83 / 110
47
しおりを挟む
電気くん討伐に失敗した紅の旅団一行は、転移魔法で迷宮都市へと引き返した。
山に入った時には十四人いた。電気くんの下に到着したのは十人。四人が滑落やモンスターの襲撃で命を落としている。
だが今は八人。二人は電気くんの牙によって命を落とした。
「バーロン……兄はガッカリしたぞ。まさか仕留めそこなうとは」
「スティアン兄さんこそ、何故雑魚メンバーを僕に付けたのですか。古代獣は決して侮ってはいけない相手です。それなのにたった一撃で死ぬような奴らなんて……」
「確かに精鋭部隊ではない。しかし未熟なメンバーで仕留めるからこそ、お前も名声を得られるというもの。まぁ失敗したのなら仕方がない」
バーロン・フォルオーゲスト。
紅の旅団リーダーであるスティアン・フォルオーゲストの弟にして、侯爵家の三男坊だ。
幼少期から魔法の才があり、更には貴族家の生まれだ。気位の高さでは兄にも引けを取らない。
今回の討伐隊で出た死者も、魔術師である彼が人より前に出たために彼を庇った仲間が命を落としたのだ。
だがそれに関してバーロンはなんとも思っていない。
感謝もしなければ悲しんでもいない。むしろ腹を立てているのだ。
「兄上、ファーストアタックと止めだけ僕がやれればいいんです。あとは頑丈な肉壁を用意してください」
「ふぅ……仕方ない。可愛い弟の頼みだ。よし、私のパーティーが同行しよう。もちろん手柄はお前のものだ。こちらとしては古代の秘宝が手に入ればそれでいいのだからね」
「頼みましたよ。しかし本当に秘宝なんてあるのですか? 洞窟がある訳でも、遺跡がある訳でもないのに」
バーロンは馬鹿だが、知識はある。
その知識と照らし合わせても、あんな場所に古代の秘宝があるとは思えない。
しかし古代獣がいたのは間違いない。
「殺してみればわかることだバーロン」
「そうですね。それでは兄上、頼みましたよ」
こうして紅の旅団は、再び山へと向かうことになった。
移動は簡単。転移魔法で可能だ。
だがまずはバーロンの休息だ。
贅沢に香油をふんだんに使った風呂に浸かり、マッサージを受け、高級食材の料理を頂く。
それからキングサイズのベッドで眠り……再び風呂に入ってマッサージを受け豪華な食事を楽しむ。
それを三日繰り返したのち、彼らは出発した。
そして到着したその場に、古代獣こと電気くんは──
「い、いない!? お、どういうことだドリィー!」
バーロンは驚愕した。
転移魔法は彼ではなく、同じパーティーの──いや、従える魔術師が位置を記憶し、使用している。
「転移場所を間違えたんだろう! ちっ、これだから平民出の者は使えない」
「も、申し訳ありませんバーロンさま」
バーロンに睨まれ、今にも泣き出しそうになる魔術師の少年。
しかし内心では思っている。
位置を記憶して使用する魔法で、転移場所を間違うはずがない。いや、間違えることすら出来ないのだ。
バーロンもそのことは知っているが、目の前の光景が信じられないのだ。
前回はいた巨大な獣──古代獣の姿がない。
「スティアン様。これをご覧ください」
紅の旅団メンバーのひとりがある物を見つけた。
スティアンとバーロンが男の下へと向かう。
「ス、スティアン兄さん!? これはっ」
「封印石……なのだろう?」
兄の言葉にバーロンは頷く。見間違うはずがない。前回来た時にはこの石の位置を全て確認し、その上で封印内に足を踏み入れたのだから。
しかし古代獣はどこにもいない。
ここには洞窟も無ければ遺跡もない。
隠れる場所はどこにもないのだ。
古代獣の手がかりを探すうちに、ひとりが獣の毛を発見した。
長い毛だ。その辺の獣やモンスターのものではないのは明白。
「……あの、これはもしかして……」
「既に別の誰かの手に……」
紅の旅団メンバーが、恐るおそる口を開いた。
その言葉にバーロンが不快感を露にする。
「僕以外に古代獣を倒せる奴がいると思っているのか!?」
「おいおいバーロン。それはこの兄も含まれているのかな?」
「に、兄さんは別です。兄さんはっ! と、とにかく奴を探せ! 探すんだ!!」
クランメンバー=部下。
そんな風にフォルオーゲスト兄弟は見ている。
その後、兄弟は迷宮都市へと戻り、残りのメンバーが古代獣の捜索を行う事となったが──
自由を手に入れた電気くんは超浮かれていた。
そして電気くんの感情が雷雲を発生させる。
ゴロゴロピカピカ。
一晩に何十回も落雷したが、何故かすべて同じ個所──彼らの拠点に降り注いだ。
半月後、怒り狂ったフォルオーゲスト兄弟の姿が迷宮都市で見られるようになった。
山に入った時には十四人いた。電気くんの下に到着したのは十人。四人が滑落やモンスターの襲撃で命を落としている。
だが今は八人。二人は電気くんの牙によって命を落とした。
「バーロン……兄はガッカリしたぞ。まさか仕留めそこなうとは」
「スティアン兄さんこそ、何故雑魚メンバーを僕に付けたのですか。古代獣は決して侮ってはいけない相手です。それなのにたった一撃で死ぬような奴らなんて……」
「確かに精鋭部隊ではない。しかし未熟なメンバーで仕留めるからこそ、お前も名声を得られるというもの。まぁ失敗したのなら仕方がない」
バーロン・フォルオーゲスト。
紅の旅団リーダーであるスティアン・フォルオーゲストの弟にして、侯爵家の三男坊だ。
幼少期から魔法の才があり、更には貴族家の生まれだ。気位の高さでは兄にも引けを取らない。
今回の討伐隊で出た死者も、魔術師である彼が人より前に出たために彼を庇った仲間が命を落としたのだ。
だがそれに関してバーロンはなんとも思っていない。
感謝もしなければ悲しんでもいない。むしろ腹を立てているのだ。
「兄上、ファーストアタックと止めだけ僕がやれればいいんです。あとは頑丈な肉壁を用意してください」
「ふぅ……仕方ない。可愛い弟の頼みだ。よし、私のパーティーが同行しよう。もちろん手柄はお前のものだ。こちらとしては古代の秘宝が手に入ればそれでいいのだからね」
「頼みましたよ。しかし本当に秘宝なんてあるのですか? 洞窟がある訳でも、遺跡がある訳でもないのに」
バーロンは馬鹿だが、知識はある。
その知識と照らし合わせても、あんな場所に古代の秘宝があるとは思えない。
しかし古代獣がいたのは間違いない。
「殺してみればわかることだバーロン」
「そうですね。それでは兄上、頼みましたよ」
こうして紅の旅団は、再び山へと向かうことになった。
移動は簡単。転移魔法で可能だ。
だがまずはバーロンの休息だ。
贅沢に香油をふんだんに使った風呂に浸かり、マッサージを受け、高級食材の料理を頂く。
それからキングサイズのベッドで眠り……再び風呂に入ってマッサージを受け豪華な食事を楽しむ。
それを三日繰り返したのち、彼らは出発した。
そして到着したその場に、古代獣こと電気くんは──
「い、いない!? お、どういうことだドリィー!」
バーロンは驚愕した。
転移魔法は彼ではなく、同じパーティーの──いや、従える魔術師が位置を記憶し、使用している。
「転移場所を間違えたんだろう! ちっ、これだから平民出の者は使えない」
「も、申し訳ありませんバーロンさま」
バーロンに睨まれ、今にも泣き出しそうになる魔術師の少年。
しかし内心では思っている。
位置を記憶して使用する魔法で、転移場所を間違うはずがない。いや、間違えることすら出来ないのだ。
バーロンもそのことは知っているが、目の前の光景が信じられないのだ。
前回はいた巨大な獣──古代獣の姿がない。
「スティアン様。これをご覧ください」
紅の旅団メンバーのひとりがある物を見つけた。
スティアンとバーロンが男の下へと向かう。
「ス、スティアン兄さん!? これはっ」
「封印石……なのだろう?」
兄の言葉にバーロンは頷く。見間違うはずがない。前回来た時にはこの石の位置を全て確認し、その上で封印内に足を踏み入れたのだから。
しかし古代獣はどこにもいない。
ここには洞窟も無ければ遺跡もない。
隠れる場所はどこにもないのだ。
古代獣の手がかりを探すうちに、ひとりが獣の毛を発見した。
長い毛だ。その辺の獣やモンスターのものではないのは明白。
「……あの、これはもしかして……」
「既に別の誰かの手に……」
紅の旅団メンバーが、恐るおそる口を開いた。
その言葉にバーロンが不快感を露にする。
「僕以外に古代獣を倒せる奴がいると思っているのか!?」
「おいおいバーロン。それはこの兄も含まれているのかな?」
「に、兄さんは別です。兄さんはっ! と、とにかく奴を探せ! 探すんだ!!」
クランメンバー=部下。
そんな風にフォルオーゲスト兄弟は見ている。
その後、兄弟は迷宮都市へと戻り、残りのメンバーが古代獣の捜索を行う事となったが──
自由を手に入れた電気くんは超浮かれていた。
そして電気くんの感情が雷雲を発生させる。
ゴロゴロピカピカ。
一晩に何十回も落雷したが、何故かすべて同じ個所──彼らの拠点に降り注いだ。
半月後、怒り狂ったフォルオーゲスト兄弟の姿が迷宮都市で見られるようになった。
26
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる