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「二階到達おめでとうございます。転移魔法陣設置の確認が取れましたので、こちらがその報酬です」

 受け取ったのは金貨五枚だ。
 更に一番に二階に到達した報酬として、追加で金貨五枚を受け取った。

 ダンジョン二階の構造情報、モンスター情報も伝え、一階で拾ったドロップアイテムの清算も済ませる。

「ところで、この三日間で宿の拡張は出来たのだろうか?」

 アレスがそう尋ねると、職員の男が「建物自体はまだ」と答えた。

「しかし風呂の設置は出来ております。そろそろ入浴が恋しくなる頃でしょうから」
「はは。さすがギルド職員、分かっている」
「この探索期間中は無料でご利用いただけますので、ご自由にお使いください。今でしたらまだそう利用者も多くないですから」
「つまりこれから増えるかもと?」
「魔法陣が設置されましたからね」

 と、職員は苦笑いだ。
 確かに、やっと地下二階に到着したパーティーが、足元の魔法陣を見れば一度引き返したくもなるだろう。

 急いでギルドを出ると、すぐさま風呂へと直行。
 迷宮都市を出てから一度も風呂に入っていなかったので、これが六日ぶりとなる。

「ふぅ、毎日体は拭いてはいたが、やはりそれだけではさっぱりはしない。こうしてのんびり入浴を楽しめるのは、実に素晴らしいことだ」
「まぁなぁ……はぁ、いつかのんびり暮らせる時が来たら、俺は温泉のある田舎で暮らしたいな」
「おんせん? おんせんとはなんだい、リヴァ」

 おっと、こっちの世界に温泉の概念はないようだ。
 ずっと地下で暮らしていたこともあって、俺もまだこの世界の常識で知らないことも多い。

「温泉っていうのは、地下で暖められた水が沸き出た天然の風呂のことだ。湯に含まれる成分のおかげで、疲労回復だとか冷え性改善効果が……まぁあるかも? みたいな」
「ほぉ、地下で暖められた……。うぅん、想像がつかないな。いったいどこにあるんだい?」
「火山地帯なんかにある。まぁそれ以外の場所にもあるけど、見つけやすいのは火山が近くにあるような場所だ」

 そう話すと、風呂にどっぷりつかっていたディアンがぎょっとした顔でこちらを見た。

「溶岩の中に入るというのか!?」
「いや入らないから。それ死ぬだろ普通に」
「し、しかし火山の近くと言えば、溶岩であろう?」
「ディアン、めちゃくちゃ近くを想像してるだろ。近くつっても、数キロ先とかでいいんだよ」

 それに、火山があるからって絶対に温泉が見つかる訳じゃないけどな。
 温泉の概念のない世界だと、自分で探さなきゃいけなくなるのか……なかなかハードルが高いな。

 入浴を済ませたら、テントを張って一休み。
 
「さぁて、二階をどうやって進むかだな。普通に歩いていたんじゃ、迷子になるだろうし」
「そうだね。マーキングしていったとしても、そもそも自分たちがどの方角に進んでいるのか分からないんじゃどうしようもない」
「ひとまず真っ直ぐ進みたいんだよな。とにかくあの森を抜けなければ」
「もし二階層全体が森に覆われていたら?」

 階段を見つけるのは相当厳しいだろうなぁ。
 その近くに来ても木や茂みで隠れて見えなく、気づけない可能性もあるし。
 歩き回って見つけるしかないが、どうせなら効率よく行きたい。
 同じところをぐるぐる徘徊するのだけは勘弁したいからな。

「真っ直ぐ進んで、とにかく森を抜けるか壁まで行く。壁が見えたら、そこに何かで印をつける。インクでもあればな、なければ植物か何かで色を付けてもいい」
「インクならある」
「ならそれで印をつけて、あとは壁がギリギリ見えるぐらいの位置で壁沿いに進む」

 歩きながら、森なら木に、そうじゃなければ目印になる何かを地面に立てていく。
 ぐるっと一周したら、今度はその少し内側を。目印を外側に見ながらまたぐるっと一周。
 それを続けて行けば見落とすことなく、階段を見つけられる──と思うんだけどな。

「確かに確実な方法だ」
「運が良ければすぐに階段が見つかるだろうけど、悪ければ何周かしてやっとかもな」
「運が良い方に賭けましょう」
「運でしたら、きっといい方だと思いますよ」

 と、突然キャロンの声が聞こえた。ようやく彼女とセシリアが風呂を終えたようだ。
 なら、美味い物でも食うとしますか。





 屋台が何軒も出来てて、食う物には困らない。
 各々好きな物を買ってきてテントの中で食べ、それから少し休んだ。
 ダンジョンの中だと常に周りを気にしなきゃならなかったが、ここは森の中でも人が多くてモンスターすら寄り付かない。
 なんせ冒険者がゴロゴロしているんだからな。

 寝て起きた後は、食料を補充して再び地下へと向かう。
 俺たちが魔法陣を設置したから、地下一階はスルー出来る。
 だが魔法陣に先客がいた。
 俺たちと同じように、二階まで下りてから地上に戻って来て、再挑戦する奴らだろう。

 だが──

「どうして魔法陣の前に立ってるだけで、使わないのでしょうかぁ?」
「……おい、君たち。順番待ちがいるのだから──」

 そこまで行ってディアンが身構える。
 同時に「ひうっ」というキャロンの小さな悲鳴が聞こえた。

「静かにして頂こうか? あとそのまま、地下に下りて貰おう。もちろん転移魔法ではなく、徒歩でだ」
「侯爵のご子息か。なんの権利があって、我々の妨げをしているのだろうか?」
「権利? 権利か、そうだな。君たちより身分が高い者の権利、とでも言っておこう」

 はぁ? 何いってやがるんだこいつは。頭おかしいんじゃねえのか。
 そう言ってやりたいが、ちらりと後ろを見るとキャロンの青ざめた顔があった。
 彼女のすぐ後ろには人相の悪い男がひとり、ピッタリとくっついていやがる。大方、短剣でも突き付けているんだろう。

 ひとまず従おう。
 そう目で合図をし、俺たちは紅の旅団に囲まれて地下一階へと下りた。
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