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「ゴミがゴミでなくなったな」

 五十本あったゴミポーション全て使って、ようやく彼女の脇腹と翼の怪我が治った──と思う。
 脇腹は傷が消えたから分かるが、翼の方は羽で隠れているので治ったかどうかよく分からない。
 本人が目を覚ましてくれればいいんだが……。

 それにしても……なんて種族だろうな。
 白い翼に長い銀髪。目を閉じていても分かるほど、整った顔立ちの持ち主だ。
 綺麗な子なんだろう。
 といっても、今の俺より小さい子だけど。

「うぅ……」
「お、気が付いたか?」

 薄っすらと開いたその瞳は、鮮やかな緑色をしていた。
 うん、やぁっぱり綺麗な子だ。まるでお人形さんのようだ──ってのは、この子みたいな子のことを言うんだろう。

「ん……ひうっ」

 俺を見た瞬間、少女は怯えたように頭を抱えて蹲った。

「ど、どうしたんだ?」
「いぃー、いいぃっ」
「いー、じゃ分からないから。い、痛いところはあるか? ゴミポーションをたくさんぶっかけたけど、足りてるか?」

 と言っても、ぶるぶると震えて俺の声は聞こえていない様子。
 いや、もしかすると言葉が通じないのかもしれない。

「なぁこっち見てくれ。怪我──けーがー。痛い所はないか? 翼はどうだ?」

 言葉が通じないならジェスチャーだ。
 鳥が羽ばたくような真似をして、それから左腕を指差し「やられたー」というような仕草をする。
 渾身の演技だ。

 それを彼女がちらりと見てくれた。

「痛い所は?」

 両手をバサバサしながら尋ねる。

「ぁう……ぷふぅーっ」
「いやそこ笑う所じゃねえから! 痛い所はないかって聞いてんのっ」

 渾身の演技は、喜劇だったようだ……。





「ぅあ……おぉ」

 笑ったことで落ち着いたのか、ようやく俺の言葉を聞いてくれた。
 というか普通に通じている。
 問題はあっちの言葉が分からないことだ。

 あーとかうーとかいーとか、それしか話さない。

「どこも痛くないか?」
「ぅ……あう」

 警戒心は完全に解けた訳ではなく、こちらが喋るといちいちビクつく。それでもなんとか頷いて、痛い所はないという意思表示をしてくれた。

「そりゃよかった。手持ちのゴミポーションは流石にもうないし、これでダメだったら神父の所に連れて行くか、もしくは連れて来なきゃならないところだったんだよ」
「あぅ……う、うぅ」
「あー、なに言ってるか分かんねぇ。こっちの言葉は分かるんだよな?」

 彼女が頷く。
 一方通行ではあるが、言葉を理解してくれているのは有難い。

「んじゃまぁ……飛べる、のか?」
「うぅ」

 バサバサと翼を動かした彼女の体が少しだけ浮き上がる。
 地面に足をつくと、少女はこくこくと大きく頷いた。

「そっか。なら早く外に出た方がいい。ここはダンジョンの地下街だ。地下街って分かるか?」

 再び頷く。

「ここはあんまり治安がいいとは言えない。お前みたいなのは、悪い大人に獲っ捕まって売り飛ばされる可能性だってある」
「ひうっ──あ、ぁあう」
「まぁここに人が来ることは滅多にないし、早々見つかることもないだろうけど……それでも絶対じゃないからな。飛べるようなら早く外に出た方がいい。お前の家族だって探しているかもしれねえぞ」
「ぁ……」

 小さな声を上げた後、少女の顔がみるみるうちにくしゃくしゃになる。
 その瞳はどんどん潤んでいき、ついには大粒の涙を浮かべで泣き始めてしまった。

「お、おい。なんで泣くんだよ。おい?」
「うあぁぁん、うああぁ。うあああぁぁぁ」

 突然俺の胸に飛び込んで来て、彼女はわんわんと泣き続けた。

 何か悪いことを言ってしまったか?
 もしかして家族って言葉を聞いて、急に寂しくなったとか?

 いや……地上は今、夜だ。
 真っ暗な時間に女の子がひとりでいるなんておかしい。
 暗くても当たり前のように人が出歩いている世界──とは思えない。
 なんせ地上にだってモンスターはいるんだからな。
 むしろ地球上の夜より危険がいっぱいだ。

 この子……家族とはぐれたのか?

 暫くこのままにしておくか。

 結局泣きつかれた少女は、そのまま俺の腕の中で眠ってしまって──
 寝床に戻ることも出来ず、一晩中ここに座ってダンジョンの壁にもたれ掛かって夜を明かすことになった。

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