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 大型モンスター数十体に追いかけられ、小部屋に戻ろうとしたが道を間違えた。
 で、その先に都合のいい鉄で出来た人サイズの扉があった。
 鉄の扉なんて奴らが本気になればあっさり破壊されるだろう。
 だけど扉の中に入ってしまうと、奴らは俺たちを追いかけていたのもすっかり忘れたように通り過ぎて行った。

 で、その中にいたのがアレだ。

 かなり広い空間。
 奥には玉座があって、扉からそこまでレッドカーペットが敷かれた、まるで王の間だ。

 魔神将ってことは、悪魔《デーモン》系──か!?

『返事をせよ』

 んなっ。
 さ、さっきまで奥にある玉座に座ってたじゃん!?
 早すぎるだろ、おい。

『それとも、まさか余を討ち取りに来たとでも?』
「そのまさかだ。てめぇとぶっ倒して、俺たちは地上に出る」

 瞬き一つ──止まれっ。
 その瞬間にアレスとセシリアが動く。

『さすがにアークデーモン相手では我の力が必要であろう。セシリアよ、我を召喚するがよい』
「うん、はいっ。デン君、お願い!」
「リヴァ、二発目の準備を!」
「分かってる。二人とも、奴から少し離れてくれ」
『我の事は気にするな。実態を持たぬ我には、主の一時停止とやらも効かぬからな』

 俺の一時停止は体を持つものにしか効かない。だから精霊だけでなく、ゴースト系アンデッドにも無効だろう。まだ試してないから分からないけどな。
 とにかく、デンだけでも自由に動き回れるのはラッキーだ。

『貴様っ、いったい余に何を──』

 瞬き。
 
 大型モンスターばかりの階層では、アークデーモンが小さく思える。
 といっても、身長二メートルちょっとの巨漢だけどな。
 まぁそのぐらいの大きさなら人間の中にだっている。

 ってことで──

「首も刎ねやすいってことだろ!」

 ハンマーをくるりと反転させ、刃を逆手に持って奴の首に──首……首、

「おい、なんでこんな硬いんだよ!」
「リヴァッ。通常の刃では刃が立たぬのだ! セシリア、君はエンチャント系魔法は?」
「つ、使ったことないっ」
「なら私が。魔法は得意ではないから、あまり切れ味は期待できないが」

 お、アレスは魔法も使えるのか。ハイブリット王子だな。

 アークデーモンの真正面に立ち、一時停止が切れるタイミングで──

『っさまらぁぁぁ──』

 一時停止。
 こ、こえぇーっ。
 この一瞬ですら、奴の駄々洩れ魔力が俺の心臓を狙っているように思えて恐ろしい。
 デンの奴も一応は俺とセシリアを倒す勢いで襲ってきたようだが、殺意という点ではデーモンロードには匹敵しない。
 いや、こいつは殺意っていうより、狂気?

 とにかく、おぞましい気を発している。
 一時停止のタイミングを遅らせるわけにはいかない。

 普段は一時停止の間に二発入れるんだが、今回は一発にしておこう。

 ヒットアンドアウェイで斬っては少し下がって一時停止に備える。
 その間にアレスとセシリア、そして──

『みな下がるがよい。我の電撃を喰らわてやろう!』
「退避ぃぃーっ! 二人とも退避だぁー!!」

 遠くに逃げたい。だがデンの一撃で倒せなかったときのことを考えると、そうもいかない。
 こいつはデンほど大きくもないので、ある程度近くにいないと一時停止の認識が出来ないからな。

 雷獣と化したデンは、全身に雷を纏っている。その雷が鞭のように伸び、アークデーモンの全身を捉えた。

 肉体の停止は本人の意思で動かせないだけのことで、他者が力を加えて動かすことは可能。
 アークデーモンの体が小刻みに跳ね、体の表面からは煙が上がった。

「やったか?」
『表面だけだ。さすがに魔神将。魔力が高くて、我の攻撃でも一撃で仕留めるのはちと厳しいの』
『ごああああぁぁぁぁぁっ!!』

 っと、一時停──どこいった!?

「きゃあぁっ」
『ガアァァッ』

 デンが消えた──いや、セシリアを狙ったアークデーモンの前に立ち塞がったようだ。

 ちっ。一瞬で移動しやがったのか。
 一時停止!

 セシリアも視界に入れてしまったが、すかさずアレスが彼女を抱えてアークデーモンから距離を取ってくれた。

「動きが早ぇ。効果が切れた瞬間に視界から離れられたら、連続で一時停止できねえ」
「アークデーモンは魔法に特化した種族。私もそう思っていたが、違ったようだ」
「アレス、セシリアを連れて部屋の隅に移動してくれ。デン、何発撃てば奴を倒せる!?」
『十発は必要だが、その前に娘の魔力が尽きる』

 それはマズい。

「デン、俺のタイミングに合わせて奴を攻撃してくれ。動きを止めなきゃ一時停止できねえ」
『よかろう』
「今すぐ!」

 効果が切れる直前にデンの雷で奴を縛る。
 動きを止めている間に一時停止。そして斬る──が、魔法を付与したハンマーナイフでも、奴の首は落とせない。
 さっきよりマシにはなったものの、皮一枚傷つけられなかったものが、皮一枚傷つけられるようになった程度だ。

 デンの攻撃は強力だが、そのためにはセシリアの魔力が必要となる。そして足りない……。

「デン、俺の魔力は!?」
『雀の涙にもならん』
「……あと何発撃てる?」
『四発』

 全然足りない。

「ごめん。ごめんねリヴァ。私の魔力がもっと高かったら、あいつにも勝てたのに」
「いや、それを言うなら俺だって同じさ。もっと魔力を──」

 強奪していれば、俺の負担でどうにかなったんだ。

「デン。お前の力を十分に発揮して、セシリアの魔力が消費されなくなるには、彼女の素の魔力がどれだけ必要なんだ?」
『1500。それが適正魔力だ。主の魔力で補っても構わん。1500必要だ。それを超えれば、我を召喚したとて魔力の消費量は今の1%ほどで済む』

 それを今すぐ……用意することは出来ない。
 一年あれば用意できるが、一年もここでずっとアークデーモンと対峙するわけにもいかないし、どだい無理だ。

 今すぐ──今すぐ何か策を!?
 力を!
  
『せめて奴の持つ魔力を、一気に強奪してくれればな』

 強奪出来ないにしても、レンタルでも出来りゃいいんだがな。
 くそっ。

『クソ人間どもがぁっ』
「喋り過ぎたっ。デン!」
『主が近すぎるっ。離れよっ』

 アークデーモンが拳を振るう。
 条件反射と言うべきか、俺は咄嗟にその拳を受け止めた。

『ほぉ。余の拳を受け止めるか、人間。くはっはっはっは。愉快ではないか、なぁ?』
「ちっ。全然愉快じゃねえよ──止まってろ!」
『くっはっはっはっはっは』

 こ、こいつっ。
 高速移動で視界の外に出やがった。

 つまり──

『貴様の技、既に見切ったわ。瞳の瞬き、それが発動条件。そして視界に映ったモノの動きを止めるのであろう』

 あぁ、その通りだよ。くそっ。

『貴様が瞬きするよりも前に、貴様の視界から逃れれば関係なぐあああぁぁっ』
『同時に我の雷を喰らうことになるがな』

 ヨシ。一時停止。
 だがデンの攻撃も残り三発。



 ──斬りつけて、デンの雷、一時停止。残り二発。
 奴の首をなんとしても斬り落とさねば。

 デンの攻撃──残り一発。

「リヴァ、逃げてっ。リヴァアァァ」

 逃げる? 俺ひとりで逃げられるか!

 残り──ゼロ。

『くっはっはっはっは。精霊使いの魔力が切れたようだな。くは、くはははははは』
「セシリア!?」

 アレスと一緒に部屋の隅にいたセシリアが──倒れている。
 魔力が枯渇して気絶したのだろう。

 ちっ。いったんここを出るか!

「アレス! セシリアを抱えて走れっ。部屋を出るぞ!!」

 追って来ないはずだ。ボス部屋から出てこない、はずだ。

『それを余が許すとでも?』

 そう言ってアークデーモンが扉の前に立つ。
 そうくるなら、一時停止させるのみ!

『それも不可能だ。貴様が瞬きする間だけ視界から逃れればいい。何なら貴様の目、潰してやろうか』
 
 くっ。
 どうする。どうする。どうする。

 もっと力が。
 俺にもっと力があったら!

 奴の力を──魔力を──

[要望を承諾しました。ステータス強奪からの派生能力、ステータスレンタルを獲得します]

 ──なんだって?

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