128 / 380
センという凡人の黙示録
しおりを挟む
「ぃえ、あの、ちゃんと聞いていましたか? 私は――」
「お前ら第一アルファ人は……日本人の事な……第一アルファ人は、こっちでのスペックが低ければ低いほど、異世界では優秀になれるんだ。蝉原、お前は、この世界で、非常に優秀な部類に入る。頭もよく、運動神経もいい。それに比べて、センはどうだ?」
そこで、神はセンをみつめる。
バッチリと不健康な感じで痩せている、身長170センチには届いていない、目つきが悪いガキ。
イケメンかどうかと聞かれれば、大多数の人間が『そうではない』と答える顔つき。
これをカッコイイと思う人間も……まあ、いるかもしれないが、その数は少ないだろう。
「こいつは凡人だ。そのスペックはかなり低い。――『ただ必死に頑張ってきた』というだけで、とくべつ頭がいい訳じゃない」
確実に、バカではない。
しかし、決して賢くはない。
本当に、ただ頑張ってきたから、中学レベルでは、それなりの成績が取れているというだけ。
既に五年以上、早稲田だけに絞って、勉強法と攻略法を徹底的に調べあげ、明確で的確な努力を積んできたから、『難関私大であろうと、どうにか突破できる』というところまで来た、という、本当に、ただそれだけの話。
「運動神経は並以下。こいつはキャッチボールがまともに出来ない。大縄跳びの飛び方も分からない。プールで泳がせてみれば、傍目には、溺れているようにしか見えない。ボウリングでストライクをとった事がない。カラオケに行っても70点以上を取った事がない。特に何か芸術的な才能がある訳でもなく、独創的なアイディアを持つ訳でもない」
脳に何か問題を抱えているという訳ではないので、努力すれば、それなりに、出来るようにはなる。
キャッチボールだって、毎日5時間以上練習すれば、二年くらいで、中級高校の球児くらいにはなれるだろう。
だが、何もしていない状態のセンは、とにかく酷い。
初期スペックが全項目最低値の、本当に何もできないノロマなグズ。
それが、閃壱番。
「……つまり、蝉原、どういうことだ? その賢い頭脳で、目の前に並べられた前提をもとにして、結論を導き出してみろよ」
「……」
無言のまま顔を歪めた蝉原を見て、神は満足そうに頷いて、
「そういうこと。お前はいらない。俺が欲しいのは、この無能だ。何も持たないくせに、根性の絞り方だけは知っている……そういうヤツが欲しいんだ」
センをユビ指しながらそう言う神の言葉に、蝉原は絶句した。
しかし、
(……くっ、最悪だ……今日のおれはどうなっている……何もかもが裏目に出ていやがるじゃねぇか……ぅぅ……だ、だが、まだ終わった訳じゃない……)
諦めはしない。
理解すると同時、蝉原は、センに意識を向けた。
とびっきりの、子犬のような『懇願顔』で、
「センさん……頼みます……助けてください……おねがいします……」
とことんしぶとい。
つまりは、どこまでも潔い。
決して折れず、全力で媚びる蝉原。
そんな蝉原に、センは、
「ウチの親父は……」
ぽつぽつと、
「家庭ってもんに興味がない人間だった。『あんた、なんで結婚したんだ』って詰め寄りたくなるくらい、俺にも母さんにも興味がない人だった。……ウチの親父、ほんと、笑うぜ。母さんが死んだ時、なんて言ったと思う?」
『母さんが死んだ。心臓のなんかだって話だ。詳しくは聞いてないから知らん。壱番えーす。わかっていると思うが、父さん、仕事の方が、かなり忙しくてな。来週からは、また長期で海外に行かなければいけないし……だから、母さんの葬式は、お前の方で全部やってくれ』
「別にいいんだけどな……あの人の事は別に。問題は母親の方さ。あんなのが親父じゃ俺が可哀そうだって、我が子に目一杯以上の愛情を示そうって必死に頑張っていた……嬉しかったよ、普通に。俺は自分が不幸だと思った事は一度もない。ちゃんと愛してくれる人はいたから……そんな、この世で唯一、たった一人、俺を愛してくれた人の形見だったんだよ」
センは、蝉原を睨みつけながら、ハッキリという。
「……お前らが踏みつけた……そのサイフはなぁ」
「お前ら第一アルファ人は……日本人の事な……第一アルファ人は、こっちでのスペックが低ければ低いほど、異世界では優秀になれるんだ。蝉原、お前は、この世界で、非常に優秀な部類に入る。頭もよく、運動神経もいい。それに比べて、センはどうだ?」
そこで、神はセンをみつめる。
バッチリと不健康な感じで痩せている、身長170センチには届いていない、目つきが悪いガキ。
イケメンかどうかと聞かれれば、大多数の人間が『そうではない』と答える顔つき。
これをカッコイイと思う人間も……まあ、いるかもしれないが、その数は少ないだろう。
「こいつは凡人だ。そのスペックはかなり低い。――『ただ必死に頑張ってきた』というだけで、とくべつ頭がいい訳じゃない」
確実に、バカではない。
しかし、決して賢くはない。
本当に、ただ頑張ってきたから、中学レベルでは、それなりの成績が取れているというだけ。
既に五年以上、早稲田だけに絞って、勉強法と攻略法を徹底的に調べあげ、明確で的確な努力を積んできたから、『難関私大であろうと、どうにか突破できる』というところまで来た、という、本当に、ただそれだけの話。
「運動神経は並以下。こいつはキャッチボールがまともに出来ない。大縄跳びの飛び方も分からない。プールで泳がせてみれば、傍目には、溺れているようにしか見えない。ボウリングでストライクをとった事がない。カラオケに行っても70点以上を取った事がない。特に何か芸術的な才能がある訳でもなく、独創的なアイディアを持つ訳でもない」
脳に何か問題を抱えているという訳ではないので、努力すれば、それなりに、出来るようにはなる。
キャッチボールだって、毎日5時間以上練習すれば、二年くらいで、中級高校の球児くらいにはなれるだろう。
だが、何もしていない状態のセンは、とにかく酷い。
初期スペックが全項目最低値の、本当に何もできないノロマなグズ。
それが、閃壱番。
「……つまり、蝉原、どういうことだ? その賢い頭脳で、目の前に並べられた前提をもとにして、結論を導き出してみろよ」
「……」
無言のまま顔を歪めた蝉原を見て、神は満足そうに頷いて、
「そういうこと。お前はいらない。俺が欲しいのは、この無能だ。何も持たないくせに、根性の絞り方だけは知っている……そういうヤツが欲しいんだ」
センをユビ指しながらそう言う神の言葉に、蝉原は絶句した。
しかし、
(……くっ、最悪だ……今日のおれはどうなっている……何もかもが裏目に出ていやがるじゃねぇか……ぅぅ……だ、だが、まだ終わった訳じゃない……)
諦めはしない。
理解すると同時、蝉原は、センに意識を向けた。
とびっきりの、子犬のような『懇願顔』で、
「センさん……頼みます……助けてください……おねがいします……」
とことんしぶとい。
つまりは、どこまでも潔い。
決して折れず、全力で媚びる蝉原。
そんな蝉原に、センは、
「ウチの親父は……」
ぽつぽつと、
「家庭ってもんに興味がない人間だった。『あんた、なんで結婚したんだ』って詰め寄りたくなるくらい、俺にも母さんにも興味がない人だった。……ウチの親父、ほんと、笑うぜ。母さんが死んだ時、なんて言ったと思う?」
『母さんが死んだ。心臓のなんかだって話だ。詳しくは聞いてないから知らん。壱番えーす。わかっていると思うが、父さん、仕事の方が、かなり忙しくてな。来週からは、また長期で海外に行かなければいけないし……だから、母さんの葬式は、お前の方で全部やってくれ』
「別にいいんだけどな……あの人の事は別に。問題は母親の方さ。あんなのが親父じゃ俺が可哀そうだって、我が子に目一杯以上の愛情を示そうって必死に頑張っていた……嬉しかったよ、普通に。俺は自分が不幸だと思った事は一度もない。ちゃんと愛してくれる人はいたから……そんな、この世で唯一、たった一人、俺を愛してくれた人の形見だったんだよ」
センは、蝉原を睨みつけながら、ハッキリという。
「……お前らが踏みつけた……そのサイフはなぁ」
0
お気に入りに追加
1,559
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
チュートリアルと思ったらチートリアルだった件
へたまろ
ファンタジー
唐突にダンジョンの中で、サラリーマン倉田良樹(クラタヨシキ)は目を覚ます。
その部屋の真ん中にはフヨフヨと浮かぶ綺麗な宝石が。
触れる事でセーブが出来る宝石。
セーブという言葉を聞いて、ゲームのモニターか何かだと勘違いする倉田。
いや、勘違いしてしまった倉田。
死んでも、セーブポイントで復活する仕様。
軽い現実逃避とも取れる思考と勝手な思い込みで、他にやれることも無い為これはチュートリアルだなと判断して、トライ&エラーよろしく体当たりで色々と学ぶ事にする。
だが、チュートリアルだと思っていた一連の活動の中で明かされた衝撃の事実。
半信半疑で、チュートリアルにありがちな初心者の館と思い込んでいたダンジョンの先で、色々な事に巻き込まれていく。
やがてチュートリアルの先に待ち受けるチートリアル(チートな現実)に気付く。
可愛いペットや、女の子に出会いつつもまったりと進んでいく物語です。
一話あたりは短めで。
話も淡々と。
気楽に進んでいく物語です。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる