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 作りかけの丸太壁の向こうに、見慣れない――いやある意味見慣れた物がそびえ立っていた。

「こんにちは、にゃんご。あれはなんだ?」
「いらっしゃいお客ニャん。あれはお客ニャんが植えたケヤキニャよ」

 ・ ・ ・。

「うおおぉぉぉぉぉっ!」
『ワオオオォォーンッ』
「ケヤキが成長したぞおおぉぉぉぉつ」
「それぐらいで吠えなくってもいいニャよ。植えたニャから、生えて当たり前ニャろ?」

 最初に十五本植林して、あとで二十二本追加してある。
 成長していたのは十七本。うち七本が大きく、十本は10メートルぐらいか。
 ということは約半分が無事に成長しているってことか。
 よく見ると枯れた苗木がある。もう少ししたらデータの藻屑と化すんだろうな。

 切るのはあとにしよう。
 まずは採取だ。
 元気草を集めてポーションを作らなきゃいけない。

 駒田との取引で、情報を内緒にして貰う代わりにポーションをタダでくれてやる約束をしたからだ。
 
「にゃんご、空き瓶三十本売ってくれ」
「150Gニャ」

 三十本分の元気草を摘み取り作業開始。

「あ、ワオールはいつものようにしてていいぞ」
『ワオォーンッ』

 嬉しそうに駆け出したワオールが、早速モンスターを瞬殺していく。
 それを見届け俺はやるべきことに取り掛かった。

 竈に火を入れ――あぁ、夜でもないのに焚火を消耗するのって勿体ないな。
 とか思いつつ元気草を煮詰めて――今回は水の色が変わったところで鍋掴みが登場!
 そして鍋を――とりあえずにゃんごの木箱の上に移動させよう。
 これでぐつぐつ沸騰することもない。安心して空き瓶に移し替えて、空になったら再び水を入れ元気草を煮込む。
 こぼすことなく『手作りライフポーション☆』が三十本完成した!

「うおおぉぉぉぉっ!」
「出来上がったのかニャ。いちいち叫ばなくてもいいニャよ」
「えー……そう言うなよぉ」

 せっかくの喜びの表現が。
 そうこうしていると、ピコーンっという甲高い音が聞こえた。
 視界には【マッキーさんからメッセージが届いています】と浮かぶ。
 駒田 恭介。略してマッキーね。

 スマホのコミュニケーションってのを開くと、メッセージボックスがそこにはある。
 これも駒田に教えて貰っていた。
 メッセージの差出人項目をタップすると、【返信】【削除】【通報】【フレンド登録】の四つの項目がある。
 間違っても【通報】を押すなよと駒田に言われていたが、間違って押しそうな位置じゃないか!

 で、ここでは【フレンド登録】を選択。
 ちなみにメッセージ内容は――「あ」の一言だけ。

【マッキー:あ】

 今度はチャットウィンドウだぞ!
 どうやって返信するんだよちくしょう。

【マッキー:チャットわかんねーか】
【マッキー:ウィンドウの左側タップしたら、俺の名前でてるはず】
【マッキー:あとは普通にチャット打ち込むんだ】
【マッキー:あ、その時点でホログラムキーボード出てるからな】

 うん、確かに出てた。
 それを使ってメッセージを打ち込む。

【クー:い】
【マッキー:う】
【クー:え】
【マッキー:おいそのぐらいにしようぜ】

 最後まで続けてるじゃないか。

【マッキー:ぶつは出来たか?】
【クー:出来た。30あるけどどうする?】
【マッキー:20でいいよ。お前も使うだろ?】
【クー:たぶん?】
【マッキー:いらないなら買うよ。星ひとつだろ?】
【マッキー:こっちの町だと一本相場30Gで売ってるけど】

 え? なんで30??
 にゃんごが売ってるポーションより回復量少ないんだぞ?
 そう尋ねると、なんでもポーションには再利用時間「クールタイム」ってのがあって、NPC販売と調薬のとではそれぞれ別々にカウントされるとのこと。

【マッキー:ただしNPC売りだと初級も中級も同じクールタイム扱いで】
【マッキー:調薬で作るのも星が違おうが同じクールタイム扱いなんだ】

 初級ポーションを飲んですぐ、手作りポーション☆は飲める。
 でも初級ポーションを飲んですぐ、中級ポーションを飲むことは出来ない。
 同じように手作りポーション☆を飲んだ後、☆☆を飲むことは出来ない。

【マッキー:だから効果は低くても、手作りが高くなっちまうんだ】
【マッキー:プレイヤー産の値段を付けるのもプレイヤーだからな】

 そういうことか。
 でも友達だし、このゲームを教えてくれた恩人でもある駒田に、相場と同じ価格なのは気が引けるな。
 だいたい相場ってことは、これより安く売ってる人もいるってことだろうし。

【クー:駒田だけなら一本20Gでいいよ。ただし大量には作れないから】
【マッキー:え、マジで!? 時々でいいから売ってくれないか?】
【クー:一日三十本ぐらいなら時間あるからいいよ】
【クー:俺も貧乏だから買って貰えると助かるし】
【マッキー:ok。じゃあ今日は20本貰いで10本買いな】

 顧客ゲット。
 フレンド登録が出来れば、遠く離れた相手にもアイテムを送ることが出来るようになる。
 宅配っていうシステムを使うらしく、現実での一日三回までは無料で使える。
 それを過ぎた場合は一度に5G支払うことに。
 
 コミュニティーから【宅配】を選んで、送る相手はマッキーしかいないっと。
 送るアイテムも、所持品から自動的にリストアップされるので、それを選択。
 個数を入力すればOKか。
 簡単だな。

 最後に「宅配」ボタンを押せば――。

【マッキー:届いた。今200G送ったから】

 チャットが出たのとほぼ同じタイミングで【アイテム入りメッセージが届きました】と浮かぶ。
 メッセージを開くと、200G入っています。受け取りますか? というような内容だった。
 YES/NOとあるけど、ここでNOを押すとどうなるのか。返金されるのか。
 やってみたい。

 ポチっと。

 普通にメッセージが閉じただけで、もう一度開くと同じ内容が。
 じゃあ受け取ろう。

【クー:受け取った。まいどあり~】
【マッキー:なんか面白い情報とかアイテム見つけたら教えてくれ】
【クー:植林したら木が生えたぞ! 昨日植えたばっかなのに】
【マッキー:ゲーム内時間で24時間らしいぞ】

 ふーん……なんだ。知ってたのか。

 駒田との会話を終了させると、成長したケヤキが八本になっていた。
 突然伸びるのかよ……。

 そろそろ夕方になる時間だな。ケヤキ林まで往復する時間もないし。アレを伐採して午前中の分と合わせて切っておくか。
 暗くなってから丸太の壁造り再開だ!
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