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 地図をいろいろ弄ってみると、表示されている部分であれば距離を測ることができた。
 自分からの距離ではあるけれど。
 一度自分のアイコンをタップし、そのまま測りたい場所まで指を動かしていくだけという、簡単な方法だ。

 にゃんごの所から見えていた木のある所までやってきたが、ここまで約2800メートル。だいたい三十分ぐらい歩いたかな?
 
「この辺りのモンスターは、自発的に襲って来なさそうだな」
『ワフゥ』

 なんとなく項垂れているワオール。
 空腹は……ゲージがひとつ消えているが、まだ平気だ。
 じゃあなんで落ち込んでいるのだろう。

「木を切るのが嫌なのか?」

 首を左右に振っている。

「モンスターに襲われたいのか?」

 若干迷いつつ、首を縦に振った。
 ワオールはマゾだった。

 と思ったがちょっと違う?
 まるでシャドウボクシングでもするように、拳を突き出し突き上げ、そして最後は蹴り!

「戦いたいのか!?」
『ワオオォーン!』

 頷き、尻尾もぶんぶん振っている。
 そうか。ワオールは戦いたいのか。

「わかった。俺はここで木を切るから、近寄ってきたモンスターは片っ端から仕留めて行っていいぞ」
『ワッフワッフ』

 嬉しそうだ。
 働き手は減るが、これはこれで俺の安全も確保されるしいいか。
 それに夜の間の戦闘でわかったこともある。

 俺が直接倒していない敵の分も、俺のスキルポイントとしてカウントされているということだ。
 ワオールと俺とで、公平に分配されている――たぶんそういうシステムなんだろう。
 ということはだ。
 俺は物作りをしていながら、スキルポイントを稼げるってことだ。
 やっぱり獣魔召喚は最高です!

 ワオールは俺から少しだけ離れ、近くに居た無害なモンスターを一撃で瞬殺していく。
 俺が斧を取り出し、一振りする間に周囲のモンスターは全滅していた。

「えぇっと、俺から50メートルぐらいなら離れても大丈夫だぞ。万が一俺が襲われたら助けを呼ぶから……声はどのくらいまで届くんだろうな?」
『ワフ』

 ワオールは自分の耳を指差す。
 そういえば『聴力:LV1』ってスキルがあったな。

「とりあえず50メートルぐらい離れてくれるか? 名前を呼ぶから、聞こえたら手を振ってくれ」

 ワオールは頷いて駆け出す。そしてピタリと止まって振り返った。
 地図を見ると、ちょうど50メートルだな。

「ワオールゥ」
『ワオーン』

 両手を振っている。

「じゃあもう50メートル離れてくれ~」

 ワオール走る。そして振り返った。

「ワオールゥ」
『ワオォーン』

 やっぱり両手を振っている。
 もう50メートル……更に50メートル……。
 そして俺は気づいた。

 ワオールが俺の声を聴けても、俺がワオールの声を聴けないってことに。

「戻ってぇ、きてぇ、くれえぇ~」

 暫くするとワオールは嬉しそうに走って戻ってきた。

「うん。俺を中心に150メートルぐらいは、自由に狩りしてていいぞ」
『ワッフゥ』

 大喜びで駆け出すワオールは、手あたり次第に獲物を瞬殺していく。
 この辺一体のモンスターを根絶やしにするのも、そう遅くはなさそうだ。

 さて、俺も働こう。

 まずは『伐採』スキルを使ってみるか。
 スマホのスキル一覧から『伐採』を選ぶと、

【自動アシストモードに移行します】

 というメッセージが視界に浮かび、目の前にした木の幹にマーカーが現れた。
 ここを叩けといわんばかりの位置だな。
 そこ目掛け斧を振り上げると、なんと……体が勝手に動くじゃないか!

 カツーン、カツーンと、斧を叩きつけるたびに、マーカーの上に表示されたゲージが減っていく。
 ゲージがゼロになったら倒せるってことなんだろう。
 で、二十回ほど叩いて木が――。

「ふぁっ。倒れる前に消えた!?」

 もしかしてアイテムボックスか?
 うん。あった。
 アイテム名は「ケヤキ」か。実際の材木に使われる木を同じ名前なんだな。
 アイテム鑑定してみると、長さ20メートルのケヤキの丸太――とあった。
 壁にするにしても、20メートルの壁はいらないな。
 何本かに切り分けて使えばいいだろう。

 近くにあるケヤキの木は残り十本ぐらいだ。
 さくっと倒してしまおう。
 何本か切り倒していると、その都度スマホだしーの、スキルおしーのするのが面倒くさくなってきた。
 マーカーが出るのはまったく同じような位置だ。
 段々と体が覚えてきたので、試しにスキル無しで伐採してみることに。

 カツーン――お、ケヤキのHPゲージは出るんだな。
 カツーン、カツーンと――普通に倒せた。

 なるほど。自動アシストってぐらいだ。最初の慣れない時にだけ使ってね☆ってことだろう。
 ここの運営、デキルな。

 全部の木を伐採し終わったが、切り株は残っている。
 また生えてくるんだろうな。
 
 ちょっと奥にも何本か見えるな。
 ワオールを呼んで少し移動。そこでまたワオール自由行動、俺木こり作業を開始。
 途中で食事休憩を挟み、粗方伐採し終える頃には空が夕方モードになっていた。

「うおおぉぉぉぉっ! 伐採終わったぞおおぉぉぉっ!!」
『ワオッ? オオオォォォォォンッ』

 ワオールが走ってやってきた。
 全力で走る時は四足なんだよな、ワオールって。
 立ち止まるとまた二足歩行に戻り、俺の顔を覗き込む。

『オォーン?』
「ん? どうしたんだワオール」
『ワオオォォォォンッ』
「あぁ。お前も一仕事後の雄叫びをしたいのか。よし、一緒にやるぞ。うおおぉぉぉぉぉっ、伐採したぞおぉぉぉっ!」

 ワオールは一瞬首を傾げた後、ぽんっと手を叩いてから俺に続いた。

『ワオオオオォォォォォーンッ』
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!」
 
 ひとしきり雄叫びを堪能した後――。
 
「ワオール。戻ろうか」
『ワオッ』

 にゃんごの所まで戻った。到着早々さっそく夜に。

「お帰りニャ。薪木が必要かニャ?」
「買う」

 丸太を手に入れたばかりだが、これを燃やす気にはなれない。
 200G払って一晩分の薪木を購入。そして着火。

「ワオール、お腹空いたろ」
『ワオッワオッ』

 途中でウサギ肉を食べたのだが、それでもワオールのゲージは残り4。
 行動していると満腹ゲージが減りやすいんだろうな。
 俺も残り5だが食べておこう。

 塩と胡椒を振りかけ、味はまぁまぁよくなったけど……それ以外も食べたいな。
 にゃんごが売っている食料は「リンゴ」「バナナ」「パン」のみっつで、どれも15Gだ。
 満腹度の回復も全て15%。
 兎肉優秀すぎ。
 まぁ丸ごと一匹分だしな。大きいから当たり前か。
 今度焼くときは小分けにして、パンに挟めるようにしてみるとか?

「となると、料理スキルが必要になるとか、そういうオチなんだろうなぁ」
「うニャ?」
「いやね、肉を小分けに切り分けてパンに挟めるようにしたら、少しは味に変化つけられるよなぁっと思って」
「あぁ。包丁は料理スキル持ってないと、たいてい怪我するニャよ。それに上手く切れないし、無駄ニャ」

 やっぱりそういう罠があったか。

「ま、とにかく無事帰って来たニャから、アイテムボックスをちゃんと確認するニャよ。良い物あったら売って欲しいニャ」
「そっちは相変わらず、他のお客は来なかったようだな」
「ニャー。お客ニャんまだひとりニャねー。せめてしっかりとした壁が出来て、家が何軒か建てば他にも商人が流れてくるニャもしれないニャが」
「お? そうなの? でも商売敵が増えるんじゃ?」

 にゃんごは首を振ると「あっしは雑貨屋ニャ。武具は最低限の物しか取り扱えないニャ」と言う。
 にゃんごが売っている武器は、銅シリーズだけだ。
 その上には青銅、鉄、銀と続くが、この辺りの武器を取り扱えるのは、専門の商人だけだという。

 ふぅん。そういう縛りがあるのか。
 
 けどそれを聞いて俄然俺は燃え上がる!
 つまり俺が町を作るってことだろう?
 町になれば他のプレイヤーもここに集まってくるだろうな。
 ワクワクすんぞ。

「それで、何か良い物拾ったかニャ?」
「え、あ……ちょっと待ってな」

 にゃんごに急かされアイテムボックスを確認する。
 俺が拾ったのは丸太だけだろうが、ワオールがずっと自由行動だったしな。
 いろいろ拾っているだろう。
 解体スキルを使っていないので、単純にドロップオンリーになる。

**********************************************
 初心者用布の服
 初心者用布のズボン
 初心者用靴
 土×104
 シャドウラビットの毛皮×5
 斧×1
 ケヤキの丸太×64
 ケヤキの苗木×15
 チュチュの肉×10
 チュチュの尻尾×24
 人食いラビットの肉×11
 兎の毛皮×9
 兎の足×1
 糸×17
 頑丈な糸×2
 小さなボアの毛皮×7
 小さなボアの肉×13
 小さなボアの牙×5
 マンティスの鎌×26
 スライムゼリー×38
 粘着液×3
**********************************************

 いろいろあり過ぎる。
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