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戦争開始

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 ――こうも簡単に沸点に達した理由。
 その発端は、やはり、結局、ゴートの推測どおり、バロールの発言。
 ラムドの劣化を心配したというのも間違いなく理由の一つ。
 しかし、それだけなら、もう少し抑えられた。

 ゴートの眉間にもシワが入る。

(イラつかせてんのは、てめぇだろ……なんだ、この女)

 ――現地では同等――
 別に、バロールの言葉に甘えている訳ではないが、
 この仕事をやっている上だと、ゴートはUV1と同等。
 それは確かなはず。

 もちろん、力の差はあるので、最低限の敬意は払う。
 同等だからと言ってナメた態度を見せるつもりはない。

 しかし、だからこそ、『自分はきちんと礼儀を示しているのに、そっちは当たり前のように上から強めでくるのはどうなんだ?』という感情が沸いてしまう。

「言っておくけれど、私がその気になれば、お前ごとき――」

「一瞬で殺されるでしょうね。やりたければどうぞ」

 結果、ハッキリと反抗する。
 ゴートの頭は、沸騰というレベルにまで至っていないが、ググっと熱くはなっている。


 大人になれば丸くなる?
 違うね。
 歳によって、頑固さは強化されていく。
 そして、第一アルファの日本の公務員の30代の頭の固さは異常。

 苦しい事が多々あったとはいえ、山ほど地獄を見たとはいえ、根本では無邪気に、自由に、『望む世界』で100歳前後を99回ほど重ねたセンエースよりも、
 『第一アルファという地獄』で、38まで生きたセンエースの方が頭が固くなっているという、この現実。

 ――センエースにとって、第一アルファがいかに地獄だったかという証――

「申し訳ありませんねぇ、俺はプライドがかなり高い方でして、上からこられればこられるほどに、反発してしまうのですよ。ただ、礼節を持って接してきた相手には、こちらも同じかそれ以上の礼節で返すつもりですので……」

 そこで、ゴートは、視線に圧を加えて、UV1を睨みつけ、

「面倒がイヤなら、上からくるのやめてもらえます? ナメた態度をとられてイラつくのが、この世で自分だけだとでも? どんな勘違いですか? なんなら、ここで殺し合いして死んでやってもいいんですけど」

 一応、敬語を使ってはいるが、空気をピリつかせる圧を含んでいる。
 まったくもって、上司に対する態度ではない。

 ゴートも、当然、『死んでもいい』などとは思っていない。
 念願だった異世界転生。
 全力で満喫したいと願っている。
 それが本音。

 しかし、引けない。
 この状況は、決して、ゴートだけに限った話ではない。
 殺す気はなくとも『殺すぞ』は口から出てくる。
 実際のところ、この状況は、ソレとほとんど変わらない。
 ただの威勢。
 引けない胆。

 これが、プライドという荷物の最も面倒なところ。

「どうするかはそちらにお任せしますよ。最終的な決定権はあなたがお持ちだ」

「そう」

 UV1の冷めた返事。
 起伏のない、その声。

 ゴートの耳に、カチっという、UV1の感情スイッチが入る音が聞こえた気がした。
 別に幻聴でも特殊能力でもなんでもない。
 ただの経験則。

 女には、こういう所がある――と、生きてきて、知っただけ。
 孤高でいる時は、女と会話をした事がなかったので知らなかった。
 はやくに母親を亡くしているので、社会に出るまでは知らなかった。

 異性とまったく関わらない孤高のまま、早稲田大学からの警察大学校という流れで社会に出た。
 そんなセンを待っていたのは、現実の女という、センにとっては大敵。
 多くの対立から得た経験則ゆえの――


 ――UV1は、

「じゃあ、こうするわ」

 そう言って、

 ――ギュンッ

 と、加速して、ゴートの腹に、

「ぐふぉ!!」

 膝をいれた。

「しつけをしてやる」

 社会に出ることで知った、センの――男の大敵。
 女のヒステリー。

 はじまる、人間関係戦争。
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