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1章

第──21

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 デレデレしたいのを堪え、里へと向かう途中。
 腐王の瘴気も気になるので一度寄ることにした。

「六日放置して、どのくらい瘴気が溜まっているかなぁ」
「突然どぱーって出ない限り、屍の周辺に漂ってる程度だと思うけれど」
「そうですね。どぱーってなるようでしたら、そもそも今頃この森は瘴気まみれでしょうし」

 いや。俺が召喚された時も、十分瘴気まみれだった気がするんだけど。
 せっかくなので、生きとは違うルートで進んで、空気浄化範囲を拡大させていった。
 昼頃に腐王の屍が転がる穴の近くへとやって来たのだけれど、何やら様子がおかしい。

 瘴気が充満しているわけじゃない。
 
 ブツブツと人の声が聞こえるのだ。

「里の誰かがいるのかしら?」
「でも私たちが戻るまで、家造りはお休みのはずです。基礎を固める必要があるもの」

 この世界にもコンクリートはあった。というか似たような物?
 ある砂とある土、そして粉を水でこねくり回すと、コンクリートのようなものが出来上がる。
 乾くと硬くなるところも同じだ。
 
 これを基礎にして家を建てるのだけれど、量が多いと乾くのに時間がかかるってわけ。その間にテントを買いに行ったのだ。

「基礎のようすを見に来たのかしら?」
「でもこの声、誰のかしら?」
「さ、さぁ……聞き覚えがないわね」

 エルフは耳が長いだけあって、聴力はいいらしい。
 二人が聞き覚えのないというこの声……俺は聞いたことがある気がする。
 
 クラスで目立つと言えば目立つ存在。
 口数は基本的に多くはないが、勉強のこととなると途端によく喋る。

 学年成績トップ3のどこかに必ず入る──

「鈴木……」

 たいして身を隠す場所もないここで、俺の視界には確かに鈴木の姿を捉えていた。
 だが向こうはこっちに気づく様子もなく、腐王が転がる穴を見ながらブツブツ呟いていた。
 その声を聞いてリシェルが飛び出す。

「いけません! 死霊術で腐王を起こしては──」
「うそっ。あいつ死霊使いなの!?」

 シェリルも同じく飛び出し、そして弓を構えた。

 死霊使いって、じゃあアンデッドモンスターとかを使役するアレのことか?
 鈴木の奴、そんなのが適正職だったとは。

 二人の声でさすがに鈴木も気づいたようで、振り向いたと同時に硬直。そして顔真っ赤。

「天使!?」

 あぁ……うん。まぁ気持ちは分かる。
 エルフだし、美少女だし、マジ天使だし。

「吾輩の下に、天使降臨す!」
「「は?」」

 す、鈴木……なんかおかしくないか?
 俺も出て行ってまずは二人の前に立つ。

「な、なに奴であるか!?」
「す、鈴木……お前、喋り方おかしくないか?」
「は? 誰であるか貴様。全知全能なる吾輩に気安く喋るなし」

 全知全能とかはまぁたまにこいつと、他にもう二人。とにかく秀才三人組がよく口にしていた単語だが。
 吾輩? あるか?

「お、おい鈴木。俺だって、俺オレ」
「オレオレ詐欺であるか? 間に合っているであるよ」
「詐欺じゃねー! 俺だってっ。由樹空、同じクラスメイトの!」

 そんでお前らに置いていかれた。
 名乗りはしたが鈴木は「は?」という声をあげる。
 脂肪達磨な鈴木は首を傾げるというか、顔を傾げる仕草に。

「ゆーきそら?」
「そうそう。鈴木、なんで戻って来たんだよ」
「ん? ん? 吾輩、頭は誰よりも賢いであるからして、下等人種の顔すら一度見ただけで覚えるのだが……誰?」
「誰ってだからーっ!」

 あ、こいつもしかして。
 年中マスクつけてたから、顔がはっきり見える今の俺だと気づけないのか?
 仕方なく両手で鼻から下を覆った。

「分かるか?」
「……分からぬ。ぐぬぬ。ちょっと顔がいいからって、吾輩をバカにしおって!」
「え? いや普通だろ?」
「普通な訳があるかーっ!」

 えー!?
 なんで切れてんだよ。

「ちょ、待て。あ、そうだ! くうき。くうきだって俺!」
「空気? 嘘をつくなである! あいつは鼻水垂らしてきちゃないブ男であるぞ!」
「ブ、ブ男って……。デブに言われたかねーよ!」
「デブ言ったであるか! 吾輩をデブと言ったであるか! ぐぬぬぬぬ。こうなったら──出でよ、吾輩の忠実な僕……腐王!」

 え?
 嘘マジ? 
 腐王を使役すんのかよ。
 そういうのって契約とか必要なんじゃ?
 さっきのブツブツがそれだったのか!?

 地面が揺れ、穴から紫色の靄がぶわぁっと噴き出す。

「ふはははははは。見るであるの! これで吾輩は山田や佐藤にも負けないのである! 絶対、絶対奴らにだけは負けるわけにはいかない!」

 歪んだ鈴木の顔には、憎悪しか浮かんでいなかった。
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