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それぞれのかけひき。

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「……結果がどうなろうと、終着点に講和はない。和平の可能性は、今、貴様のせいで、完全に消えた。魔王国が世界地図から消えるまで、我らは闘い続ける」

 強い言葉、強い目。

 カバノンは、そこで、声音をかえて、

「……ただし、セファイル、貴様らは別だ。いつでもいい。いつでも、こちら側に戻ってこい。我らは、セファイルを、どのタイミングであろうと必ず歓迎すると約束する。なるべく、はやく目をさませ」

 セファイルは人類の国家。
 今はラムドが隠している力を恐れているだけ。
 好きでモンスターにシッポを振っているわけではない。
 そのぐらいは分かる。

 だから、腹の底では、モンスターに媚びたセファイルを軽蔑しているし、憤慨もしているが、『利用するため』に、可能性だけは残す。

 『セファイルの逃げ道』を断って、
 『魔王国との繋がり』を強くさせたりはしない。

 セファイルにも、一応、軍はある。
 大した力ではないが、訓練は施されているので、マイナスにはならない戦力。

 この先、セファイルが『明確な敵』なのか『潜在的な味方』なのかで戦況が大きく変わるという場面が訪れる事は充分ありえる。

 なので、セファイルと魔王国の結びつきを強くするのはあまりにも愚策。
 愚かなセファイルは、戦争が終わった後に断罪する。
 今は、その時じゃない。
 それだけの話。



 ――カバノンは、

「……世界を穢す巨悪を、人類総出で、正義の名のもとに粛清する。これは聖戦だ」

 『そこ』を強調する。
 人類のための、正しい戦争であると強く言い放つ。

 それは、すなわち、セファイルに対する牽制。
 翻訳すれば『さっさとこちらに戻ってこい』という威圧的な命令。


 そして、セファイルサイドも、
 口では『魔王国と同盟を結びたい』『心から謝罪する』などと言っているが、
 心の中では、
 『ラムドが隠している力のホドを確認してからじゃないと動けない。気持ち的には、とうぜん、人類側に立ちたいが、今は決断できない。タイミングが大事だ。魔王国側が劣勢になった時点で、人間サイドに戻ろう』
 と考えている。

 つまり、実質的には、
 トーン・セア・ミルス・セファイルの連合VS魔王国ということ。



 ――ラムドは言う。

「正義だの悪だの、ぬるい事言ってんじゃねぇよ、カスどもが。死ぬか生きるかに、正しいもクソもあってたまるか。現実を見ろ。見る気がねぇなら教えてやる。これからの正義と悪は俺が決める。この俺、ラムド・セノワールが、世界の支配者だ」


 こうして、混沌は整った。
 戦争がはじまる。







 ★


「ふざけるなぁああああ! ラムドぉおおお!!」

 ラムドに魔法で拘束されたまま、魔王城まで戻ってきた直後。
 解放されてすぐ、リーンはラムドに詰め寄った。

 ラムドの胸倉をつかみあげ、血走った目でラムドを睨みつける。

「きさま、きさま、きさまぁああああ!」

 言葉がうまく出てこない。
 怒りで、色々な器官がおかしくなっている。

「戦争だ! 戦争がはじまる! よりにもよって、魔王国が開戦国となって! うぁああああああああああああああああああああああああああああああああ! なんで! なんで、あんなマネを!」

 怒りと悔しさと悲しみと、全てがないまぜになった涙が、その血走った目からボロボロと溢れ、

「なんのために……いままで、ワシが、いったい、なんのために、必死に、耐え忍んで……」

 胸倉を掴む手に力がこもる。
 ギリギリと、砕けちりそうになるほど、



 そんなリーンに続いて、
 同じく拘束を解かれたサリエリが口を開いた。

「ラムド……やはり、貴様はラムドではないのか。ラムドであれば、あのようなマネをするはず――」

「おいおい、『ラムドなら、あんな事はしないはず』って……サリエリ、お前、いったい、俺の何を知っているんだ?」


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