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「それで、最下層攻略まであとどのくらいだ、スティアン?」
ここは第二皇子ラインフェルトの自室。そこには本人と、そして冒険者クラン、紅の旅団団長スティアンの姿があった。
「ダ、ダンジョンは最下層が何階なのかがその、わ、分かりませんので」
「ちっ。他の冒険者に先を越されるなよ!」
質問に対して明確な答えを口にしないスティアンに対し、第二皇子は不機嫌になる。
それに対してスティアンは怯えたように体を震わせ、一歩後ずさりながら頷いた。
「ご、ご心配には及びません。我が『紅の旅団』が、攻略済みの下層の階段を封鎖しておりますので、他の奴らが立ち入ることは出来ませんので」
「封鎖すればいい訳ではないぞ。貴様がとっとと最下層を見つければ済むことだ」
「は、はい……」
「アレスタンもあのダンジョンには行っていたはずだが、貴様は見なかったのか?」
「ア、アレスタン皇子ですか……申し訳ございません。わたくしめはあの方のお顔を知りませんので」
スティアンのその返答にも、ラインフェルトは舌打ちする。
仕方のないことだ。
アレスタンは極端に顔を出すことを避けている。
というより、ほとんど公の場に顔を出させて貰えないといった方が正解か。
何故そうなっているのかと言えば、第二皇子ラインフェルトの母であり、現皇妃によるものだ。
「ダンジョン内であれば、あやつの抹殺も楽なのだろうが」
「だ、第三皇子の……あ、それなら」
と、スティアンの声に明るさが戻る。
彼は思い出していた。
ダンジョンに入って少し奥に行ったところには、暗殺向きの場所があることを。
「地下一階に深い穴がありまして。恐らく最下層近くまで続いている穴だと思うのですが、そこに誘いだせば、簡単に──」
その先は言わないが、ラインフェルトは察した。
「誰にも見つからずにやれるのか?」
「はい。穴へと通じる通路を塞ぎますし、落してしまえば死体も残りません。なんせ穴の先にはモンスターがうようよしているでしょうから、死体を綺麗に片付けてくれるはず」
「失敗は許されないのだぞ。万が一、穴が浅かったどうするっ」
「ご安心ください。先日、その穴に落としてやった冒険者がおりまして。わたくしの邪魔ばかりするので、目障りだったのですが。生きていれば地上を目指して上ってくるでしょうから、遭遇しているはずです」
今現在、モーリアの迷宮は地下十三階までの階段が発見されている。
八階から下は、『紅の旅団』が階段を封鎖していた。
階段を上ってくるのなら見つけているはずだし、穴が地下八階から上のどこかに繋がっているのなら、今毎冒険者ギルドに駆けこんでいるはず。
その両方がないということは──
「なるほど……よし。では私が奴をおびき出してやるから、貴様は……いいな?」
「承知しました」
アレスタンをおびき出す策は、第二皇子に心当たりがあった。
先日、城内を慌ただしく駆ける騎士と女司祭を見つけ、それがアレスタンの従者であることに気づくと、第二皇子は二人を拘束して地下牢へと閉じ込めている。
主人を連れず、慌てた様子の二人を不審に思ってもしかするとアレスタンの身になにかあったのかと喜びはしたが、二人は一切何も話そうとしない。
(あの二人がお前を探すためにダンジョンへ向かった──そう話せばアレスタンはモーリアの迷宮に飛んでいくはず)
「あの従者もようやく役に立ちそうだ」
くくく、と含み笑いを浮かべる。
目障りなアレスタンが死ねば、帝位を手に入れるのも容易だろう。
皇妃の子である自分こそが、最も皇帝に相応しい。
幼い頃からそう教えられ、本人もそれを信じている。
だからこそ邪魔なのだ。
半年違いの兄、第一皇子クリフィトンが。
そしてそのクリフィトンを推す弟のアレスタンもまた、邪魔な存在だった。
「死体が残らないのは残念だが、まぁいいだろう。奴が死んだ後は、クリフィトンだ。くく、くはははは。ふはははははははっ」
恍惚な笑みを浮かべるラインフェルトの姿が、窓に映し出される。
その姿をげんなりした表情で見つめる存在がいた。
『という訳だ。まったく呆れてものも言えぬわっ』
ラインフェルト皇子が怪しい。そう思ってデンに後をつけさせたんだが……なんというか……。
セシリアが風の精霊を召喚して、デンと一緒にディアンとキャロン探しを手伝わせたが、なかなか面白いことになった。
『シルフにはやまびこの性質があって、記憶した会話をそのまま声真似することが出来る。注意せねばならんのは、一度きりということだ』
「じゃあここぞって時に声真似させたほうがいいな」
しかしまさか弟と兄の暗殺を、平然と企んでいやがったとは。しかもそれをスティアンに命じてるとはなぁ。
大丈夫なのか? スティアンみたいな雑魚で。
「デンの説明だと、スティアは自分が突き落とした相手が皇子だって、気づいてないな」
「そのようだな。実はこの後、ラインフェルトがフォルオーゲスト侯爵子息を伴て、父上に謁見することになっている」
と、第一皇子のクリフィトンが言う。
皇帝からの評価を上げる為だろう。
アレスは流石にショックを受けているのか、俯いて肩を震わせていた。
仲が悪いとはいえ、兄弟だ。辛いだろう。
「ふふ……」
ん?
「ふふふふふふふ。あはははははははっ」
「ア、アレス?」
アレスが、壊れた?
実の兄が、暗殺計画を企てていたことを知って、やっぱりショックなのか。
「あははは。はぁ……これまで何度も暗殺されかけて来たけど、犯人が分かっているのに証拠がないから問い詰められなかったんだ。それなのに、こんなにあっさり証拠を掴めるなんて」
「え、何度も?」
「あぁ、そうだよ。私も兄上も、何度か殺されかけているんだ」
「王族なんて、そんなものだよ」
この兄弟はあっさりしているな。
でも小さい頃からそういう環境で育ってんなら、慣れてしまっていても仕方ないのかもしれない。
心底、貴族だの王族だのに生まれなくて良かったと思うよ。
まぁだからって地下での暮らしが良い訳じゃねえが。
「ディアンたちの居場所も分かったことだし、救出に行くのか? 逝くなら手伝うが」
「いや。地下牢にはラインフェルト兄さんの手の者もいるだろう。私が行けば、計画に気づいたことを知られてしまう」
そうなれば、強硬手段に出るかもしれない。
何をしでかすか分からないので、それは避けたいところ。
なら俺とセシリアで──そう思ったが、
「出来れば君にも一緒に来て欲しいんだ。その方がきっと楽しくなるからね」
そう言ってアレスは微笑んだ。
ここは第二皇子ラインフェルトの自室。そこには本人と、そして冒険者クラン、紅の旅団団長スティアンの姿があった。
「ダ、ダンジョンは最下層が何階なのかがその、わ、分かりませんので」
「ちっ。他の冒険者に先を越されるなよ!」
質問に対して明確な答えを口にしないスティアンに対し、第二皇子は不機嫌になる。
それに対してスティアンは怯えたように体を震わせ、一歩後ずさりながら頷いた。
「ご、ご心配には及びません。我が『紅の旅団』が、攻略済みの下層の階段を封鎖しておりますので、他の奴らが立ち入ることは出来ませんので」
「封鎖すればいい訳ではないぞ。貴様がとっとと最下層を見つければ済むことだ」
「は、はい……」
「アレスタンもあのダンジョンには行っていたはずだが、貴様は見なかったのか?」
「ア、アレスタン皇子ですか……申し訳ございません。わたくしめはあの方のお顔を知りませんので」
スティアンのその返答にも、ラインフェルトは舌打ちする。
仕方のないことだ。
アレスタンは極端に顔を出すことを避けている。
というより、ほとんど公の場に顔を出させて貰えないといった方が正解か。
何故そうなっているのかと言えば、第二皇子ラインフェルトの母であり、現皇妃によるものだ。
「ダンジョン内であれば、あやつの抹殺も楽なのだろうが」
「だ、第三皇子の……あ、それなら」
と、スティアンの声に明るさが戻る。
彼は思い出していた。
ダンジョンに入って少し奥に行ったところには、暗殺向きの場所があることを。
「地下一階に深い穴がありまして。恐らく最下層近くまで続いている穴だと思うのですが、そこに誘いだせば、簡単に──」
その先は言わないが、ラインフェルトは察した。
「誰にも見つからずにやれるのか?」
「はい。穴へと通じる通路を塞ぎますし、落してしまえば死体も残りません。なんせ穴の先にはモンスターがうようよしているでしょうから、死体を綺麗に片付けてくれるはず」
「失敗は許されないのだぞ。万が一、穴が浅かったどうするっ」
「ご安心ください。先日、その穴に落としてやった冒険者がおりまして。わたくしの邪魔ばかりするので、目障りだったのですが。生きていれば地上を目指して上ってくるでしょうから、遭遇しているはずです」
今現在、モーリアの迷宮は地下十三階までの階段が発見されている。
八階から下は、『紅の旅団』が階段を封鎖していた。
階段を上ってくるのなら見つけているはずだし、穴が地下八階から上のどこかに繋がっているのなら、今毎冒険者ギルドに駆けこんでいるはず。
その両方がないということは──
「なるほど……よし。では私が奴をおびき出してやるから、貴様は……いいな?」
「承知しました」
アレスタンをおびき出す策は、第二皇子に心当たりがあった。
先日、城内を慌ただしく駆ける騎士と女司祭を見つけ、それがアレスタンの従者であることに気づくと、第二皇子は二人を拘束して地下牢へと閉じ込めている。
主人を連れず、慌てた様子の二人を不審に思ってもしかするとアレスタンの身になにかあったのかと喜びはしたが、二人は一切何も話そうとしない。
(あの二人がお前を探すためにダンジョンへ向かった──そう話せばアレスタンはモーリアの迷宮に飛んでいくはず)
「あの従者もようやく役に立ちそうだ」
くくく、と含み笑いを浮かべる。
目障りなアレスタンが死ねば、帝位を手に入れるのも容易だろう。
皇妃の子である自分こそが、最も皇帝に相応しい。
幼い頃からそう教えられ、本人もそれを信じている。
だからこそ邪魔なのだ。
半年違いの兄、第一皇子クリフィトンが。
そしてそのクリフィトンを推す弟のアレスタンもまた、邪魔な存在だった。
「死体が残らないのは残念だが、まぁいいだろう。奴が死んだ後は、クリフィトンだ。くく、くはははは。ふはははははははっ」
恍惚な笑みを浮かべるラインフェルトの姿が、窓に映し出される。
その姿をげんなりした表情で見つめる存在がいた。
『という訳だ。まったく呆れてものも言えぬわっ』
ラインフェルト皇子が怪しい。そう思ってデンに後をつけさせたんだが……なんというか……。
セシリアが風の精霊を召喚して、デンと一緒にディアンとキャロン探しを手伝わせたが、なかなか面白いことになった。
『シルフにはやまびこの性質があって、記憶した会話をそのまま声真似することが出来る。注意せねばならんのは、一度きりということだ』
「じゃあここぞって時に声真似させたほうがいいな」
しかしまさか弟と兄の暗殺を、平然と企んでいやがったとは。しかもそれをスティアンに命じてるとはなぁ。
大丈夫なのか? スティアンみたいな雑魚で。
「デンの説明だと、スティアは自分が突き落とした相手が皇子だって、気づいてないな」
「そのようだな。実はこの後、ラインフェルトがフォルオーゲスト侯爵子息を伴て、父上に謁見することになっている」
と、第一皇子のクリフィトンが言う。
皇帝からの評価を上げる為だろう。
アレスは流石にショックを受けているのか、俯いて肩を震わせていた。
仲が悪いとはいえ、兄弟だ。辛いだろう。
「ふふ……」
ん?
「ふふふふふふふ。あはははははははっ」
「ア、アレス?」
アレスが、壊れた?
実の兄が、暗殺計画を企てていたことを知って、やっぱりショックなのか。
「あははは。はぁ……これまで何度も暗殺されかけて来たけど、犯人が分かっているのに証拠がないから問い詰められなかったんだ。それなのに、こんなにあっさり証拠を掴めるなんて」
「え、何度も?」
「あぁ、そうだよ。私も兄上も、何度か殺されかけているんだ」
「王族なんて、そんなものだよ」
この兄弟はあっさりしているな。
でも小さい頃からそういう環境で育ってんなら、慣れてしまっていても仕方ないのかもしれない。
心底、貴族だの王族だのに生まれなくて良かったと思うよ。
まぁだからって地下での暮らしが良い訳じゃねえが。
「ディアンたちの居場所も分かったことだし、救出に行くのか? 逝くなら手伝うが」
「いや。地下牢にはラインフェルト兄さんの手の者もいるだろう。私が行けば、計画に気づいたことを知られてしまう」
そうなれば、強硬手段に出るかもしれない。
何をしでかすか分からないので、それは避けたいところ。
なら俺とセシリアで──そう思ったが、
「出来れば君にも一緒に来て欲しいんだ。その方がきっと楽しくなるからね」
そう言ってアレスは微笑んだ。
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