上 下
331 / 380

幻覚?

しおりを挟む
……気付けば、ゴートは、浮遊する扉の前に立っていた。

 意識が朦朧としている。

 だが、数秒後、

「う、うぉ!」

 つい数秒前の事を思い出したようで、ゴートは反射的に身を縮めた。
 意志に反して、体がブルブルっと震える。

「う、う……ぁ……」

 全身が冷たく感じる。
 冷や汗で包まれる。
 自分の肉体が『ここ』に存在する事すら拒絶したくなる感覚。
 『かぶるためのフトンがほしい』と、かわいい冗談ではなくゴリゴリのガチで思う。


(な、なんだ、なんだなんだなんだっ、あのゴーレム!! ふざけんな! くそ! ぅぅ……)


「ォエ……ウゥ……」


 ガチガチと、遠慮なく、上と下の歯がぶつかり合う。
 ゴートの目は虚ろで、オーラにも覇気がない。
 心ごと砕かれた。
 それほどの一撃だった。
 蝉原勇吾が可愛く思えるほどの、とことんまで深い絶望を知った。



(……あれが……現実……『本物』の『力』……俺なんて……本物の前では……ゴミでしかなかった……)


 涙が流れた。
 理由は、恐怖。
 それのみ。
 恐かったから、泣いている。
 『お化け屋敷から出てきた直後のビビリ』と『今のゴート』に感情的な違いは一つもないと言っても実は過言じゃない。

 と、そこで、

(てか、俺は、なんで生きてんだ……どういう――)

 ようやく、本当なら最初に抱かなければいけない疑問に届く。
 なぜ生きている?
 間違いなく殺されたはず。
 あれを相手にして生き残れるはずがない。

 疑問符に包まれていると、
 ――背後から、


「……やっと意識が戻ったみたいね」


 ボソっとつぶやく声がして、ゴートはふりかえる。
 そこには、無傷のUV1が立っていて、


「ぇ、あ……えっ……UV1様……ぇ、あの……」

「落ちつきなさい。全部、幻覚よ」

「……げん……か……ぇ」

「どうやら、幻覚の罠にかかったのは、ダンジョンに入る前らしいわね……おそらく、扉をあける直前に発動した迎撃魔法で、感覚器官に攻撃を受け、それが、今、ようやく解けた……そういう事でしょうね。現状を鑑みるに」

 それから、UV1は、ゆっくりと丁寧に、
 自分が見た幻覚について語った。

 大量のヘルズ覇鬼やネオヘルズ覇鬼、一匹でも厄介なイフリートが全部で7体、そして、10000体を超える最高位モンスターや、謎のゴーレムに殺された幻覚の話。

 なぜか分からないが、後半に沸いた1000や10000を超える大量のモンスターはゴートが瞬殺し、それだけの力を持ったゴートが、しかしゴーレム一匹にはデコピンで殺されるという、どう考えても、しょうもない夢でしかない幻覚。


「随分と強い幻覚作用だったけれど、まあ、体に害があるタイプではないみたいだから、さほど問題というほどでもないわ。混乱して、状態異常対抗系の魔カードをドブに捨てるように使ってしまったのが少し痛いけれど……おそらく、時間経過でしか解けないアリア・ギアスがかけられていたのね。凄まじい抵抗値……まあ、でも、学習はした。二度と同じ過ちはおかさない。もし、もう一度、同じ幻覚魔法をかけられても、今度は必ず冷静に――」

 などとゴチャゴチャ言っているUV1の言葉から意識を外し、

(幻覚……もしかして、嘘から出たまこと? 本当に、全部、幻覚だったのか?)

 少しだけ冷静になって考えてみる。
 体はまだ少し震えているし、全身の冷たさも消えてはいない。
 だが、頭が動かないわけじゃない。
 むしろ、いつもより早く回転しているくらい。

(まあ、普通に考えたら、ありえないよな、ここ数十分で起きたこと全部。……俺が神のように強くなったり、神のように強くなった俺がデコピンで殺されたり……そんなことが普通は起こるはずないんだから、全部、『このダンジョンに入る前に魔法をかけられて見せられた幻覚だった』と考えた方が合理的で――)

 一瞬だけ疑いかけたが、

(いや、違う)

 すぐにゴートは首を振った。
 まず、感じる己の力。
 パラソルモンの地下迷宮に入る前のレベルは29だった。
 相応の、脆弱さを自分に感じていて、
 そして、中で力を手に入れてからは、
 全身にみなぎるような力を感じた。

 今、ゴートは、みなぎる力を感じている。
 絶対に、レベル29ではない。

 即時、ゴートは、自己鑑定の魔法を使ってみた。

 すると、

(レベル529万……やはり、幻覚じゃない。あれは確かにあったこと……)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...