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(こんなものじゃない。俺は、もっと高く飛べる)

 三分は変わった。

 試合で投げることによって、投げ勝つ快感を知ることによって、
 彼の脳みそは、投手の魅力という熱で焼き切られた。


(まだ足りない。今程度の球じゃ足りない。もっとだ……もっと……もっと……)


 三分の投球に対する姿勢の変化は、誰の目にも明らかだった。
 三分は渇望する。『より良い投手になるためのすべて』だけを希求する獣になる。


 『本物の投手』という化物になる。


「田中」

「あ?」

「どうすれば、俺の球は、もっと速く、お前に届く?」

「は?」

「おまえなら、わかるんだろう? お前は天才だ。お前なら、俺をもっと高く飛ばせる。教えてくれ。俺はどうすれば――」

「黙れ、殺すぞ」

「ぇ?」

 トウシは、ハっとして、口を押さえながら、ごまかすように、んんっと息をついて、

「試合中にゴチャゴチャ喚くな。ワシの言う通りに投げたらええ。ワシの言う通りに練習したらええ。それだけでええ。アホなんやから、なんも考えんな。天才のワシに全部任せとけ」

「……分かった。従う」

 そう言って、トウシから離れたベンチの隅にこしかける。
 なんとなく気まずい空気がベンチに流れた。

「トウシくん」

「あん?」

「なんか、イラついてません?」

「……」

「なにか、問題でもあったのですか? この試合のプランに差し支える問題でも?」

「いや、なんもない。それどころか、ようやっと運が回ってきた……運が……まわりすぎとる」

「まわりすぎ?」

「なんでもない。気にすな」

「ぴよぴよ(気にするなというのが命令なら従う他ないわね。でも、この試合の今後の展開については質問させて。で、どうなの? この試合、この先、うまくいくの?)」

「問題無い。今の三分の球なら、ワシがリードしとる限り、点は取られん。相手のミスを待って、奇襲をしかけ、一点をもぎとる。それでしまいや」

「頼みますよ。トウシくんだけが頼りなんですから。あ、ところで、一つ、気になっていることを聞いてもいいですか?」

「なんや?」





「なんで、僕って、捕手なんですかね?」






「……あ?」

「ほら、僕らを拉致ったミシャンドラって、デビルチームの正捕手じゃないですか?」

「ああ、そう言うとったな。それが?」

「トウシくんのプランを聞いたり、野球を勉強してみたりして、捕手の重要性に気づかされました。仮に欠員が出た場合、どんなチームでも、普通、捕手と投手以外を補いませんか? ライトとか、レフトとか。なんで、僕を捕手特化に改造したんでしょう」
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