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センという凡人の黙示録

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「ぃえ、あの、ちゃんと聞いていましたか? 私は――」




「お前ら第一アルファ人は……日本人の事な……第一アルファ人は、こっちでのスペックが低ければ低いほど、異世界では優秀になれるんだ。蝉原、お前は、この世界で、非常に優秀な部類に入る。頭もよく、運動神経もいい。それに比べて、センはどうだ?」




 そこで、神はセンをみつめる。




 バッチリと不健康な感じで痩せている、身長170センチには届いていない、目つきが悪いガキ。

 イケメンかどうかと聞かれれば、大多数の人間が『そうではない』と答える顔つき。

 これをカッコイイと思う人間も……まあ、いるかもしれないが、その数は少ないだろう。




「こいつは凡人だ。そのスペックはかなり低い。――『ただ必死に頑張ってきた』というだけで、とくべつ頭がいい訳じゃない」




 確実に、バカではない。

 しかし、決して賢くはない。




 本当に、ただ頑張ってきたから、中学レベルでは、それなりの成績が取れているというだけ。

 既に五年以上、早稲田だけに絞って、勉強法と攻略法を徹底的に調べあげ、明確で的確な努力を積んできたから、『難関私大であろうと、どうにか突破できる』というところまで来た、という、本当に、ただそれだけの話。




「運動神経は並以下。こいつはキャッチボールがまともに出来ない。大縄跳びの飛び方も分からない。プールで泳がせてみれば、傍目には、溺れているようにしか見えない。ボウリングでストライクをとった事がない。カラオケに行っても70点以上を取った事がない。特に何か芸術的な才能がある訳でもなく、独創的なアイディアを持つ訳でもない」




 脳に何か問題を抱えているという訳ではないので、努力すれば、それなりに、出来るようにはなる。

 キャッチボールだって、毎日5時間以上練習すれば、二年くらいで、中級高校の球児くらいにはなれるだろう。




 だが、何もしていない状態のセンは、とにかく酷い。

 初期スペックが全項目最低値の、本当に何もできないノロマなグズ。




 それが、閃壱番。




「……つまり、蝉原、どういうことだ? その賢い頭脳で、目の前に並べられた前提をもとにして、結論を導き出してみろよ」







「……」







 無言のまま顔を歪めた蝉原を見て、神は満足そうに頷いて、




「そういうこと。お前はいらない。俺が欲しいのは、この無能だ。何も持たないくせに、根性の絞り方だけは知っている……そういうヤツが欲しいんだ」




 センをユビ指しながらそう言う神の言葉に、蝉原は絶句した。




 しかし、




(……くっ、最悪だ……今日のおれはどうなっている……何もかもが裏目に出ていやがるじゃねぇか……ぅぅ……だ、だが、まだ終わった訳じゃない……)




 諦めはしない。




 理解すると同時、蝉原は、センに意識を向けた。




 とびっきりの、子犬のような『懇願顔』で、
















「センさん……頼みます……助けてください……おねがいします……」
















 とことんしぶとい。

 つまりは、どこまでも潔い。




 決して折れず、全力で媚びる蝉原。




 そんな蝉原に、センは、







「ウチの親父は……」







 ぽつぽつと、







「家庭ってもんに興味がない人間だった。『あんた、なんで結婚したんだ』って詰め寄りたくなるくらい、俺にも母さんにも興味がない人だった。……ウチの親父、ほんと、笑うぜ。母さんが死んだ時、なんて言ったと思う?」




『母さんが死んだ。心臓のなんかだって話だ。詳しくは聞いてないから知らん。壱番えーす。わかっていると思うが、父さん、仕事の方が、かなり忙しくてな。来週からは、また長期で海外に行かなければいけないし……だから、母さんの葬式は、お前の方で全部やってくれ』




「別にいいんだけどな……あの人の事は別に。問題は母親の方さ。あんなのが親父じゃ俺が可哀そうだって、我が子に目一杯以上の愛情を示そうって必死に頑張っていた……嬉しかったよ、普通に。俺は自分が不幸だと思った事は一度もない。ちゃんと愛してくれる人はいたから……そんな、この世で唯一、たった一人、俺を愛してくれた人の形見だったんだよ」




 センは、蝉原を睨みつけながら、ハッキリという。



















「……お前らが踏みつけた……そのサイフはなぁ」
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