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キャプテン

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 翌日、田中・佐藤・鈴木の三名は、部室に出向いた。 

 田中は、スゥっと息を吸いながら、バァンと乱暴にドアを開け、開口一番、

「キャプテン、誰やぁあ!」

「……は?」

「キャプテン誰やぁ、言うてんねん!」

「……僕だけど?」

「よし、ほなワシにキャプテンの座ぁゆずれ。今日から、ワシが、このチームの監督兼キャプテン兼投手兼部長や! ええな! 文句があるんやったら、今すぐ表出て、かかってこぉい!!」

「ああ、いいよ。お好きにどうぞ」

「……えぇえええええ?!」

「元気があって大変よろしい。これからもその調子で頑張って。じゃあ、僕はトレーニングルームで汗を流してくるから」

「待て待て! なんやねん! 一年が急に、こんだけナメたこと言ってんねんで! ここは『ふざけんな』ってくってかかるとこやろ!」

「キャプテンやってくれるんだろ? ありがとう以外の感情はないよ。実は、今ちょうど、一・二年が、主将の座を押しつけ合っていた所だったんだ。二年の今泉くんが、死んでもやりたくないってゴネてね。ほんと助かったよ。ほら、学級委員やってくれる人に感謝する気持ちあるだろ? あれと同じだね」

「……」

「じゃあ、僕はルームに行ってくるから。キャプテン、あとはよろしく」

 そう言って部室を後にする三年の伊藤。


 その背中を見送りながら、


「ほんまにすごい野球部やな。もはや感服するわ」

「文句言ってくる上級生を実力で黙らせて全体を統治する作戦、あえなく失敗ですね」

「ぴよぴよ(まさか、あれだけふざけた事をヌカす一年に、敵意を向けるどころか、感謝の意を示してくるなんてね)」

「……まあええわ。気を取り直して……とりあえず、他の連中! 傾聴!」

 田中は、入室時からずっとキョトンとしている一・二年、
 計三名のチームメイト(もう一人の三年は欠席)に向かって、

「今日からワシがキャプテンで監督や。ワシの言うことは絶対。ええな!」

「……別にかまわないが、お前は何がしたいんだ?」

「おまえ、だれや?」

「三分類、五組の一年」

「さんぷん? すごい名字やな。まあ、比知黒とか気仙沼とか天王寺屋とかよりはマシか。ちなみに、今言った名字は、小学校の時、ホンマにおった同級生や」

「どうでもいい。で、お前は何がしたいんだ? キャプテンだろうが、部長だろうが、監督だろうが、好きにすればいいが、この野球部では、その先に何もないぞ」

「なんもないかどうかはワシが決め――ん? おまえ、投手か?」

「なぜ分かる」

「筋肉の付き方でポジションくらい分かる。伊達や酔狂で監督をやろうとしてるわけやない」

「へぇ。それが事実なら本当に凄いな。……しかし、それだけ野球に詳しいヤツが、なんでこんなところに来たんだ。西教か字石にでも行けばいいものを」

「そんなもんワシの勝手やろ」

「おっしゃる通りだ。さて、着替えも終わったから、俺はロードワークに行ってくる。あとは、お好きなようにハシャイでいてくれ」

「待てや、おい。まだ話は終わっとらんで」


 三分の腕を掴んで凄む田中。

 そんな田中に、三分は、鬼の形相で、

「腕をつかむな……ケガしたらどうする」

 ドスの利いた声で凄んでくる三分に、田中は一切ひるむことなく、

「おまえ、アホか。壊れる掴み方なんかしてへん。そのくらい、筋肉と骨の構造から考えれば分かるやろ。まさか、そんなんも分からんくらいアホなんか」

「……離せ」

「監督であるワシの命令は絶対や。待てぇ言われたら黙って待て、ボケぇ。高校野球ナメんなよ」

「離せ!」

 言って、三分は、自分の腕を掴んでいる田中の腕を掴み、全力で握り締める。

 だが、

「全然痛ないんねんけど、お前、握力低すぎやろ」

「……」

「ほらほら、なにしてんねん。もっと力入れろや。さらに弱なってきてるで。投手のクセに、ゴミみたいな握力やな」

「……くっ」



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