上 下
47 / 48

047

しおりを挟む
「にゃーんだ。名前を知りたかっただけですかー。残念」

 そこ。最後の残念って、どういう意味!?

「そう言えば自己紹介がまだだったにゃんね。私の名前は――」
「名前は?」

 何故か彼女は止まってしまい、十秒ほど待って再び会話が始まった。

「マロンにゃん」
「栗!?」
「あっちのムキムキが、ロッソにゃん」
「ふんむっ! 筋肉、鍛えているか!」
「まぁぼちぼち」

 販売NPCなのに、その無駄にカッコいい筋肉はなんなんだ?
 ちょっと羨ましいんですけど?
 俺ももう少し筋肉盛っておけば良かったなぁ。

 誰も話しかけていないと、無駄に筋肉ピクピクさせているソッロはヒューマン。
 小麦色に日焼けした肌――もしくは地黒? そんな肌に逆毛の金髪という組み合わせで、なかなか目を惹く容姿のおじさんだ。

 猫人族で、今回初めての女の子であるマロンは茶トラ猫。
 耳穴があるのか、赤紫色のキャスケット帽を被ったりしてお洒落な子だ。

 ソッロは鍛冶や皮細工、彫金といった製造道具類を取り扱っている。
 マロンは調薬、裁縫、木工、そして大工道具だ。
 俺がお世話になるのは、主にマロンだな。

「マロン、薬草を水洗いしようと思うんだけど。そういうのに使える道具はある?」
「あるにゃん。ザルがお勧めにゃんよ」
「よし、買おう」

 そう言うと、マロンの販売物リストが、可視化されて浮き上がった。

「他にもお鍋なんかどうにゃん?」

 鍋はキットにも入ってたじゃないか。それをわざわざ販売するって――ん?
 マロンの販売物リストを見ると、ここにも調薬キットが。
 重複するアイテムを売るって……もしかして鍋は消耗品なのか!?

 アイテムを鑑定してビックリ。

 調薬キットは、調薬レベル1から使えるが、作業効率が低い――と書いてある。
 キットの中にも入っている鍋やおたま。これらの単品として売られている物は、作業効率が良くなると書かれている。
 どういうことだ?

「なぁマロン。単品で販売している鍋とキットの中の鍋、どう違うのか?」
「にゃん。キットの鍋は一度に十本までしか作れにゃいの。でも単品で売ってるのは、一度に五十本まで作れるにゃんよ」
「マジか!? じ、じゃあおたまは?」
「キットを買ってない人には、必要にゃんよ?」

 あぁ、そうか。
 鍋以外は基本、キットを買わずに単品をいきなり買う人向けのようだ。
 他にも木工や細工で使うノコギリやのみだと、キットに入っている物より切れ味がいいだの、細かい加工も可能になるだのといった特典があった。

「お買い求めになるにゃん?」

 マロンの青い瞳が俺をじっと見つめる。
 そんなの――。

「買うに決まってるだろ」

 鍋、ノコギリ、のみを購入して、所持金がレッドゾーンに突入した。





 元気草が一度の採取で複数枚ゲット出来るようになったのは嬉しい。
 おかげで短い時間でも、これだけは百枚ちょっと集まった。質の良いのは二十五枚と少なめ。
 この他、今回は精神草が三十七枚と、毒消し草というのもゲット!
 草のまま食べてもいいのだろうか?
 まぁどうせならポーションにしてみるか。

 まず毒消し草をザルに入れ、流し台の水で洗うっと。
 水道はポンプ式。
 キコキコとレバーを動かすと、一定量の水が出る。
 ささっと洗い流し水切りをして、買ったばかりの大きい鍋――どう見ても大人数用の土鍋だろこれ――というのに水を入れ草を投入……あれ?

 毒消し草は十八枚ある。なので土鍋にもおたま十八杯分の水を入れたのに、草は九枚しか受け付けようとしない。
 もしかして、草一枚でポーション二本なのか?
 まぁい、作ってみよう。

 解毒ポーションの作り方も、ライフポーションとまったく同じだな。
 あ! ここに材料書いてるじゃん。
 なるほど。草の状態で食べれば、一度に一枚消費して解毒可能。
 ポーションだと一枚で二本、つまり解毒二回分作れるってことのようだ。
 お得!

 では早速。
 焦がさないようにかき混ぜながら煮立たせて、水の色が変化したら火から下ろす。
 溢さないよう、慎重に空き瓶へと移し替えて――。

「うおおおおおぉぉぉぉっ、完成したぞおおぉぉぉっ!!」
『ワオワオワオオオォォォンッ!』
「にゃーっ!? な、何事にゃん!?」
「はっはっは。若者は元気があっていいなー」

 完成したのは、緑色をした解毒ポーション。毒に侵された体を治してくれるそうだ。
 こういうポーションがあるってことは、毒攻撃してくるモンスターが居るってことだな。
 これが全部で三十六本――いや、三十九本出来てる!?
 え? なんで??

「マロン、ポーションの完成品の数が違うんだけど、どうなってんだ?」
「にゃん? それはきっと、丁寧に水洗いしたにゃんから、薬草成分が十分に染み出したからにゃんね~」
「水洗いすると、少し多めに作れるのか……でも水は三十六本分しか入ってないはず」
「一本あたりの量が減ってるにゃんよ、きっと」

 きっと――そう話すマロンの顔は無表情で、反論は許さないぞという感じにも見えて怖い。
 そ、そういうことにしておこう。多く作れるならこっちとしてもラッキーなんだし。

「よぉし。他のも水洗いして調薬するぞ!」

 さっきよりも気持ち丁寧に元気草を水洗いし、土鍋におたま五十杯の水を入れる。草も五十枚投入し、竈に掛けて火を起こす。
 竈の火は薪だ。
 さっきの解毒ポーション作りで使った火がまだ残っているので再利用っと。

 焦がさないように、そして溢さないように……土鍋の底からおたまでゆっくりかき混ぜる。
 この作業って、適当にやった場合はどうなるんだろう?
 次の調薬で実験してみるか。

 こうして出来たポーションは五十七本!
 やった、増えたぞっ。
 おや? なんかアイテム名に記号が見えるんだが。なんだろう?
 鑑定っと。

***************************************
 手作りライフポーション☆+:ポーション
 効果:HP回復量40
 クールタイム:300秒
***************************************

 んん!?
 回復量40!?
 プラス記号が付いてるが、もしかして丁寧なのがいいのか!?

 試しにひとり用土鍋て適当作成を開始。
 おたまでガシガシかき混ぜると、鍋の水が飛び散りあっという間に無くなってしまった。
 一本分の材料だったが、元気草すら残っていない。

 次にかき混ぜないで放置してみた。
『焦げて苦いポーション液』になった。これは最初作ったときの、ぐつぐつ沸騰したアレと同じだな。

 ふぅん。適当にやったら、それ相応の物になってしまうのか。

 質の良い元気草で作ったポーションは、これまた回復量がいっきにアップ。

***************************************
 手作りライフポーション★:ポーション
 効果:HP回復量110
 クールタイム:300秒
***************************************

 星マークに色が付いた。
 ☆が二つになる訳じゃないのか。
 ってことは、薬草の種類によってマークが変わる?
 なら、草の枚数とか変えるとどうなる?

 余っているのはただの元気草だけ。
 ひとり用土鍋に水はおたま一杯。草を二枚入れる。

 いや、待てよ。
 さっきの解毒ポーションの時は、そもそも草を受け入れなかったじゃないか。
 まるで磁石のS極同士をくっつけようとするかのごとく、弾かれていたんだぞ。
 それが今はどうだ?
 普通に二枚目入れられたぞ。

 よ、よし。ここからは丁寧に――。

 無事完成したポーションはというと、

***************************************
 手作りライフポーション☆☆+:ポーション
 効果:HP回復量70
 クールタイム:300秒
***************************************

 やっぱりか。
 同じ草の枚数が、そのまま星の数になるんだな。

 ☆と★。クールタイムは同じだけど、どうなんだろう?
 試しに☆を一本飲んで、直ぐに★を飲んで――飲めた!

 ただし、プラス記号の有る無しは関係ないようだ。同一ポーションとみなされるらしい。
 今後はきっちり水洗いして、丁寧にかき混ぜるようにしよう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~

桐野 紡
SF
高校生の稜威高志(いづ・たかし)は、気づくとプレイしていたVRMMO、アルゲートオンラインに似た世界に飛ばされていた。彼が遊んでいたジョブ、侍の格好をして。異世界で生きることに決めた主人公が家族になったエルフ、ペットの狼、女剣士と冒険したり、現代知識による発明をしながら、異世界を放浪するお話です。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

UWWO ~無表情系引きこもり少女は暗躍する?~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
フルダイブ型VRMMORPG Unite Whole World Online ユナイト・ホール・ワールドオンライン略称UWWO ゲームのコンセプトは広大なエリアを有する世界を一つに集約せよ。要するに世界のマップをすべて開放せよ。 そしてようやく物語の始まりである12月20に正式サービスが開始されることになった。 サービスの開始を待ちに待っていた主人公、大森あゆな はサービスが開始される15:00を前にゲーム躯体であるヘルメットにゲームをインストールしていた。 何故かベッドの上に正座をして。 そしてサービスが始まると同時にUWWOの世界へダイブした。 レアRACE? 何それ? え? ここどこ? 周りの敵が強すぎて、先に進めない。 チュートリアル受けられないのだけど!? そして何だかんだあって、引きこもりつつストーリーの重要クエストをクリアしていくようになる。 それも、ソロプレイで。 タイトルの副題はそのうち回収します。さすがに序盤で引きこもりも暗躍も出来ないですからね。 また、この作品は話の進行速度がやや遅めです。間延びと言うよりも密度が濃い目を意識しています。そのため、一気に話が進むような展開はあまりありません。 現在、少しだけカクヨムの方が先行して更新されています。※忘れていなければ、カクヨムでの更新の翌日に更新されます。 主人公による一方的な虐殺が好き、と言う方には向いていません。 そう言った描写が無い訳ではありませんが、そう言った部分はこの作品のコンセプトから外れるため、説明のみになる可能性が高いです。 あくまで暗躍であり、暗殺ではありません。 いえ、暗殺が無い訳ではありませんけど、それがメインになることは確実に無いです。 ※一部登場人物の名前を変更しました(話の内容に影響はありません)

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

処理中です...