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勇者は死んだ。

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「人類のことはナメてねぇよ。事実、勇者は強かった。尊敬に値する強さを有していた。強くなったからこそ、より強く理解できる。あいつは、素晴らしい勇者だった。お前らが言うとおり、あいつは、間違いなく、人類の宝だった」

 飛びぬけて優れた才能。
 積み重ねた努力の結晶。
 勇者は糞野郎だったが、
 おそろしく美しかった。

「しかし、お前ら自身が得意げに何度も言っていたように、あいつは死んだ。人類の希望はもういない」

 人類は剣を失った。
 使い勝手は悪かったか知らないが、
 しかし、間違いなく『誰よりも美しかった剣』を人類はなくしてしまった。

 今後、無防備な人類は、『巨大な敵』を前にした時、ただ震えて命乞いするしかない。

「なぜ、お前らが、そんな悠長に構えてられんのか、正直、よく分からなかった。だから、黙って話を聞いてやった。お前らの思想を勘違いしないように。お前らの話をちゃんと聞いてみて『俺が思ったこと』は一つ。お前らはとんでもないバカだってこと」

 鼻で笑いながら、

「事実、お前らの言うとおり、人類の希望は、この俺が殺した。つまり、それが、どういう事か、たぶん、いまだにわかってねぇだろうから、キチンと、声を大にして教えてやる」

 ――お前らは終わる。
 ――絶望に溺れて死に絶える。

「なぜか、何度でも言ってやる。『お前らの希望は既に死んでいる』からだ。そして、それ以上に、お前らが『勇者が死んだという意味すら理解できていなかったほどバカ』だから」

 ラムドの揺るぎない態度を受けて、ようやく、各国の首脳陣は状況を正しく理解した。
 勇者が死んだ。
 その意味が、ここにきて、ようやく理解できた。

 ズレた感覚が、ラムドの言葉で元に戻っていく。

 歪んではいたものの、間違いなく人類サイドに立っていた人類最強の戦士が、モンスターに殺されたという現実。
 それはつまり、国際政治なんて遊びをしている場合じゃないってこと。

「勇者との闘いで覚醒した俺には誰も勝てない。最後に、もう一度だけ、ハッキリと言ってやる。人類は詰んだ。なぜなら、俺が殺すからだ!」

 そこで、カバノンは、
 フーマーの使徒に視線を向けて、

「聞いたな! 人類の危機だ! フーマーの使徒よ! 人類を助けてくれ!」

 最後のよりどころ、
 フーマーの使徒に助けを求める。

 ――が、

(素晴らしいぞ、ラムド。それが勇者を殺した力……神の試練を乗り越えた証。本当に凄まじい輝き……美しい……)

 第二使徒ケイレーンは、心の中で称賛を述べていて、
 みんなの嫌われ者コーレンも、

(ふん……認めるしかない、か。あくまでも力だけだが……しかし、確かに、称賛に値するレベルで優れている。ラムド・セノワール、貴様は使徒たりえる……力だけは、な。品性と知性は、とうぜん不合格だが、力だけは……ふん……)

 不満げに、しかし、心の中でそうつぶやいた。


 どれだけ訴えかけても、まったく動きを見せないフーマーの呑気な態度に、
 カバノンが、プチっと切れて、

「何をしている! ラムドは、明確な人類の敵だぞ! 駆逐しろ! それが貴様らの仕事だろぉ! 人類の頂点、神を抱く国、聖霊国フーマァァ!!」

 カバノンの激昂など意に介さず、ケイレーンとコーレンは、

「何度も言わせないでもらいたい。我々は地上の諍(いさか)いに干渉はしない」

「……そう。我々は身に降りかかる火の粉を払うのみ。もし、精霊国フーマーの崇高な意志・理念・信条に何か文句があるというのなら、『甘え』を叫ぶだけではなく、勇気を持ってかかってくるといい。その時は、敬意をもって、過不足なく、お相手しよう」

 明確な『不介入』の意志を示す。
 続けて、ケイレーンが、

「ラムド……きみは、フーマーに対してもキバを剥く気でいるのかね? もし、そうであるならば、我々も、祖国のフローチャートに則った対応をとらねばならないのだが?」

 ラムドの目を見て穏やかな口調でそう問うた。
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