテラン(?)長老らしいけど、見た目はやっぱり30前後と若かった。
 残っていた肉片を見て彼らは「早すぎたのだろう」と。
 
 何がどう早すぎたかと言うと、死霊術での召喚や契約では、その死霊の状態に応じて時間がかかるものらしい。
 腐敗が進んでいる場合、無理に契約すると肉体が持たず朽ちてしまう。
 ゾンビは腐ってて当然だけど、腐ってるくせに耐久力があるのはしっかり術者の魔力でカバーしてやっているから。
 鈴木はそれをしないまま、ただただ腐王を呼び起こしただけ。
 しかも腐王の魂はそこになく、触れたものを腐らせる力も持っていなかった。
 鈴木が腐ってなかったからな。

「それに。先日君が腐王を強力な空気清浄で浄化しただろう。あれから奴の肉体は滅びに向かっていたのだ。生半可な死霊術では、固定することもできなかっただろう」
「俺の浄化……役に立てていたのかな」
「立っている。少なくともこの大森林は、君の力で蘇ったのだ。自信を持ちなさい」

 あの時の腐王は、ただ腐りかけている瘴気をまき散らす肉の塊。

 鈴木の中途半端な死霊術で、肉塊の腐敗が加速したのは不幸中の幸いかもしれない。

 幸いだったのは、あの爆発で家の基礎が吹き飛ばなかったことだな。
 それと生命の苗木が無事だったこと。

「まだ家具やらなにやらがなんにもないけれど、雨風はしのげるから今夜からでも使えるよ」
「おぉ! ついに屋根のある暮らしが始まるんですねっ」

 戸の開け閉めを確認しながら、大工エルフがニッコリ笑ってそう言う。
 男だけど美人だ。変な気を起こすことはないが、それでも口元が緩んでしまう。

「空ぁーっ。畑の柵作り、手伝ってよもうっ」
「あ、ごめんごめん」

 家の近くには畑も耕している。町で買った苗や種を植えた畑だ。
 
 腐王の屍が転がっていたこの近辺では、動物はおろかモンスターの姿さえ見なかった。
 というのはもう過去の話で、最近は動物が出るようになったんだよ。
 雑草もあちこち生えて来たけど、それでもまだこの周辺は食べれる物が少ない。
 そんなところに果物の木が植えられ、畑には野菜が育っているんだぜ。

 食い荒らしにくる動物が来るようになったんだよ!

 畑の作物は順調すぎるほどに育っている。
 もちろん、土の精霊ノームの働きによるものだ。
 あと空気中のアミノ酸だとか、成長に必要な成分をちょちょいと弄ってだな。

「この分なら来週には収穫できそうです」
「お。もう花がついたのか。こりゃあ急いで柵を立てなきゃな」
「今日中に終わらせましょ」
「え!?」

 き、今日中?
 いやだって、里からも持って来た野菜の苗だなんだので、ここの畑ってテニスコート分ぐらいあるんですけど?

「柵を立てた後は網を被せなきゃいけないの。柵だけだと簡単に入られちゃうんだから」
「はぁ、やることいっぱいだなぁ」
「ふふ。じゃあ三人で頑張りましょう」

 この半月の間に森の浄化は全て終わった。
 瘴気に当てられ狂暴化しつつも、まだモンスターになり切れていなかった動物は生命の樹によって、その営みを正常なものに戻した。
 
 森はまた美しく蘇る。

 暫くここでその様子を見ながら暮らし、時々冒険に出かけよう。

「あ、そうだ。家が完成して、畑の対策も全部終わったらさ。町にいかないか?」
「町? 何か欲しいものでも?」
「いや。登録、しようかなと思ってさ」

 いつでも冒険に出られるよう、ギルドにね。

「でもそうなると数日、家を空けることになるんだよなぁ。畑の世話とか誰かに頼まなきゃならないだろうな」
「それなら大丈夫です。畑のことはノームにお願いしますし、家のことはブラウニーに任せれば平気ですから」
「つまり冒険者への登録ね!」
「そういうこと」

 俺がそう言うと、二人の目が輝いた。

 突然異世界に召喚され、しかも俺だけその場に捨てられてしまったけれど。
 こうして自由を満喫し、何より可愛い恋人が二人もできた。

 召喚された19人の中で、俺が一番幸せ者なんじゃないか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...