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1章

第──16

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 ニキアスさんと別れて二日。
 俺たちの目指す町オヌズが見えてきた。
 街道を歩けばモンスターに襲われることは少ないと、ニキアスさんは言っていたが。
 実際にはこの二日の間に、両手で少しだけ足りないほどの戦闘回数があった。
 嘘つきめ。

 ただまぁ、空気操作の実践訓練にはなった。
 街道周辺に出るモンスターは森に生息するモンスターよりは弱く、使い慣れないスキルの練習にはもってこいだ。

「あらぁぁ。町はもうすぐだというのに、こんな所にも魔物が出るのですねぇ」
「出るけどアレ、雑魚じゃない」
「ベビーゴブリンだ! 試させてくれ!」

 ベビーゴブリン。別にゴブリンの赤ん坊じゃない。
 見た目がゴブリンとほど同じだけど、身長がゴブリンよりもうちょい小さく、そして弱い。
 肌の色が緑のゴブリンに対し、こっちは青緑といった感じ。
 一応まったく別物だ。
 頭が悪いので身の程を知らず、なりふり構わず襲ってくる。

「"空気操作"──」

 成分を弄れる範囲は、スキルレベルが上がって3メートル四方の立方体になった。レベルは今3。
 この範囲は動かすことができない。これが難点の一つだ。

 まずは操作可能範囲の空気温度を100度に上げる。最大温度は150度だ。

『アギッ』
『アジジッ』
「暑いを通り越して熱いよな。次、"空気操作"」

 あっつい空気空間まで来たベビーゴブリンは、突然の熱さに後ずさる。
 焼けるような喉の痛みに咽るベビーゴブリン。
 ひとしきり咳込んだあと、やることはといえば──そう、大きく息を吸うこと。

 空気操作は一度の複数の成分操作ができないが、連続使用はできた。
 二つ目の空気操作で、俺は最初に操作範囲から数十センチだけ後ろにずらした位置に高濃度のクロロメタン地帯を作った。

 そう。
 今ベビーゴブリンたちが深呼吸しているあの辺り、3メートル四方に有毒ガスが充満しまくっている。
 クロロメタンは吸い込むと中枢神経ってところがやられ、高濃度のガスを吸えば麻痺、昏睡状態に。
 で、四匹が倒れた。

 うぅん。範囲が狭いから小型のベビーゴブリンでもぎっしり密集でもしてくれなきゃ、一度に倒せやしないな。

 仲間が何もされていない(ように見えるだけ)のにバタバタと倒れるのを見て、ベビーゴブリンが狼狽える。
 そこにシェリルが炎の矢を放つ。

 クロロメタンって、可燃性なんだよなぁ──って、

「あぶっ!」

 俺がその場でしゃがむのと同時に、クロロメタン地帯が爆ぜた。
 倒れていたベビーゴブリンも、狼狽えていた奴らも、まとめで吹き飛ぶ。

 うん。距離があったからよかったものの……。

「火気厳禁! あぶないからマジで!」
「だって空のそのスキル。即死効果ないじゃない」
「そうだけど。でも危ないから!」
「そうよシェリル。せめてノームに土盾を立てて貰ってからにして」
「分かったわよ、もう」

 その土盾とやらは俺の前にも立ててくれますかね?
 




 うぅん。ガスを充満させて発火させるのが、確かに火力としては高いよなぁ。
 ただそうなると、爆発の威力がこっちにまで飛んでくるのが怖い。
 そういうのも空気操作で防げたりしないものかなぁ。

 そんなことを考えていると、あっという間に町へと到着した。

「必要な物を買ったら、今日は町の宿に泊まりましょう」
「そうね。それがいいですわね」

 と、二人は楽しそうだ。
 町に入ってからずっと、あちこちキョロキョロして浮かれているようだった。

 森の外に出るのは初めてだって言ってたし、町が楽しいんだろうな。

「じゃあ買いものついでにいろいろ見て回ろうか。俺もこっちの店とか、いろいろ見てみたいし」
「「賛成」です」
「その前に、これまで蓄えてたモンスターの素材を売りに行かなきゃな。ニキアスさんは冒険者じゃなくても、ギルドで素材を買い取って貰えるって言ってたし。まずはギルドを探そう」

 背中のリュックは某猫型ロボットのような、異次元に繋がっているかのような仕組みになっていて、アイテムボックスとして使えた。
 ただモンスターから剥ぎ取った素材を直接入れるのは、中が汚れるんじゃないかと心配で布に包んで入れてある。
 重くはないが、腐って臭わないかが心配。
 リュックの仕様検証もしなきゃならなかったなぁ。

 歩きながら人に聞き、そのたびにリシェルとシェリルに注目が集まる。
 エルフはやっぱり珍しいようだ。
 リシェルもシェリルも森から出たことがないと言っていたし、里の他のエルフもそうなんだろう。
 人間の生活圏を動き回っているエルフの絶対数が少ないってことだな。

 見つけた冒険者ギルドはコンビニぐらいの大きさの建物で、中に入ると十数人の冒険者っぽい人とギルド職員だろうなぁという人が数人。
 分からないので空いているカウンターに行って、素材を売りたいのだと説明する。

「冒険者登録をなさっている方ですか?」
「あ、いえ。そのうちしようとは思っているのですが、今は時間がないので買い取りだけお願いします」
「畏まりました。ではお売りする素材をお見せください」

 受付嬢とでもいうのかな。見た目は俺とそう変わらない年齢で、眼鏡をかけた可愛い子だ。
 可愛いんだけど、リシェルとシェリルに見慣れた俺にとって、それ以下でも以上でもない。
 ただ可愛い子だ。

 俺の目も肥えてしまったようだ。

「どう、かなさいましたか?」
「あ、いえ。素材ですね、これ全部お願いできますか?」

 この世界にもアイテムボックスは存在する。魔法アイテムで、かなり高価な品物だとニキアスさんは言い、彼も持っていた。
 高価なものをポイっと出してくるあたり、さすがだ……。
 だから俺も特に隠すことなく、リュックから次々に素材を取り出した。

 道中で得た素材。
 森で浄化の散歩をしていた時に得た素材。
 ぜーんぶ持って来た。

 どんどんどんどんカウンターに積み上げていく素材を見ながら、眼鏡の受付嬢が背後の扉に向かって「うえぇん、マスター」と半泣きしながら叫んでいた。
 
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