5 / 65
不可能は不可能
しおりを挟む
家に帰った田中東志は、自室のベッドにダイブし、頭を抱えて身を丸くしながら、
「なに、かっこつけてんねん。アホちゃうか、ワシ。なにが細かい話の積み重ねや。なにが、ワシにしかできん不可能や。不可能は不可能やろ、あほんだら。あー、どうしよう……できる気がせぇへん……なにしたって、絶対、おかしいもん、ウチの高校が五連覇とか。あー、もー、どないせぇいうねん……あー、あー、ウっザいわぁ」
溜息をつく。
寝がえりをうつ。
また溜息をつく。
泣きそうになる。
実は、あの長考、実ってなどいなかった。ただ、人前だったから、かっこつけただけ。
「できんかったら、存在を消される……なんで、この年で死ななあかんねん。ふざけんな、ボケ。あー……あー……もぉお、なんやねん、ワシの人生……」
溜息が止まらない。
延々と泣きごとを垂れ流す。
「こうだったらぁ言うプランみたいなもんは、なくもないけど、そんなもん、まさに絵に描いた餅でしかない。さすがに駒が無さすぎんねん。どんな凄い名人でも、飛車角だけで全勝なんかできん。はぁ……なんで、ワシがこんな目に……」
涙を必死に我慢する。
つまりは、気を抜けば泣きそうになる。
「はぁああああああああああああああ」
深いため息が、部屋の中を埋め尽くした。
★
二週間もすれば、クラス内の序列はハッキリと決まってくる。
誰が『一軍』で、誰が『ゴミ』か。
佐藤ツカムは、デブのメガネで、見た目的にはカスだが、
しかし、周囲の環境や空気を的確に把握する力に長けていた。
「ナベくん、サイコー。芸人になれそうですね」
「マジで? いけちゃう? 俺、いけちゃう?」
「まあ、本当に芸人を志したら、二年後くらいに路上で死んでそうですけど」
「死ぬのかよ! てめぇ、佐藤、このやろ!」
「くはは! 渡辺、だせー! 佐藤に手玉にとられてんじゃん!」
「佐藤くんって、デブでバカだけど、なんか嫌いじゃないかもー」
「美和子、毒舌だな、おい!」
「そうですよ、美和子さん、『なんか嫌いじゃないかも』は余計です」
「そっち?! なんの性癖披露してんだよ、佐藤!」
「「「あはははは!」」」
すでに、クラス内の力関係は完璧に把握しており、
誰に対してどんな態度をとれば優位に立てるかの計算は終わっていた。
野球に関しての知識はゼロに等しいが、対人関係におけるスキルは生まれつき非常にすぐれており、
幼稚園のころから、常に一軍中位のポジションをキープしてきた。
時には博士系。
時にはお調子者系。
時にはニヒル系と上手に自分を使い分け、自分のランクを保ってきた。
それとは対照的に、
(ツカムのやつ、ハンパやないな。勉強しかせんかったぁいうとったくせに、歴戦のチャラ男なみに、クソ共の中で完璧にたちまわっとる。あんなゴミみたいな会話、ワシには絶対できへん)
田中東志は、孤立していた。
教室の隅で、一日中、誰とも話さず、ひたすら本を読んで過ごす。
ーー頭はいいのか知らんけど、根暗で無表情で性格が悪そう。
それが、常に、田中東志という人間に張られてきたレッテル。
園児の時から一貫している彼のポジション。
友達がいたことなど一度もない。
(ツカムやホウマとも、別に心から仲良くなったわけやない。下の名前で呼び合っとるんも、むりやり植えつけられたクセでしかない。特殊な状況下におかれたがゆえに結束するしかなかった……それだけ。あいつら二人もそうおもっとる)
それは被害妄想ではない。
二日ほど前、佐藤からハッキリと宣言された。
『あまり言いたくはありませんが、トウシくんのクラス内における立ち位置は最悪です。トウシくんの性能は評価しています。あなたは非常に賢い。野球に関する知識も素晴らしい。しかし、申し訳ありませんが、僕は、今のポジションをキープしたいので、クラス内では話しかけないでください』
その発言そのものに傷ついたりなどはしない。
そういう性格ではない。
(こっちから願い下げや。何が悲しゅうて、アホなガキに目線を合わせなあかんねん。あいつらに媚びへつらうぐらいやったら、地獄の業火に焼かれて死んだ方がまだマシや)
と、そこで、
「えと、あの……た……中くん?」
見知らぬ女子に声をかけられ、
「あん?」
「担任からの呼び出し。第二多目的室だって、じゃ」
「……は? なんやねん」
「なに、かっこつけてんねん。アホちゃうか、ワシ。なにが細かい話の積み重ねや。なにが、ワシにしかできん不可能や。不可能は不可能やろ、あほんだら。あー、どうしよう……できる気がせぇへん……なにしたって、絶対、おかしいもん、ウチの高校が五連覇とか。あー、もー、どないせぇいうねん……あー、あー、ウっザいわぁ」
溜息をつく。
寝がえりをうつ。
また溜息をつく。
泣きそうになる。
実は、あの長考、実ってなどいなかった。ただ、人前だったから、かっこつけただけ。
「できんかったら、存在を消される……なんで、この年で死ななあかんねん。ふざけんな、ボケ。あー……あー……もぉお、なんやねん、ワシの人生……」
溜息が止まらない。
延々と泣きごとを垂れ流す。
「こうだったらぁ言うプランみたいなもんは、なくもないけど、そんなもん、まさに絵に描いた餅でしかない。さすがに駒が無さすぎんねん。どんな凄い名人でも、飛車角だけで全勝なんかできん。はぁ……なんで、ワシがこんな目に……」
涙を必死に我慢する。
つまりは、気を抜けば泣きそうになる。
「はぁああああああああああああああ」
深いため息が、部屋の中を埋め尽くした。
★
二週間もすれば、クラス内の序列はハッキリと決まってくる。
誰が『一軍』で、誰が『ゴミ』か。
佐藤ツカムは、デブのメガネで、見た目的にはカスだが、
しかし、周囲の環境や空気を的確に把握する力に長けていた。
「ナベくん、サイコー。芸人になれそうですね」
「マジで? いけちゃう? 俺、いけちゃう?」
「まあ、本当に芸人を志したら、二年後くらいに路上で死んでそうですけど」
「死ぬのかよ! てめぇ、佐藤、このやろ!」
「くはは! 渡辺、だせー! 佐藤に手玉にとられてんじゃん!」
「佐藤くんって、デブでバカだけど、なんか嫌いじゃないかもー」
「美和子、毒舌だな、おい!」
「そうですよ、美和子さん、『なんか嫌いじゃないかも』は余計です」
「そっち?! なんの性癖披露してんだよ、佐藤!」
「「「あはははは!」」」
すでに、クラス内の力関係は完璧に把握しており、
誰に対してどんな態度をとれば優位に立てるかの計算は終わっていた。
野球に関しての知識はゼロに等しいが、対人関係におけるスキルは生まれつき非常にすぐれており、
幼稚園のころから、常に一軍中位のポジションをキープしてきた。
時には博士系。
時にはお調子者系。
時にはニヒル系と上手に自分を使い分け、自分のランクを保ってきた。
それとは対照的に、
(ツカムのやつ、ハンパやないな。勉強しかせんかったぁいうとったくせに、歴戦のチャラ男なみに、クソ共の中で完璧にたちまわっとる。あんなゴミみたいな会話、ワシには絶対できへん)
田中東志は、孤立していた。
教室の隅で、一日中、誰とも話さず、ひたすら本を読んで過ごす。
ーー頭はいいのか知らんけど、根暗で無表情で性格が悪そう。
それが、常に、田中東志という人間に張られてきたレッテル。
園児の時から一貫している彼のポジション。
友達がいたことなど一度もない。
(ツカムやホウマとも、別に心から仲良くなったわけやない。下の名前で呼び合っとるんも、むりやり植えつけられたクセでしかない。特殊な状況下におかれたがゆえに結束するしかなかった……それだけ。あいつら二人もそうおもっとる)
それは被害妄想ではない。
二日ほど前、佐藤からハッキリと宣言された。
『あまり言いたくはありませんが、トウシくんのクラス内における立ち位置は最悪です。トウシくんの性能は評価しています。あなたは非常に賢い。野球に関する知識も素晴らしい。しかし、申し訳ありませんが、僕は、今のポジションをキープしたいので、クラス内では話しかけないでください』
その発言そのものに傷ついたりなどはしない。
そういう性格ではない。
(こっちから願い下げや。何が悲しゅうて、アホなガキに目線を合わせなあかんねん。あいつらに媚びへつらうぐらいやったら、地獄の業火に焼かれて死んだ方がまだマシや)
と、そこで、
「えと、あの……た……中くん?」
見知らぬ女子に声をかけられ、
「あん?」
「担任からの呼び出し。第二多目的室だって、じゃ」
「……は? なんやねん」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
離縁してほしいというので出て行きますけど、多分大変ですよ。
日向はび
恋愛
「離縁してほしい」その言葉にウィネアは呆然とした。この浮気をし、散財し、借金まみれで働かない男から、そんなことを言われるとは思ってなかったのだ。彼の生活は今までウィネアによってなんとか補われてきたもの。なのに離縁していいのだろうか。「彼女との間に子供ができた」なんて言ってますけど、育てるのも大変なのに……。まぁいいか。私は私で幸せにならせていただきますね。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる