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第2形態

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静かになって、二秒。




 空白の時間が流れて、ユンドラは目を閉じた。




 からからに渇いた口。

 唾液をひねりだして、喉に送ろうとするが失敗。




 ざらざらとした感情に降り注ぐ、形だけの日差し。




 熱を持たない風が、無人の交差点を駆けていく。










 ――センの問いかけに、ユンドラは答える。
















「……もちろん、違う」
















 一度、息を整えてから、まっすぐに、センの目を見て、そう言った。







 センは、驚きの表情などは一切見せずに、続きを促す。
















「さっきの第1形態なら、ワタシでも倒せた」
















(ま、だろうな)







 センは心の中でそうつぶやく。




 このエリア内に足を踏み入れた瞬間から、彼女の存在値は見えていた。




(ユンドラ・エルドラド。存在値1050……)




 ありえない存在値を持つ者が、ここにもいた。

 『いったい、どうなっているのか』と首をかしげながらも、センは平静を装った。




(アダムには劣るが、信じられないほどの凄まじい力……)







 ユンドラ・エルドラドは、何もかもが異質。




 ゆえに、センは思う。




(ユンドラが、さっきの駄犬に負ける訳がない。となると――)
















「問題なのは――」
















 影がうごめいていた。




 ユラユラと、無がカタチを作っていく。

 金属の裂け目みたいな歪みが空間に出現。

 黄金の電流が走り、黒い光が渦を巻く。







 一瞬だけ、水を打ったように静まり返ったが、その直後――







 その奥から、『アレ』はやってきた。







 渦の向こうから、這い出てくる。




 人型に進化した、サイコウイング・ケルベロスゼロ・タナトス(決戦仕様)。




 ドサっと地に落ちて、




「ブハァ……ハぁ、ハぁ……」




 ゆっくりと、体を起きあがらせる。




 最初は生まれたての子馬のように震えていたが、ある瞬間にピタっと止まる。

 サイケル(人型)は、妙な粘液にまみれていた。




 一度、全身をチェックして、ブルブルっと体をふるわし、粘液を飛ばしてから、サイケルは、ギロっとアダムを睨みつける。




 怒りにそまった表情のサイケルは、宙に浮かんでいるアダムを指さして、







「……テキ……殺ス」







 宣言した直後、サイケルの姿が消えた。




 人の目ではとらえきれない速度でアダムとの距離をつめると、そのまま、アダムの顔面に拳を叩きこむ。




「――っ!」




 ギリギリのところで回避するアダム。




 しかし、避けたところへ、膝が飛んできた。

 みぞおちに直撃。




 体がくの字に曲がった。




 苦悶の表情。

 醜い顔。




 さらには、血。

 ゴフっと吐きだしてしまった。




 はしたない!!










 アダムは、こめかみに青筋を浮かべて、










「ぐぅ……てめぇええ!! 主上様の前で、恥をかかせやがってぇえええええ!!」










 歪んだ顔で吐血という、主には絶対に見られたくない姿。

 そのあまりの恥ずかしさから、声が大きくなる。







「――【オーラドール】!!」







 両手で複雑な印を結び、周囲に、五つの光球を召喚する。




 アダムによって召喚された五つの球は、

 グニグニとうごめいて、次第に、人型へと変わっていく。




 完成したのは、子供サイズのアダムが五人。




「オーダーッッ!! 五凰!!」




「「「「「あいあいさー」」」」」




 命じられた五人の小アダム達は、背中に、輝く光の翼を生やしてフワリと舞い上がると、統率されたフォーメーションで、サイケルに特攻をしかける。
















 ――その様子を見ていたセンは、渋い表情を浮かべて、




(アダムのやつ……相手がグーを出してんのに、後出しでチョキ出しやがった……ばかがぁ)




 五体の小アダムは、高速飛行の中に転移をまじえながら、最短でサイケルに近づいていく――その途中、




「玄牢呪縛、ランク32!!」




 五体全てが、サイケルによって生み出された『時空の狭間』で捕獲され、




「連繋機雷爆羅、ランク33!!」










「「「「「うきゃぁあああ!!」」」」」




「くぁあああ!!」










 五体の小アダムが爆発すると、遠く離れていたアダムの右腕も同時に爆発して吹っ飛んだ。

 鮮血が散り、肉片が飛ぶ。




「ぐぬぅ……私の腕を……く、くぅ……醜い……こんな無様な……こ、この、カスがぁ……」




 腕を失ったアダムは、より怒りを爆発させて、




「――【修羅の彼方】!!」




 右腕を回復魔法で止血しながら、自己強化のF魔法を発動させる。

 アダムの全身の血管がググっと浮かびあがり、白眼が黒く染まった。




「畜生風情が肥大しやがって……分を弁えさせてやる」










「ぐカ……殺ス、殺ス、殺ス」







 アダムを迎え撃つ、ラリったように血走った目のサイケル。







 膨大な魔力とオーラをぶつけあう、血みどろの殺し合い。

 そんな二人の闘いを、冷めた目で見つめているユンドラがいた。
















「無駄。彼女は強いけれど、アレには勝てない」



















 ユンドラの悲観は的を射ていた。




 アダムとサイケルの闘いを分析しおえたセンは、苦い顔で、




「……うーわ、笑えねぇ……あの犬、ガチで、アダムより強ぇじゃねぇか……いやいやいや」




 頭をぽりぽりとかきながら、素で絶句していた。

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