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 野良パーティーの間は、遺跡の古代獣からのステータス強奪は出来ないな。
 まぁミスしても連続使用にカウントはされるようだからいいか。

 森の迷宮の入口になっている巨木はそのままで、周辺の木は伐採されていた。その分、ギルド支部の建物とこじんまりした宿、それに数軒の小屋がある。

「わぁ、たった三カ月で小さな町みたいになったねぇ」
「町って言えるのか? 村ですらないだろう」
「いや、立派な町だよ」

 俺とセシリアがそんな話をしていると、アレスはセシリアを支持した。

「あの小さな建物には看板がある。ハンマーの模様が描かれているから、鍛冶屋だろう。あっちは杖と弓の模様だから、木工細工師の店か工房といったところか」
「冒険にとって必要最低限の店が揃っていますね。王国から建築許可が出たのは二カ月ほど前です。それを考えると、彼らのなんと商魂たくましいことか」

 そうか。冒険者が利用する店が一通りもう出来上がっているのか。
 宿は確かに、ないならないでなんとかなる。食料も寝床も、自分たちで用意できるからな。
 だけど壊れた装備の修復だなんだのは、そうはいかない。

 小さな町……か。
 まぁ冒険者にとっては、だけど。

「では私たちも中に入る準備をしようか。どうせ一階は既に探索が進んでいるだろうし、奥を目指すべきだな」
「そのためにはあの列に並ばなきゃいけないようだぜ」

 アレスの意気込みを挫くつもりはないが、巨木の根元にあるダンジョンの入口前には五十人以上いそうな行列が出来上がっていた。

「し、仕方ないね。はは、ははは」

 アレスが顔を引きつらせ、大きなため息を吐いた。
 が、その後ろの方──つまりダンジョン入口の方で騒ぎが起きたようだ。

「おい、みんなこうして並んでんだぞ!」
「Aランククランだかなんだか知らねえが、ちゃんと順番を守れよ!」

 どうやら横入りした馬鹿がいるようだ。
 そしてAランククランというパワーワード。
 思い出すのはさっき見た豪華な馬車。あれも他の馬車を追い抜いて行きやがったな。
 街道では馬車が馬車を追い抜くのは、暗黙のルールとしてやっちゃいけないことになっている。
 日本と同じで緊急車両ならぬ、緊急用の馬車だけが例外として許される。

 なんてことを、乗合馬車の御者に以前教えて貰った。
 例外が認められる馬車には、真っ白な旗が掲げられているとも。

 あの豪華絢爛な馬車には白い旗なんてなかった。
 つまりマナー違反ってことだ。

 紅の旅団。
 狩場独占したり道路交通法を無視したり、そして今──

「ふんっ。我が紅の旅団が列に並ぶだと? この私が、君らと同じように並ぶ? その必要がどこにあるというのだ」
「僕らの父上が誰だか分かっているのか? 分かってて言っているのか?」

 ……やぁっぱあいつらか。

「フォルオーゲスト侯爵はあまり躾に厳しい方ではないようだな」
「そのようで」

 同じ貴族出身のアレスとしては、頭が痛くなる光景だろうな。
 あんな奴と自分が同列に見られるのは悔しかろう。

「ん? 今父上の名を口にした者がいるな」

 真っ青な鎧の男がこちらへとやってくる。
 おいおい、地獄耳だろこいつ。

 咄嗟にアレスを庇うようにして前に立つと、奴は俺を見下ろすようにして睨んで来た。隣に立つ小さいの、弟のほうか? そいつも一緒になって睨んでいる。

「ん? 貴様、どこかで……あぁ、モンハウを潰したルーキーじゃないか。こんにちはお嬢さん。もう気が変わってそいつから離れたくなる時期じゃないか?」

 俺の話をしたかと思ったら、速攻でセシリアを口説いてんのかよ。

「私、リヴァと結婚したの。私、あなた嫌い」
「け、結婚!? こんななんの取り柄もないような男とか!? いやいやお嬢さん。それは余りにも人を見る目がないというもの」
「ハッ。ストレートに嫌いだって言われて、そんなにショックかよ」
「なんだと貴様!?」

 すると今度はディアンが俺の前に立つ。
 長身且つ、体格のいい彼が奴を見下ろし、そして威圧しているようだった。
 馬鹿兄弟は後ずさりし、明らかに動揺している。

「くっ。き、貴様っ。この私を誰だと思っている!」
「バーロン様──」

 兄貴のほうはディアンに食ってかかろうとしたが、後ろでは弟の方が魔術師風の奴とひそひそ話を開始。
 バーロン……バーロン……どこかで聞いたような。

「な、なんだって!?」

 内緒話が終わったのか、弟の方が大きな声を上げた。

「どうしたバーロン」
「に、兄さん……それがその……」

 今度は兄弟でか。
 すると弟同様に兄貴の方も声を荒げる。

「な、なんだと!? 本当なのかそれはっ」
「間違いないです。僕も目を凝らして見てみましたが……います」
「くっ。つまり奪われたということか」

 なんだかよく分からないが、完全に俺たちを──いや、俺に対して敵意をむき出しにしてやがるな。





「彼らがあっさり引いたのは、予想外だったね」
「なんだか気味が悪いですねぇ」

 アレスの言う通り、紅の旅団の奴らは大人しく引き下がった。
 お陰で俺たちもこうしてすんなり中に入れたけど、あとで何か仕掛けてくるんじゃないかとヒヤヒヤだぜ。
 俺が恨まれるのはいいが、アレスたちを巻き込みたくはない。
 同じ貴族でも彼は別格だ。
 ちゃんと場も弁えているし、ルールに従っている。
 口調はかたっ苦しいけど、横暴ではないし傲慢でもない。

 まぁ中に入ってしまえば早々出くわすこともないだろう。

「ん? あの穴はなんだろう?」

 地下一階に下りて少し歩けば、あの断崖絶壁のような穴が見える。
 アレスはその穴が気になるのか、近づこうとした。

「アレス、落ちたら確実に死ぬぞ」
「え? 深いのかい?」
「実際の所、どのくらいの深さなのか分からねえ。最低でも百メートルはあるようだけどな」
「は、はは。確かにそれは死ぬだろうね」

 このダンジョンを発見した時のこと、そしてギルドの職員から聞いた内容を彼らにも伝え、あの穴には近寄らないよう注意をしておいた。
 さすがにこの話を聞けば、アレスも近寄ろうとはしない。

「しかしどこに繋がっているのだろうね、あの穴は」
「このダンジョンの最下層とか、そういう所だったりしてな」

 まぁその場合、浮遊系魔法の使える魔術師がいたら最下層まで一直線だな。
 残念ながらセシリアにはそれがない。精霊使いだからな。

 そんな話をすると、キャロンが否定した。

「他のダンジョンでのお話なのですが、同じような崖が地下数階の所で見つかっているのですが、浮遊魔法で下りた方の悲鳴が、途中から聞こえて……」
「それっきり──という話は、俺も耳にしたことがあります」
「魔法が遮断……されるとか?」
「恐らくそれでしょうねぇ」

 ひぃ、こええぇ。
 それでさっきから誰もあの穴には近づこうとしていなかったのか。
 ズルせずに一歩ずつ地下に下りてこいっていう、迷宮神の思し召しかね。

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