上 下
70 / 110

37-2

しおりを挟む
 棍棒を構えたホブゴブリンは──眠っていた。
 立ったまま寝るとは、器用な奴だな。
 それでも声を出されては面倒なので、ギリギリまで近づいて一時停止。そして一気に駆け寄ってそのぶよぶよな喉笛を切り裂いた。
 一時停止が切れた時には、既に死んだあと。

「中は薄暗いが、奥の方に明りが見えるな」
「行く?」
「あぁ、慎重に行こう」

 ホブゴブリンの身長は二メートルを超える。それに合わせて巣穴も結構大きかった。
 ぐねぐねとした一本道を進むと、左右に小部屋になった横穴を発見。
 そのいくつかでホブゴブリンが眠っていたが、一時停止して永眠させていく。
 三つ目の小部屋で遂に気づかれてしまうが、もう後の祭りだ。
 
 ドスドスと駆けてくるホブゴブリンどもは奥の通路からしかやってこない。他に枝分かれした道もなかったので当たり前だ。
 こうなると俺の一時停止の独壇場だ。
 ただ前を見て瞬きをすればいいだけだからな。

 一時停止をして、セシリアが魔法でまとめて切り裂く。
 手前の奴らが倒れればまた一時停止。セシリアが魔法で切り裂く。
 これだけでホブゴブリンの死体が積み上がって行った。

「失敗したな……これじゃあ奥に進めない」
「うぅ……外の方がよかったね」

 山積みになった死体をどかしてまで、奥に行きたいとは思わないな。
 だが積み上げられた死体は、ホブゴブリンどもから動かしてくれた。

 怒り狂った一体の、他より一回りデカい奴が死体を担いではこちらに向かって投げてきやがった!

「あぶねっ」

 避けながら来た道を引き返す。
 そうして巣穴を出ると、俺とセシリアは左右に分かれた。

『ウルガアアァァァァッ』

 棍棒を振り回し飛び出してきたホブゴブリンに──一時停止。
 ピタリと動きは止まったが、勢いがついていたのでそのまま前のめりに倒れる。
 丁度いい。このままハンマーの刃を振り下ろして首を切り落とそう。

 そう思ったが、意外とこれが硬い。
 それならそれでこうだ!

 うなじに刃を突き刺し、そのハンマーをもう一本のハンマーで叩いた・・・

 カー……ンと音が響く。
 やっていることは採掘場での作業と一緒だ。
 岩を砕くために、掘削用ハンマーで叩いていた動作と全く同じ。
 何度も何度もハンマーで叩き、遂には──

『ゴブァッ』

 一時停止が解けた瞬間、奴は短い断末魔を上げ、首と胴とが分離した。





「骨……」

 あの大きな奴が仲間の死体をぶん投げてくれたおかげで、奥の通路に進むことが出来た。
 奥に残ってたホブゴブリンは三体だけ。それほど大きな群れではなかったようだ。

 一番奥にあったのは、奴らにとっては宝物倉なのかな。
 動物とかモンスターの骨が積み上げられていて、他にも毛皮、それに石がごろごろ。

「んー、リヴァ。この毛皮、たぶんダメぇ」
「え、ダメって何がどう?」
「見てこえ。汚い」

 あぁ、ズタボロだ。なんていうか、とにかく剥ぎましたーって感じ。
 これなら俺がやったほうがまだマシだ。
 剥ぎ方も問題だが、何より血や土がついていて物理的に汚い。これじゃ売り物にもならないだろうし、獣人族の所へ持って行くのも申し訳なくなるな。

 骨……何かに使えるのかなぁ。
 一応モンスターの骨も、素材として取引はされているし、持って帰るか。
 あとは石だ。

「光物……には見えないが……」
「こえ、鉄鉱石よ。人間の町でもドワーフの集落でも、取引してくりぇうの」
「へぇ、鉄鉱石か。光物じゃないけど、戦利品にはなりそうだな」

 全部を収納袋に入れてテントへと引き返す。
 帰った時には深夜になっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

処理中です...