上 下
71 / 110

38

しおりを挟む
 ──新月ノ夜ニ探セ。

 夢のお告げを信じる訳じゃないが、こうもレア個体が見つからないなら気晴らしにってことで数日は別のモンスターを狩った。
 そして新月の夜──

「あれ? 新月だから月が見えないんじゃなかったっけ?」

 夜空を見上げると、青白く光る月があった。
 小さい気がするけど、星にしてはデカ過ぎる。

「ん? 何言ってうのリヴァ。月はふたつよ」
「は? 月が二つぅ?」

 二つって、どういうことだ?
 い、いや。ここは異世界なんだ。俺が知ってる夜空と違うのかもしれない。
 でも俺だってあの空気穴から夜空を見ることも──あったけど、月なんて季節次第で年間通してほとんど見たことなかったもんな。

「え、この世界って月、二つあったのか……」
「あっ……リヴァ、しぁなかったのね。うん、えぇっと、二つなの。大きいのと、小さいのでね」

 小さい月は常に大きな月の傍に寄り添っていた。光も弱く、そのせいで地上からだと大きな月の光の一部にしか見えないそうだ。
 だが、新月の夜には大きな月が太陽を背負うので影になって見えなくなる。
 この時だけは小さな月が自身の存在感をアピール。
 どうやら月自身が発光しているようだ。

「ふぅん。不思議なもんだな」
「そうなの?」
「まぁお前は当たり前のように見ていたもんだし、不思議には思わないんだろう」

 まして俺は前世で見ていた夜空が「普通」だと思っているんだ。そうじゃない夜空だと「不思議」に思うんだよ。

「しかし新月だから暗いだろうと思っていただけに、ちょっと安心したぜ。さて、ルガーウルフを探すか!」
「うん、は──あ、いた」
「さっそくか? まぁいつものノーマルだろ──おぉ?」

 前方の平原に、ぽぉっと青白い光を放つ獣がいた。
 シルエットは完全にルガーウルフだけど……青い月に照らされてるからあんな色に光っているのか?

 とりあえず近づいて行くと、向こうもこちらに気づいて向かって来た。

 瞬き。一時停止からのハンマー振り下ろして止めを刺す。
 ハンマーを振り下ろしながら確信した。

「レアだ! 背中の毛が蒼いぞっ」

 ようやく見つけた。
 もしかしてあの蒼い小さな月と関係性があるのか。

 新月の夜にだけ見えるようになる、小さな蒼い月。
 ルガーウルフのレア個体は、その月がハッキリ見える夜にだけ巣穴から出てくる──ってことなんだろう。

 絶対数が少ないこともあるのだろうが、その晩、狩ることが出来たのは三体だった。
 これまでゼロだたのを考えると、万々歳だ。
 残りは次の新月に頑張ろう。

 夢のお告げは本物だった。あの声はいったい、なんだったんだ?





 次の新月まで、山をあちこち歩き回った。
 五日ほど適当に彷徨うと、大きな湖を発見。こういう場所に家でも建てて暮らせれば、優雅だよなぁ。モンスターが出るのはひとまず横においといてだが。
 だがその絶景ポイントには、大きな岩の壁に地下へと続く穴を見つけた。
 最初はゴブリンか何かの巣穴かなと思ったが、入ってみてビックリ。

「まさかこれ、ダンジョンかよ」
「リヴァ、ゴブリンいう」

 出てくるのはゴブリンと、それにアンデッドのスケルトンか。
 このスケルトン、ツルハシなんか持ってるじゃないか。まるで炭鉱夫だな。

「探索したいのはやまやまだが、転移の指輪はダンジョンじゃ使えないんだよなぁ」
「でぅ?」
「あぁ、また今度にしよう」

 帰還の指輪ならダンジョン内でも使えるが、転移はダンジョン専用のものしか使えない。
 電気くんからのステータス強奪もあるが、何より迷って出られなくなった時に新月を迎えられなかったら嫌だからな。
 だけどせっかくなので、この場所も玉に記憶させておこう。

 これで位置情報の記憶は、『電気くんの近く』と『獣人族の里』、そして『見知らぬダンジョンの前』だ。

 そうして次の新月の夜には、ルガーウルフのレア個体を三体追加することが出来た。

「うぅ、さむっ。依頼期間満了まで三週間ぐらいあるが、いったん町に戻らないか?」
「う、うん。それいい、思う」

 ここ半月で一気に冷え込んだな。
 まぁここは山の上だし、秋も終わりに近づいているもんな。

 電気くんが封印されているこの場所を記憶した玉は上書きしないようにして、防寒具を揃えてまた来よう。
 素材依頼があるといいな。

 朝からタレに漬け込んだ肉を焚火で焼きながら、テントを片付ける。

「だいぶん肉が余ったな。また獣人族の里に持って行くか」
「うん、きっと喜ぶね」

 一部は持って帰ってガキどもに食わせたやるが、それでも多すぎる。
 空間収納袋をセシリアに渡し、転移の指輪で里に向かって貰った。
 俺はここの片付けと火の番だ。

 セシリアが戻ってきたころ、肉も丁度焼き上がり。
 それを持って、電気くんの封印石まで向かった。
 匂いで気づいていたようだ。既に封印石ギリギリのところで待機していやがる。  

「素材集めの依頼も終わったし、俺たちは帰るぜ」

 肉を放り投げると、見事にキャッチ。
 味わっているのか、普段より長めに噛んでるな。
 ようやく肉を飲み込むと、電気くんはさっさと踵を返して定位置に戻って行った。

 帰るって言ったの、理解しているのか?

「まぁ……また明日《・・》な」

 電気くんに別れを告げ、帰還の指輪を嵌めた。

「セシリア、帰るぜ」
「ん。オッケー」
「オッケーってお前、なんでそんなくっつくんだよ」

 ぎゅむーっとセシリアがくっつく。

「指輪、転移する。くっつかないと、落ちるかもぉ」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものかもしれないのぉ」

 ま、まぁいいか。

「"帰還《リターン》"」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

【完結】10引き裂かれた公爵令息への愛は永遠に、、、

華蓮
恋愛
ムールナイト公爵家のカンナとカウジライト公爵家のマロンは愛し合ってた。 小さい頃から気が合い、早いうちに婚約者になった。

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

婚約者が継母や妹に陥れられそうになっているので、それを利用して継母たちを陥れることにした

柚木ゆず
恋愛
 母フルールの病死による父ドナルドの再婚により、伯爵令嬢アレットは現在継母であるカロル、半分血の繋がらない妹クラリスと共に生活をしていました。  そんなカロルとクラリスはアレットに逆恨みをしていて様々な形で嫌がらせを行い、父ドナルドは二人を溺愛しているため咎めることはありません。それどころかいつもカロル達の味方をして、アレットは理不尽だらけの毎日を過ごしていました。  そしてついにカロル達は、『トドメ』となる悪巧みを計画。アレットの悪事を複数個捏造し、アレットを屋敷から追い出そうとし始めるのですが――。カロル、クラリス、ドナルドも、まだ知りません。  様々な事情により、手出しできずにいたアレットの婚約者オーバン。彼にその行動を利用され、まもなく人生が一変してしまうことを。 ※申し訳ございません。タイトルを再変更させていただきました。

動く死体

ozuanna
現代文学
⎯⎯ それはまるで真夜中の火事 ⎯⎯ 夏の日、僕の部屋に現れたのは、『加納沙詠の死体』だった。 夏休みのほんの数日、まるで真夜中の火事のように、誰にも気付かれずに燃え尽きたものは何だったのだろう。ただ、彼は覚えている。忘れることはできないから。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...