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天空の淵

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アダムから、




 『三至天帝と今後について会議をするから、お前ら、いったん、出ていけ』




 と命じられた九華の者達は、『こういった場合』の規定通り、

 『主の間』から出た左手、左翼廊に開口しているゲートをくぐった先にある、

 『天空の淵ふち』へと向かった。




 天空の淵は、雲ひとつない青い空に、10脚の『淡く輝いている、神々しい装飾が施された、豪奢極まる玉座』が、環状かつ、向かい合うように浮かんでいるだけの味気ない空間。




 九華に属する六人は、それぞれに与えられた玉座に腰かけて一息ついた。




 張り詰めた緊張感からの解放感から、全員、呆けていたが、二十秒ほど経過した時、バロールが、
















「……遠かった……」
















 何もない天を仰ぎながら、ボソっとそうつぶやいた。




 周囲の空は、少し薄い藍だが、上空の向こうは、ジンと重たいインディゴブルー。




「果てなく、狂おしいほど……あれが神……我らの……すべての頂点……」




 二つ隣の席に腰掛けているテリーヌが、視線を向けてきて、




「まるで、主の御力が理解できたような口ぶりだな」




 バロールは、天を仰いだまま、




「茶化すな。見えてなどいない。そもそも、我々は、直接お会い出来てすらいないではないか」




 感情を出すことなく、淡々と、




「……御姿を直接見る事が叶わないのは当然……それはいい……」




 はじめから、偉大なる神と直接会えるなどとは思っていなかった。

 そこまで夢見がちではない。




 主を模したヤドリギか、式神か。

 よくて『オーラドール』だと、最初から思っていた。




「問題は、ただの『化身』にすら……あれほどの覇気を纏わせられるという事実……あの太陽に座していた光は、ただの分身だ……どれほど精巧に、どれだけの生命力や魔力を注いだとしても、本人の半分以下の劣化品にしかならない分身……それなのに……その領域ですら、遠すぎて、何も見えなかった……」




 思い出すだけで心が沸き立つ。

 制限を少し解除して登場した、先ほどのアバターラの存在値は、1500オーバー。

 バロールたちからすれば、どれほど強いのか、想像すらできない領域。







「神……神……ああ、酷い御方だ……知らなければ、幸せだったのに……」







 『神帝陛下なんて存在が本当にいるのか?』と思っていた時は気楽だった。

 見上げれば、いつだって、ギリギリ手が届くところに、心からの忠誠を誓った相手はいた。

 お会いするのは大変だが、絶対に会えない訳ではない至高の存在が常に頭の上にいた。

 『ミシャンド/ラという神を超えた至高の天帝』に、現世においては『最も近い法王』という破格の地位に至った超越者『ブナッティ・バロール』。

 それで十分に幸せだった。

 満たされていた。

 与えられた特権に、破格の優越感を感じていられた。




 しかし、今では『足りなさ』を覚えている。




 どうやら、ミシャンド/ラ様は、さらなる高みに至ったらしい。

 正直、何がなんだか『よくわからない』が、しかし、どうやら、間違いなく、ミシャンド/ラ邪幻至天帝陛下は、真に『神』を超えたっぽい。

 これまで、最も崇拝していた相手が、もっと高い場所に昇った。

 これは、とてつもなく素晴らしい事であり、喝采すべき事。

 だというのに、




(主よ……)




 心は、常に、その上のみを想うようになってしまった。




 もちろん、バロールは、ミシャンド/ラの事を、今でも敬愛している。

 あの御方は素晴らしい、と本気で思う。







 けれど、




 その上に御座す御方が――




 あまりにも――







(主よ……一瞬だけでもいい……その威光に直接……)







 麻薬に手を出した事はないが、

 こんな感じなのだろうか、などと、ある種、不敬な事を想いながら、

 いや、薬物などで、これほどの甘き痺れは得られまい、

 と、一人で首を振る。




 神の輝き、その余韻に、ただ身もだえする。













(ああ……主よ……)

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