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「よし。これで君が望んだ形になったと思うよ。それと、楽して最下層にたどり着く裏技はもう使えないから」
「サンキュー、迷宮神。理想の住処が造れそうだ。それにしても……なんたって迷宮神はこんなことを?」

 あまり長い時間は掛けていられないと思ったが、せっかくならいい環境を造りたい。
 いろいろ要望を伝えたところ、まさかのオプション設置を認めてくれた。もちろんポイント必須なので、その分構造自体はシンプルなものになっている。
 迷宮神が何故こんなことをするのか。
 そもそもダンジョンに人が暮らせる環境を造って、何がしたいのか。

「そうだね……僕が神として存在するため……かな」
「神として?」

 突然視界が薄れ始めた。自分の意識がどこか遠くへ引っ張られている感覚に襲われる。

「人の記憶から忘れ去られた神は、世界から消えてなくなるんだ」

 どこか悲し気な声を最後に、俺の意識は──



「リヴァ!」

 倒れ込むようにして、セシリアが俺の胸に飛び込んで来た。

「セシリア!? 意識が戻ったのかっ」
『ふふん。主の魔力の一部を、セシリアに流し込んでやったのだ。感謝するがいい』
「でも魔法を使えるほどの魔力じゃないから、連戦は無理」

 そう言って彼女は笑った。
 いやいや、俺だって連戦なんかしたくねえから。

「二人とも随分待たせたな。さ、地上に出ようぜ」
「随分? なんのことだい、リヴァ」
「え、なんのことって……」

 視界の隅にアークデーモンの死体が見えた。その死体は現在進行形でどろりと溶け、地面に消えていく。
 あの白いタイルの世界で少なくとも三〇分は過ごしたはず。
 モンスターの死体は一分かそこいらしか残っていない。

 じゃああの空間にいた時間は……夢?

『にゃはは。どうやら迷宮神の所にいたようだな』
「デン! 知っていたのか?」
『奴は主らを初めて訪れた者と言ったであろう。つまりこの迷宮が出来て、奴を倒したのが我が初めてということだ。で、我は主の魔力によって完全召喚されておったからな』
「リヴァが迷宮神と!? では、上層階を?」

 アレスの問いに頷く。
 ただ実感がない。あれは本当の出来事だったのか?

「ねっ、ねっ。アイテムは? あっち、魔法陣出てるよ」
「おっと、そうだ。乗り損ねたら本当に徒歩で出なきゃならなくなる。それにせっかく苦労して倒したんだ、お宝は貰って帰らなきゃな」

 アークデーモンのドロップは、デカイ魔石数個と宝石みたいな石がごろごろ。
 それと腕輪が一つだ。

 回収して魔法陣に乗り込み地上へ。

 六日ぶりとなる地上は……なんか見覚えのある景色だな。
 ここって、もしかして──。

「山ん中で見つけた、ゴブリンとスケルトンが出るダンジョンじゃねえか?」
「あ、本当だ。あそこに湖もある」
「ん? 二人が知るダンジョンなのかい?」

 少し離れた場所には大きな湖が見える。透明度が高く、近くの山が水面に映し出されていて絶景ポイントだ。

 間違いない。迷宮都市から北に行った巨大な山脈の中の、あのダンジョンだ。
 地下一階しか入ったことがないが、ツルハシを持った変なスケルトンが出る──

「一階!? そうだ、ダンジョンの設定!!」

 あれが夢ではなく現実だったなら。

 くるりと踵を返し、岩穴へと下りる。
 夢でなければ、階段の先に広がるのは……。

「草原? リヴァは迷宮神の下に行ったのではないのかい?」
「いや、行ったさ。そうだよ、これが俺が望んだ地下一階なんだ」

 長い階段の先に広がっていたのは、広大な草原だ。
 階段の裏手奥には小高い山がある。

 そう。一つの階層で、選択可能なダンジョン構造はなにも一つじゃない。
 そこで地下一階は、八割を草原にして二割を山に。
 草原や山を選択といっても、ここから更に迷宮神がテンプレ風景を見せてくれて、その中から自由に選べるって言うなかなか新設設計だ。
 山から流れ落ちる滝なんてのもあったから、それを選ぶと自然に草原まで川が流れることに。

 背後の山はどこまでに続いているように見えて、実際は途中で見えない壁にぶちあがる──というのが迷宮神の言葉だ。
 草原もまた然り。

「リ、リヴァ!? たいへんよリヴァ! 火事になってる!!」
「え、火事?」
「あそこ、煙でてる!」

 慌てたように声を荒げるセシリアが指さしたのは、後ろにある山の麓だ。
 白い煙《・》がもくもくと立ち上っている。

「あぁ、アレね。大丈夫だセシリア。あれは煙じゃなくて、湯気だからさ」
「ゆ、げ? 温かいお湯からでてる、あれ?」
「そう、その湯気だ。さ、行こうぜ!」

 セシリアにのを伸ばし、彼女の手を掴む。
 湯気の立ち上る場所へと駆け、ぼこぼこと煮えたぎる小さな池だ。
 高さ一メートルほどの場所にあって、周囲は岩で囲ってあって人工的に作られたようにも見える。

「リ、リヴァ。これお風呂?」
「入ったら全身火傷で死ぬぞ」
「だよねぇ……え、これなんなの?」
「あぁ、これはな──源泉、だ」

 つまり、念願の温泉を手に入れたってこと。

 ちょうど住む場所を探していたところだ。ここに家を建てる。温泉付きの一戸建てだ!
 草原は耕して畑を作ることも出来る。
 ただダンジョンは元に戻ろうとする力が働くため、草は地上の倍の速度で伸びるだろうって。
 こまめに草むしりが必要だが、自給自足は可能だ。

 そして地下二階は草原と森エリア。森では薬草なんかも自生するって言うんで、採取して売るのもいいだろう。

 地下三階はリゾートエリアだ!
 草原三割、砂漠一割、そして残り六割が海!!
 砂漠は砂浜の演出用だ。

 ここまででポイントは80。源泉も特別にオブジェとして創造して貰ったが、これにも10ポイント消費している。
 四階と五階は、九割が草原で、残りを洞窟──つまり俺が育った地下街と同じものにして貰った。
 使い道は何も考えてないけど、草原が妥当だろうと思って。

「ここに家を建てて、暮らそうと思う」

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