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頭が高い。ここは神の御前である。

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「……誰かな、あなたは」




 蝉原に声をかけられて、羽織りの男は、




「誰だと思う?」




「さぁ、わからないね……見た感じ……高校生くらいかな?」




「残念、不正解。正解は、神様でしたー」




「……へぇ、すごいね」




 言いながら、蝉原は、ふところから、カイザーナックルを取り出して右手に装着した。




 その光景を見て、羽織りの男は、一瞬だけ、プっと噴き出す。




 笑われた蝉原は、心の中で、




(笑った、か……確かに、見た目はダサいが、こいつは、鉄のかたまり……ただ殴られるよりも遥かにダメージを負うのは事実……実際にはそうそう『振るえない』ナイフよりも、調整がきくし、一般人なら、斬撃よりも殴打の方が、イメージも湧きやすい分、抱く恐怖は大きいはず……この兄さん、頭がおかしいのか、それとも……)




 そんな事を考えてから、羽織の男に、蝉原は言う。

 誰であろうと関係ない。




 蝉原勇吾は止まらない。

 止まっちゃいけない。




「あんたが誰かとか、正直、どうでもいいんだけど……その目、気に入らないんだよね……おれを全く恐れていない目……その目はダメだ……」




 ゆっくりと、羽織りの男の目の前まで近づいて、




「おれの親父は、本物の極道。その辺のチンピラじゃなくて、キチンと組の頭を張っている『親』だ。俺も将来、そうなる」




 脅す口調ではなく、淡々と、事実だけを述べていく。




 蝉原は、そこで、笑顔の質を変えて、




「……みっともなく『背景』までチラつかせたんだから、どうか、怯えてくれないかな?」




 そこで、ユズが、スマホに視線を落としたまま、




「本気ヤクザスマイルでたー。あんた、ユウゴの言うとーりにしたほうがいいよー、この人、優しそうな顔してるけど、けっこう、エグい事とかするから」




 ユズの援護射撃に対し、満足気に頷きながら、蝉原は、




「怯えるだけでいいんだよ。簡単でしょ?」




 言いながら、蝉原は、カイザーナックルをはめた方の拳甲で、羽織の男の右頬をコンコンと優しく叩いた。




 すると、羽織りの男は、




「はっはっは」




 と、楽しそうに笑って、




「蝉原、お前は人の痛みが分かる男だ。だから、いつも、バランスを考える。無茶はしない。非効率な無理は通さない。理想的な暴力の具現。中学生が憧れる『ヤンキーの王様』……」




 蝉原の目をジっと見つめながらそう言った。

 羽織の男は、そこで、『笑顔』を、ニっと、『少し自嘲気味な微笑み』に変えて、




「……くく……ちょいと恥ずかしい話をしようか。俺はお前に、実は、ちょっとだけ憧れていたんだ。賢くて強いヤツだってな……が、どうやら、勘違いだったようだ。お前は、世界一のバカだ」




「……は? 何を言って――」
















「神の御前である。頭が高い」
















 蝉原は、一瞬で、膝から下の感覚を失った。




 ストンと体が地面に向かって落ちた。




 膝の骨が地面に激突する激痛に、悲鳴をあげる蝉原。




 反射的に、足の方を見てみると、




 ――膝から下がなくなっていた。










「なぁああああ?!!」










「聞こえなかったか? お前は神の前にいる。騒々しくするな、静かにせよ」










 羽織の男がそう言った瞬間、顔の感覚がなくなった。

 両手で触れてみると、顔から『口だけ』がなくなっていた。




「―――――」




 叫びたかったが、口がないから声がでない。







「ようやく静かになったな。それでいい」







 言いながら、羽織りの男は、蝉原の頭を掴んで、







「こんなもんかな」







 微調整を加えながら、蝉原の顔を、




「――――――――」




 地面に何度も、何度も、何度も、何度も、叩きつける。




 鼻がひしゃげ、目が潰れ、皮膚がはがれて、

 それでも、羽織りの男は、叩きつけるのをやめない。




「治癒、ランク2」




 死にそうになるたびに、回復魔法をかけて、感覚がマヒする直前まで戻す。




 そんな事を、何度も、何度も、繰り返してから、




「治癒、ランク3。……さて、だいぶ大人しくなった事だし、そろそろ話をしていこうか。まずは、そこの女」




 そこで、羽織りの男は、ユズに目を向けた。







 ユズは、ずっと、スマホを持ったまま、目を見開いて固まっていた。










 何が起こっているのか、理解できていないらしい。







 羽織の男は、ゆっくりと、ユズに近づいて、




「どうした、そんなに怯えた顔をして。何か怖い目にでもあったのか?」
















「な、な、なに……なんなの…………なんなのよ、あんた……」






















「なんだ、その口のききかた……ナメてんのか、バカ女」
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