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アダムとシューリ

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ここは、世界の中心を想わせる大講堂。

 創玄神層の最奥にある『桜華堂』。




 その中殿に位置する『主の間』。

 朝焼けの輝きで満たされた幻想的な空間。







 その扉の前に、彼女――酒神終理は立っていた。

 アダムに『一人で来るように』と呼び出された酒神は、

 こっそりと、神気を練り上げながら、ここまでおもむいた。




 周囲を少しだけ確認して、酒神――シューリは扉を開く。




 主の間に足を踏み入れると、
















「来たな、酒神終理。……座れ」
















 そこには、自分を呼びだしたアダムが円卓に一人で腰をおろしていた。

 他には誰もいない。

 完全な二人きり。




 この状況を見て、シューリは、




(……どうやって整えようかと狙っていたチャンスが、勝手に、ネギしょってやってきた……)




 と思った。




 禁域と接続しているゼノリカ内でなら、神の力が使える。

 アダムは確かに強いが、所詮は『現世では強い』という程度。




(あたしがその気になれば……この程度のカス、余裕で殺せる……)




 ちょっと本気を出せば、サクっと瞬殺できる。

 それは、少し前まで、紛れも無い事実だった。




 ――が、




(? 前と雰囲気が違う。顔つきも少し……それに、なんだ? ……存在値が見えない……センから何かもらったか?)




 と、頭の中で思うと同時に、シューリはめざとく発見する。

 アダムの左手にはまっている指輪――










(ぁ、あのボケェ……)










 ビキキッと、青筋をたてるシューリ。




 見た感じ、融合の指輪……




 シューリは思う。

 おそらく、話に聞いていた『サイ』とかいうのと融合したのだろう。




 ――即座に頭の中で解答に至る。




 理解はできた。

 しかし、納得はできない。




(なんで、わざわざ指輪に……いや、それが一番簡単なのは分かるが、そういう問題じゃないだろうっ!)




 いや、そういう問題である。

 一番簡単なのが指輪状にすること。

 だから、センは定石にのっとった。

 それだけ。




 だが、そんな安い合理で黙れるほど、今のシューリは冷静じゃない。




 あのバカ男が、

 このカス女に、

 指輪を贈った。




 それだけが、今のシューリの頭をしめているすべて。




 それ以外はどうでもいい。

 世界の終わりが迫っていたとしても、今のシューリなら、

 どうでもいいと言い捨てられるだろう。




 かつては、己の魂を捧げてまで世界を守ろうとしたシューリ。

 だが、実際のところ、自己犠牲の精神から、邪神に魂を捧げようとした訳ではない。

 自分が魂をささげないと邪神が世界を終わらせる。

 つまり、全部死ぬ。

 じゃあ、捧げるしかないじゃん。

 それだけ。

 どうせ何もしなかったら全部死んで終わり。




 ――なら、せめて――

 つまりは意地。




 もっと言えば、

 『独りで死ぬのはイヤだ』なんて、そんなダセェ事は言えなかった。







 ――究極の邪神に魂を捧げろと言われても、

   平常時となんら変わらず、不敵にニタニタと笑っていられる。

   それこそが、このあたし、シューリ・スピリット・アース――







 すなわち、尖り切ったプライド。

 あえて言いかえるなら、世界一クソめんどうくさいバカ女。







 ある意味で高潔。

 だが、それが、センと同程度の崇高さを持つかと言えば、やはり違うわけで――
















(……くそが、くそが、くそが……)




 シューリのイライラが募っていく。

 極めて人間的な反応。

 神である前に女。

 一人の、『心の底から愛している男』に溺れている女。




(あたし以外に……指輪を……指輪を……ぐぬぅっ)




 シューリも、センから指輪をもらっている。

 『いつでも自由に二人きりで話し合える、極めて特別な、隔離された空間』へと転移できる指輪。




 ハッキリ言って、価値で言えば、シューリが貰った指輪の方が遥かに高い。

 比べ物にならない。

 だが、そんなことは現状、まったく関係ない。




 いや、もちろん、『諸々、関係はオオアリ』なのだが、『その事実があったからといって、この怒りが収まるわけではない』という意味で関係ない。
















 ニタニタ顔はなんとかキープしているものの、抑えきれず小刻みに震えているシューリに、アダムは、







「座れと言っている」







 威圧的にそう言ってくるアダムに、シューリは、










 ――ついに、プチっとキレた。

 『もう我慢はできない』と心が理解した。

 『よく我慢したほうだ』と自分をほめた。

 もうムリ。

 もう限界。
















「お嬢ちゃん……さっきから……頭が高いでちゅねぇ……」
















 言いながら、躊躇なく、オーラを解放して、




「……超神化……」




 超越者の姿となった。

 超ミニスカキャバスーツのままだが、その上から、凶悪に華美な唐衣からぎぬを羽織る。

 バランスの違和感はハンパじゃないが、そのミスマッチ・アンバランス・ナンセンスぶりが、シューリには、驚くほど似合っていた。







 本来の姿に戻ったシューリは、白皙の輝きに包まれる。

 恐ろしく荘厳な静寂。

 空間が黙った。




 直後、




 次元が、緊張感に耐えきれなくなったかのように、ビシっと割れた。

 ズズズっと、悲鳴を上げているかのように、『主の間』が揺れる。

 深く、静かで、軽やかで、それなのに、確かな重厚さを感じずにはいられない、時空の歪みそのものとでも言うべき尖った威圧感。







 シューリは、事前に、センから、『アダムの異常性』について聞いている。

 サイコなんとかに魂魄を奪われ、壊れ堕ちた事で、存在値がカンストに達したという話。




 ぶっちゃけ『本当にカンストまで辿り着いたのか?』と『疑っている部分』はあるが、もし事実なら、『素』でいるとまずい。

 その慎重さが、シューリを解放させた。




 圧倒的な威圧感を放つ『本当のシューリ』を目の当たりにしたアダムは、

 しかし冷静に、










「……頭が高いとは、随分な言い草じゃないか、私は貴様の上司だぞ、酒神終理」










 普通なら気圧されるシューリの迫力に一切動じず、そう言った。




 涼しい顔をしているアダムを見て、シューリは思う。




(あたしの神気に触れていながら、その、ムカつく『すまし顔』をつらぬくとは……凄まじい胆力……まさか、本当に、カンスト級の力を持っているのか?)







 アダムが、




「主上様から、貴様の話は聞いている。どうやら貴様は、最上級クラスの神力を持っているようだが……しかし、それは私も同じこと。ハッキリ言っておく。私の存在値は、貴様よりも高い」




「……へぇー、すごいでちゅねぇ」




 言いながら、心の中で、










(ふんっ。たとえ、本当に存在値がカンスト級であったとしても、神闘を知らぬのであれば殺し切れる。初見殺しのオンパレードで圧殺してやる)




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