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テンプレ魔王とテンプレ勇者

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「強かったぜ、魔王。今まで出会った誰よりも、テメェは強かった」

 ボロボロの姿で、片膝をつき、口からポタポタと血を垂らしている魔王。

 そんな痛々しい姿の幼女を、勇者は見下ろして、

「だが、死ぬ。その強さがあって、しかし、それでも、テメェは終わる」

 勇者は、天を仰いで叫ぶ。

「それが、俺の力だ! 正義を殺す、王者の力ぁあ!」

「それほどの力あって……それほどの……祝福を受けていながら……な、なぜ、そうまでも歪む……」
「俺は歪んじゃいねぇ。俺が歪んで見える、テメェが歪んでんだ」

「なぜ、平和がダメなんだぁ!」

 魔王は、耐えきれなくなって、つい涙を流してしまった。
 体の痛みはどうでもいい。

 この勇者と戦っていると、心が痛い。

 潰れてしまいそうなほど……

「平和を望んで何が悪い! なぜ、邪魔をする! 苦しんでいる人々を! 救いを求めている者を! そんな痛みを一掃したいと願う事のなにが悪いというんだ!」

 叫ぶ。
 悲鳴が、
 慟哭が、

 ――セキを切って溢れでる。


 魔王は、心と体の痛みに耐えながら、


「笑顔は温かいんだ! 愛は柔らかくて、ホっとするんだ! 誰も、もう、血なんか見なくていい! そういう毎日の尊さを! ワシは! 守るために! 拳を握った! 大事なモノを守るために! みんなで笑顔になるために! 心をっ 殺してっ 闘ったぁ!」

 テンプレ?
 ああ、だろうな。
 知ってるよ、そんな事。

 だから、どうした?


 綺麗事?
 お花畑?
 お約束?


 クソ寒いお涙ちょうだいは聞いていられない?


 好きに言え。
 好きなだけ、バカにするがいい!



 温かい平和!
 柔らかい笑顔!
 それが、それだけが!

 ――ワシの望みだ!

「平和な世界に生きたい! 誰も苦しまない理想郷! そんなものは無いと悲観する前に立ちあがれ! ワシは欲しい! だから闘う!」

 魔王は立ち上がる。
 フラつきながら、剣を握る。

 その、人形を握りしめるのが似合う小さな手で、体躯の倍はある大剣をつかみとる。

「来いよ、勇者ぁ! ワシは魔王! リーン・サクリファイス・ゾーン!! 世界を穢す、その巨悪を殺す、誇り高き、魔族の王だぁあああ!」

 覚悟を叫んだ魔王に、勇者は言う。




「てめぇと同じものを、ここにいる何匹が望んでいる?」




「あぁ?!」

「その温かい平和ってヤツだよ。何人が真剣に望んでいる? まあ、サリエリは望んでいるかもなぁ。しかし、そこでボケーっと見ているリッチはどうだ?」

 ラムドを指さし、勇者は続ける。

「魔王軍の頭脳。宰相にしてナンバーツーの実力者。世界最強の召喚士ラムド。俺の目には、そいつが、テメェと同じモノを望んでいるようには見えないぜ」

 魔王は黙る。
 それに関しては反論の余地がない。

 事実、ラムドは平和に興味がない。

 いかに面白い召喚が出来るか、それにしか興味がない変態。

 けれど、飛びぬけて優秀だから、ラムドは、宰相という地位についた。
 国の事などどうでもいいと思っている者が、
 国防という観点で言えば、王よりも遥かに重要な地位についたのだ。

「平和。ゾっとする概念だ。退屈だけが死を量産する、何もない朽ち果てた世界。そんな地獄、俺は絶対にごめんこうむる」

 勇者は揺るがない。
 どんな時でも、自分の哲学を貫く。

 どんな場面であれ、雄々しく、己が我がを貫く勇者。
 まさにテンプレ。
 実に王道。

 どこにでもいる、ただの勇者。

「平和はあたたかいんだろうぜ。別に否定はしねぇ。夏が暑いってのを否定すんのはただのバカだろ? 俺はそうじゃねぇ。そうじゃねぇんだよ。ただ、俺の望みは、冷たい血の上で踊る修羅の世界ってだけの話なんだ。ヘドが出る退屈はお呼びじゃねぇ」
「冷たい血だまりで世界を覆い尽くして、その果てに、いったい何があると言う!」
「何もねぇさ。テメェの望み、その果てと同じでなぁ」

 勇者は折れない。
 何を言われても、絶対に改心などしない。
 自分の哲学と心中する覚悟を決めているから。


 いつ、どこで、誰に、どれだけ、何を言われようが、絶対に折れない。


 まさに、テンプレ。
 テンプレ、テンプレ、テンプレ、テンプレ、テンプレ。





 ――まだ、言いたいか?



 俺の欲望、俺の我、俺の哲学!



 まだ、測り足りねぇか?
 テンプレだの、お約束だの、
 そんな質量のねぇモノサシが、この俺を相手に、まだ必要か?


 掃いて捨てるほどいるそこらの勇者と、この俺様を、まだ、同じ土俵に並べるか?


「魔王リーン・サクリファイス・ゾーン。テメェと俺は同じだ。巨大な力を振りかざしてエゴを叫んでいる。方向性が違うってだけで、根っこは何も変わらねぇ」

 勇者は、ゆっくりと、両手に持つ二本の剣を構えた。
 魔王の持つ大剣の半分もない、細身の双剣。

「俺は勇者。ハルス・レイアード・セファイルメトス。己が哲学を貫く、孤高の剣。世界を弄ぶ、風雅な刃。……つまりは、貴様を殺す者だ」


 勇者は媚びない、顧みない。
 仮に、もし、今日死ぬとしても、抵抗はするが、心変わりを起こしたりはしない。

 どれほど強大な壁を前にしても、歯をむき出しにして抗う孤高。

 体現する、勇者という業。










 ……まあ、ようするにテンプレですね。
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