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13:キャンプ泊改め宿

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「では確認するぞ。まず、人族種どもの前では、荷車を出さぬこと」

 涼しい時間帯を選んで移動していたのもあって、町に到着したのはオアシスの村を出発して四日目の午前中だった。
 中へ入る前に、話し合ったことを再確認する。

「了解。最低限の荷物はリュックに入れた」
「うむ。次、テントは鈍器ということにしておく」

 ……なぜ?

「そうね。ノゾムさまの言う通り、テントは武器ってことにした方がいいわね。だってタック、テントでモンスターを殴り倒してるから」
「納得。じゃあ人前じゃテント張らない方がいいか」

 町中でテントを張るつもりはないけどさ。
 あと俺はアイラと同じ、オアシスの村出身ってことに。
 それなら、いろいろ知らないことだらけでも違和感がないからってことで。

「ノゾムさまも、町中ではお話しないでくださいね」
「無論だ」

 銀次郎は「小人ドラゴン」という種類の、トカゲ目モンスターの振りをして貰う。
 わりと似ているらしい。

 準備を整えた俺たちは、ついに町の中へと入った。
 外からは分からなかったけど、中は賑わっているなぁ。
 町と隣接するオアシスは、アイラの故郷のものよりも大きい。ガチの湖みたいなものだ。

「さて、どこに行けばいいんだろうなぁ」
「まずは素材の売却よね?」
「あぁ。重いし、早く身軽になりたい」

 昨日は久しぶりにモンスターを見た。もちろんテントでぶん殴って仕留めている。
 あっちの村の周辺にいたものより一回り小さいサソリだ。
 小さいと言っても、町中じゃカートは出せないからアイラと二人で縄で括って背負っている。

 町の人にモンスター素材の買取をしてくれる場所を尋ねると、やっぱり「冒険者ギルドだねぇ」と。
 道を聞きながらギルドまでやって来ると、それなりに人で賑わっていた。

「あっち。買取カウンターって書いてあるわ」

 空いているカウンターに向かって、買取依頼をする。

「冒険者ですか?」
「いえ、違います。ダメですか?」
「大丈夫ですよ。ただし手数料として、買取相場の二割を頂くことになります」
「構いません」

 よかった。冒険者登録をしていれば、手数料は一割だということだ。
 高額買取になればなるほど、その一割がデカくなっていくって訳だな。

 素材の数が少ないのもあって、査定はすぐに終わった。

「合計で、銀貨三枚になります」

 それを聞いてアイナを見る。彼女もどうやらピント来ていないようだ。

「すみません。俺たちオアシスの村から来たんですが、この町の宿って一泊いくらぐらいですか?」
「宿の質にもよりますが、平均的な宿で大銅貨二枚ほどです。あ、銀貨は大銅貨一〇枚分ですよ」
「ありがとうございます」

 ひとりなら五泊で銀貨一枚か。そう考えると、銀貨三枚は決して安くはなさそうだ。
 お金を受け取って外へと出る。

「どうする? 今夜は宿に泊まってみる?」
「ん、んー……タックが泊まりたいなら、それでも、いい、わよ」

 そう言いながら彼女はしきりと髪に触れている。
 四日間、風呂に入ってないもんなぁ。
 そりゃあ毎日、お湯を沸かしてタオルで体を拭いたり髪を濡らしたりもしてるけどさ。

「うん。宿に泊まろう」

 と俺が言うと、アイラの表情がパァっと明るくなった。





 風呂付宿は、ギルドで聞いた価格より大銅貨一枚分多かった。
 一般的な宿には風呂がないらしい。
 
 風呂を済ませて部屋い戻ったら、銀次郎はベッドの上でとぐろを巻くようにして眠っていた。
 うるさくない今のうちに、昼食用のホットサンドでも作っておくか。
 ハムサンド、焼き鳥サンド、あとポテトサラダサンドも作るかな。
 せっせせっせとホットサンドを作っていると、アイラが戻って来た。
 頬を紅潮させたアイラは、山積みになったホットサンドを見て笑った。

「ちょっと、何それ。いったいいくつ作ってるのよ」
「んー、これで三十三個目かな?」
「ぬおおぉぉぉぉぉっ! キャンプ飯のニオイがするぞぉぉぉぉーっ」
「あ、起きた。おい、静かにしろよ。しー、だ。しー」

 ベッドでとぐろを巻いていた銀次郎が、ぴゅーっと飛んで来てホットサンドの山へとダイブした。
 はぁ……飲み物用意しておくか。

 銀次郎と俺は炭酸コーラを、アイラは苦手そうだしアイスココアを用意。
 キャンプと言えばコーヒー……なんていう奴は多いけど、俺、コーヒー飲むと吐き気をおこすんだよなぁ。

「はぁ~、お風呂のあとのアイスココアって最高~」

 満面の笑みを浮かべながらアイスココアを飲むアイラ。
 アイラのお気に入りはココアの他に、きなこ団子、あとお湯を注ぐだけのインスタントお汁粉だ。
 甘いものが好きってあたりは、女の子だなぁと感じる。

「何日か滞在することになるけど、今日はゆっくり休むか」
「そうね。ずっと歩きっぱなしだったもんね」
「はぁー、貧弱よのぉ。これだから人族種は」
「その人族種の頭にずーっと乗ったままなのは、どこのどのドラゴン様でしたっけ?」
「……さ、さぁて、ひと眠りするか。ゲフッ」

 炭酸コーラを一気飲みしたあと、またベッドの上でとぐろを巻いて眠ってしまった。
 目を閉じると秒で寝れるって、羨ましい体質だな。

 明日からこの町を拠点にして、路銀稼ぎだな。
 北の山脈を越えるためのルートとかも調べておかないと。

「ふぐっ」
「んぁ? どうした、銀次郎」

 眠っていたかと思ったら、突然銀次郎が呻った。
 ぼぉっとした顔で「おかん」とか言っている。

 おふくろさん?
 ドラゴンの母親……まぁいたっておかしくはないけど。

 おふくろさんがどうしたのか尋ねようと思ったが、銀次郎はまた瞼を閉じて秒で寝てしまった。

「夢でも見たんじゃない?」
「ぷっ、母親の夢か。案外、甘えっこなのかもなぁ」
「えぇー、ノゾムさまが? ふふ、まっさかぁ」


 俺たちが小声でそんな話をしている最中、遠い南の魔瘴の森では──





「くふ、くふふふふふ。さすがですわ。わたくしのこの肌に傷をつけたのは、あなたが初めてですわよ。くふふふふふ」

 漆黒の鱗に身を包んだ巨大な生き物が、北の空を見上げて咆哮した。

 
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