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1:勇者パーティーの最強賢者

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 むかしむかしあるところに、世界征服を目論む魔王がいたのじゃ。
 魔王に苦しめられてきた人々は異世界から力ある者を召喚し、魔王を倒して欲しいと懇願した。
 召喚された五人の若者はそれぞれ勇者、重騎士、聖弓師、聖女、そして賢者の力を授かり、八年の年月をかけ魔王を討ち取ったのじゃ。

 しかし魔王は滅びる前、全てを吸い込む時空の扉を開いてしまいおった。
 征服できぬなら、滅ぼしてしまえ──と。

 ここで訂正しよう。
 これは『むかしむかし』のお話ではなく、現在進行形の話だ。

 17歳の時に異世界へと召喚された俺たち五人が、八年かけてようやく魔王を倒したのがつい今しがた。
 だが魔王は時空の扉を開いてしまった。

『クク、クククク。全てを飲み込む時空の扉だ。こちら側・・・・からは、決して閉じることはできぬ』

 魔王《やつ》の最後の言葉を思い出す。
 つまり時空の扉から入って、向こう側からなら閉じることができるってことだろう。

「だから俺が中に入る」
「な、なにを言っているんだ賢志《ケンジ》! みんなで日本へ帰ろうって、約束しただろうっ」
「あぁ、そうだったな。でも誰かが中に入らなきゃ、この世界は──仲間は救えない。そして時空の扉を閉じるて、封印魔法を施す必要がある。それができるのは──」

 賢者である俺だけだ。
 こちら側から、もう何度も封印魔法だの物質操作魔法だのを使って扉を閉じようとしているが、魔法そのものが吸い込まれて意味を成していない。
 既に魔王城は崩壊し、瓦礫が扉へと吸い込まれていっている。
 そのうち周辺の木々や生物も吸い込まれ始めるだろう。

 この世界全ての魔法を網羅した俺でなければ、あの扉は封印できない。
 そして異空間から戻る方法を見つけることも、俺だけができることだ。

「だったら俺も行く! 賢志、お前ひとり置いていけるかっ」
「あぁそうだとも賢志。中学からの腐れ縁だ。この先にだって付き合ってやらぁ」
「勇人、一騎……」

 勇者としてこの世界に一緒に召喚された勇人。そして重騎士としてパーティーの盾役を担う一騎《かずき》。
 二人とは中学一年から高校まで、ずっと同じクラスだった親友だ。
 一緒に異世界に召喚され混乱した時も、お互い支え合ってきた。
 
「そうです賢志くんっ。私たち、どんな時でも一緒だったじゃないですか」
「そうよ。今さらひとりでかっこつけるなんで、そんなのズルい!」
「いや、ズルいって弓華……」

 高校から同じクラスになった聖良は、この世界で誰からも愛される聖女。
 弓華は百発百中の聖弓師。そして俺たちをいつも笑顔にさせてくれる、明るい女性だ。

 八年の間、苦楽をともにした大切な仲間で、家族みたいなものだった。
 だからこそ俺は……。

「頼む。ひとりで行かせてくれ。扉の封印に膨大な魔力を消費するだろう。その場合、戻るために必要な魔力を自分の分だけ残すのか、お前たちの分も残さなきゃいけないか……どっちがしんどいか、分かるよな?」
「……戻ってくるんだよな?」

 勇人の真っすぐな目が俺を見つめる。
 俺も真っすぐ勇人を見て、そして頷いた。

 ここで死ぬつもりなんて毛頭ない。
 だがすぐに戻ってこれるとも思っていない。
 なんせ扉の向こうは時空の狭間だ。時間の流れがこちらとは違うはず。

 ま、それをここで口にすると、それこそ勇人たちがまた「一緒に行く」と言ってきかないだろう。

「先に……先に日本へ戻っててくれ」
「時間がかかりそうか?」
「少し、な」
「必ずだぞ。必ず帰ってこい、賢志」
「待っているからな」

 勇人が手を出し、その手の上に俺の手を重ねる。その上に一騎の手。そしてまた勇人、俺、一騎。
 もう何百、いや何千回とやったか分からない、俺たちのお決まりのポーズ。

「賢志くんに女神アリテイシアの加護がありますように」
「賢志なら、大丈夫……うん、きっと大丈夫よね」
「聖良、弓華。こいつらをちゃんと日本に連れて行ってやってくれ」
「まっかせて!」
「はい。任されました」

 俺たちの手の上に、聖良と弓華の二人の手が重なる。
 ありがとう、二人とも。

 まるでこれから試合だと言わんばかりに、重ねた手を掲げ、それから──離した。
 
 くるりと仲間たちに背を向け、時空の扉へと向かう。

 扉の向こうはまるでブラックホールだな。
 漆黒の闇が光を吸い込み、ぐるぐると渦巻いて見える。

「賢志ぃーっ!」

 勇者──勇人の声に、俺は右拳を突き上げた。
 そして扉の中へ。

 さて、ここからだ。
 くるりと振り向き、巨大な扉に手をかける。
 さすがに手で開け閉めできるなんてことはないか。なら──

 左右の手を複雑に動かし、物質操作のための魔力を練り上げる。
 指定した物を、魔法で動かすという単純な魔法だ。
 ポルターガイスト現象に似ているか?

「"我が意に従い、動け──"」

 ぐぐ……と扉がわずかに動く。
 もっとだ。もっと魔力を!

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 魔王はもういない。残った魔力全てを注ぎ込んでも問題ない。
 物質操作を行いつつ、封印魔法の呪文を口ずさむ。

「"我が名において、何人も触れること適わず。とこしえに変わることなき姿を残し、いまここに封印す"」

 扉が閉じる瞬間。
 涙でぐしゃぐしゃになった仲間たちの作り笑顔が見えた。

 ったく、ヘタなんだよ。
 笑顔で見送るなら、もっと上手く笑えよな。

 ゴゴゴゴゴゴ、バタンっと閉じた扉に、すぐさま封印の魔法陣を焼き付ける。
 最後に俺の名前を指先に集中させた魔力で書き込んだら終わりっと。

「ふぅ。ひとまずこれで世界は救われたはずだ」

 あとは勇人たちが無事に日本に戻るだけ。
 まぁ、その辺は女神がちゃんとやってくれるだろう。





「なるほど。表の世界と時空間《ここ》とでは、魔力の流れが逆回転なのか」

 それに気づいたのは、隕石召喚《メテオ・ストライク》を使用したときだ。

 空間転移《テレポート》は発動せず、空間倉庫《アイテムボックス》も開けない。
 だが召喚系はわずかに反応。
 渦巻きのトンネルのような壁に、それとは逆回転の小さな渦が発生して──そして閉じた。

 それが隕石召喚魔法を使った時だ。

 だがそれだけでは空間転移は成功しないだろう。
 隕石を通すための穴もわずかにしか開かなかったし。
 おそらく俺の魔力とこの空間を構築する魔力が反発し合って、そうなるのだろう。

 ならば、全てを飲み込むという時空間の渦から流れる、この空間そのものの力を使わせてもらえばいい。

 分析──そして解析──時間──流れ──その本流。

 よし、理解した。
 隕石召喚と空間転移。これを合成させ、魔力の本流は時空間から抽出。

「"二つの空間を繋げ、我が求めし大地に、我を誘え──時空間転移"」

 向こうの世界とこちらとを繋げるための穴を召喚《・・》し、そして空間転移の魔法を応用した時空間転移として完成させる。
 上手く開いた小さな穴に吸い込まれた俺は、次の瞬間──

「んー……ここはどこの森だ?」

 時空間転移の魔法は成功した。
 だが問題はここがどこかってことだ。
 イメージしたのは、俺たちを召喚したアルトール王国の中庭なんだけどなぁ。
 どうみてもここは森の中だ。
 
 多少のズレはあるのかもしれない。もう一度、今度は空間転移の魔法を──

「きゃあぁぁぁぁっ」

 詠唱するよりも前に、女の悲鳴が聞こえた。
 意外と近くだな。行くかっ。
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