上 下
13 / 52
1章

第──13

しおりを挟む
「空気中の成分操作?」
「難しそうですね……どうやってスキルの効果を確かめればいいのかしら?」
「簡単にできる方法はいくつかあるよ。温度の操作は体感で分かるだろうからね」
「「確かに」」

 という訳でさっそくスキルを使ってみることにする。
 範囲が縦横高さ1メートルと狭く、俺たち三人が部屋の隅に身を寄せ、対角線上になる位置に向かって使う。
 いきなり超高温だの超低温だのにならないために。

「"空気操作"──」

 そう唱えると、頭の中で声のようなものが聞こえた。
 明確に声と言えないそれは【何を行うか】と問うているように聞こえる。
 何をと言われれば、温度を少し弄りたいかな。

 スキルレベルによって制限があるようだけど、温度調節はできるんだろうか?
 とにかくやってみよう。

 今の気温は何度だろう?
 そう疑問に思うと、声が答える。──18度、と。
 これもスキルの効果か?
 なら温度調節は可能そうだ。

 18度なら、10度上昇すれば体感でも分かりやすいし危険もないな。
 じゃあ温度を10度あげる、だ。
 すると今度は【どこの空気を操作する?】と質問が帰って来た。
 同時に目の前に薄いブルーの立方体が出現する。それがちょうど縦横高さ1メートルぐらい。

 ゲームで攻撃範囲を指定するのと似たような感じかな。
 俺の手の動きに合わせて立方体も右に左に上に下にと動く。

 部屋の対角点に当たる隅、ここだと思う所で手を止め──【拳を握れば決定】と声がしてそれに従う。

「と、とりあえずスキルを使ってみた。向こうの隅の温度を10度上昇させたんだけど……」
「見た目は何も変化ありませんね」
「そりゃあ温度を上げただけじゃ、目に見えないもの──あ、暖かい」

 シェリルは何の躊躇いもなく歩いて行って、部屋の隅に向かって手を伸ばした。
 その言葉に俺も慌てて行って手を伸ばす。
 確かに暖かい。

「こ、今度は温度を下げてみるよ。またさっきの所に」
「分かったわ。どうせなら雪が降るぐらい寒くしてみてよ。そのほうが分かりやすいわ」
「雪、振りますかね」

 ふふ、とリシェルの顔に笑顔が零れる。
 1メートル四方の温度が変わるだけだしなぁ。

「"空気操作"」

 さっきのように声が聞こえるが、同じ動作なのでサクサクっと進む。
 今度は気温を──今28度だし、30度ぐらい下げるか。
 同じ位置を指定してその場所に行くと……。

「さむっ!」
「雪はないけど寒いわよ空!」
「凄いです。ごく狭い範囲ですが、本当に温度を自在に操れていますっ。でも寒いです!」
「い、1分したら消えるから」

 いや効果切れ待つより、ここから離れればいいだけじゃん!

 部屋の一角がプチ極寒になっている間に、もう一つの検証をしておきたい。

 部屋を照らすランタンの火を蝋燭に移し、それを受け皿に乗せてテーブルの上へ。
 空気成分の操作検証だ。

「それ、どうすんの?」
「ん。火ってのは酸素がないと燃えないってのは知ってるかい?」

 シェリルの質問に俺は質問で答えた。
 二人が頷くのを見て、このぐらいの化学反応はこの世界でも分かるのだと理解する。

「じゃあ蝋燭の周辺の空気に二酸化炭素──ってのは分かるかな?」

 二人は首を左右に振る。
 じゃあ人が吐いた息だと言い換えれば納得したようだ。

「呼吸によって体内に吸い込んだ空気には、酸素が少なくなっているのは分かります。つまり今度はその二酸化炭素という成分を増やし、火を消す実験なのですね?」
「なるほど。消すのが目的っていうより、酸素を減らせているかの実験みたいなものかしら」
「そうだね。この場合、酸素を減らして二酸化炭素という量を増やすのが目的だけど──"空気操作"」

 何をする=空気中の酸素量を減らし二酸化炭素量を増やす。具体的な数値は分からないけど、蝋燭の火を消せるレベルまで。
 頭の中でそう考えると、範囲を指定するブルーの立方体が現れた。
 蝋燭が入るようにして、決定っと。

 すぐに蝋燭の火が揺らぎ、ふっと消える。

「消えました!」
「酸素がなくなったってこと?」
「完全ではないけれど、薄くはなってるだろうね。だけど確かめるのは危険だから止めておこう」

 顔を突っ込んで酸欠にでもなったら怖いし。

 はぁ。こんなスキルを手に入れるなら、もっと化学の勉強してればよかったなぁ。
 とにかく手探りでいろいろやってみよう。
 今のところ、温度と二酸化炭素の操作はできるようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった

九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた 勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

処理中です...