上 下
359 / 380

平和を望む意志

しおりを挟む

 魔王国は、一応、フーマーに認められた国家なので、これまでは、理由なき搾取はできなったが、勇者の暴挙で、『理由』ができた。
 ならば、あとは奪うだけ。
 現状は、それだけの話。


 ――セアとミルスの代表が、わざとらしくアゴをしゃくりつつ、

「なぜ、勇者が死なねばならなかったのか……この悲劇の責任は誰が取るのか」
「さて、魔王国の女王リーン・サクリファイス・ゾーン。どう言い逃れする? それとも、非を認めて謝罪するか?」


 そのふざけた詰問に、リーンは肩を震わせ、

「我が国の……被害が……どのくらいだと……」

 キっと、各国の首脳を睨みつけ、

「わしは……さ、最悪、謝罪がなくともよいと思ってここにきた。今後、二度と……二度と、我が国の民が危機にひんする事がないと信じる事ができる話し会いが出来たならば、そ、それでよいと思って……」

「実現したいな。誰も争わなくてすむ平和を、ぜひ実現したいと思う。そのためには、今、この場で、『ダレ』の『ナニ』が最も必要とされているのか、貴女ならば理解できているだろう?」

 そこで、各国の代表達は、たたみかけるように、

「具体的に言えば、補償金が必要だ」
「魔王国は、人類の宝を奪った。その補填として、金貨20万枚を要求する」
「それと、魔石をもう少し優遇してもらいたいな」
「我々が、大帝国との戦争の際に協力した見返りも、少し増やしてもらおうか。まだ返還されていない金貨6万枚を、キリよく10万枚にして一括返済してもらう」


「なにを、バカな……なぜ、侵略行為を受けた我々が……」


 唖然とした顔になったリーン。
 サリエリも茫然としていた。
 若干アタマが弱いサリエリは、今、何が起きているか理解すらできていない。
 ただ、場の空気感から、自分たちが責められている事は理解した。
 そのため、『どういうことだ? なんでこちらが悪いみたいに言われている?』と純粋に困惑している。


 『分かっていない』のはサリエリだけで、
 ここにいる魔王国以外のメンツは、もちろん、全員、
 『自分たちがむちゃくちゃな事を言っている』と理解できている。

 つまり、大事な事は真実や正義ではない。
 外交という戦争でどちらが勝つか。

 そして、みな、思っている。
 結果的に、リーンが折れるだろうと。

 もちろん、すんなりとはいかないだろう。
 ここから、少しばかりモメるだろうし、魔王国側の言い分を一つ一つ『ちょっと何を言っているか分からない理不尽』で潰していくという大仕事が待っているが、しかし、根気よく続けていけば、いつかは必ず『魔王国が折れるだろう』と、誰もが思っている。

 その理由は非常に単純で明快。
 この中で『最も平和を望んでいる』のは間違いなくリーンだから。
 リーンは本気で世界の平和を望んでいる。

 別に、他国の者が『平和を望んでいない』という訳ではない。
 というか、『戦争がしたくて仕方がない国』というのは現在だと一つもない(トーンは、周囲を飲み込んで『第二の帝国(すなわち覇権国家)』になりたがっているが、今は、備蓄量の問題から、動く時ではないと理解している。ここで、もし、魔王国から、『準備』が整うほど奪えれば、覇権国家への第一歩を踏み出す可能性は高まる)。

 問題は、『どちら』が『より強く平和を望んでいる』か。
 それは、つまり『あと一手で戦争』という時に『どちらが先に折れるか』という事。

 そのチキンレースの敗者が、常に魔王国側になる。
 なぜならば、リーン以上に平和を望んでいる者はこの世に存在しないから。
 それを、ここにいる誰もが理解している。

 リーンが王である限り、魔王国側から戦争をしかけるようなマネは絶対にしない。
 北大陸サイドの言い分がいかに荒唐無稽であろうと、『戦争をする意志はない』という態度を固持し続ければ――ようするには、ただムチャクチャを言い続けてさえいれば、最終的に魔王国は折れるしかなくなる。
 なぜなら、魔王国側から戦争は絶対にはじめないから。

 平和を望む者が食い物にされる。
 それが戦争の常識。

 本物の平和なんて、望む方が悪い。
 というわけで、理不尽は加速する。

 魔王国の心が折れるまで、
 ただひたすらに不条理を叫び続ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...