上 下
2 / 65

不可能

しおりを挟む
「たかが高校の大会で全勝するくらい――」

「ぴよぴよ(その認識がズレているの。いい? 高校スポーツのなかで、甲子園は特別なの。レベルの次元が他とはまるで違う)」

「なんせ、アンダー十八で野球やっとる連中の中で、レベルの高さが世界一やからな。それもぶっちぎりで」

「ぶっちぎりの世界一ときましたか。へー、へー」

「ぴよぴよ(注目度も高校スポーツの中ではダントツ。なによりも、それが厄介。公式戦でデビルの力など使おうものなら、地方大会の初戦であろうと、一発で世界中に大混乱が起きるでしょうね)」

「特に、今は、誰もが持っとるスマホで優秀な動画が取れる時代やからな。注目度の低い初戦でも、デビルの力を一回でも使ってもうたら、そくおしまいや」

「なるほど。大変だというのは理解しました。しかし、だからどうだというんですか? 僕らはオリンピック記録が目じゃないスーパーな力を持っているのしょう? 170が限界だというのなら、170を投げればいいだけの話では? デビルの力を使わなくとも、最高値を連発すれば、さすがに勝てるのでは?」

「いや、それはそれで秩序が乱れんねん。170どころか、160でも……150もおかしいな。ワシらまだ一年やから」

「?」

「説明、ムズいな。ええと……というか、そもそもの話として、ワシらの高校と、他の高校のレベルの話もせな、理解できんか」

「どういう意味でしょう?」

「ぴよぴよ(高校野球は、金をかけて選手集めた高校が強いの。野球の才能があるエリートを全国からかき集めて、そんな連中の中からさらにふるいにかけて――)」

「高校でそんなことをしていいのですか?」

「ぴよぴよ(いいも悪いも、それが普通。金かけて人を集めたところが強くて、それをやってないところは弱い。選手集めた高校とそうでない高校が戦えば、九割九分、前者が勝つ。それが高校野球)」

「……なるほど。つまり、ウチの高校は人を集めていないと。まあ、ウチは、最上位級の超進学校ですから、野球選手など集めているわけが――」

「そんなレベルやない。ウチは、野球に関しては、稀少フリーパス券と呼ばれとるほどのカス高校や」

「……どういう意味ですか?」

「大概人数がそろわんで、二・三年に一回くらいしか大会に出場できん上、なんとか人を集めて出場しても、ほぼ百パーセントの確率で一回戦負け」

「ああ、なるほど。だから、稀少なフリーパス券」

「ぴよぴよ(そんな高校が、全国から天才を集めて朝から晩まで練習している高校相手に全勝……おかしいでしょう?)」

「た、たしかに、不自然ですね。不自然というか、ありえない。……しかし、では、どうするのですか? 全勝しないと、僕ら、消されてしまうんですよ」

「せやから、大変やぁ、言うてんねん」

「ぴよぴよ(相手は悪魔。無理難題で私たちをいたぶっているだけなのかもしれないわね。デビルの実力を発揮して勝てば秩序を乱したとして神に睨まれ、負ければ、魔人のくせに何をやっているんだと悪魔に睨まれる。八方塞がりだわ)」

「なんとか、僕らがギリギリ勝ってるようにみせるとか、できないものなのですか?」

「ぴよぴよ(非常に難しい。ウチの高校は、とにかくクソすぎるもの。初戦の勝利すら不自然という状況で、甲子園五連覇なんて――)」

「でも、トウシくん。君なら、なんとかできるんじゃないですか?」

「あ?」



「だって、君は天才じゃないですか」



「……」

「天才ねぇ……」

 田中東志は、

「ギリギリ勝っているように魅せる……か。できるか? 可能か? ありえるか? 道は残っとるか?」


 高速で頭を回転させる。
 不可能を可能にするための算段。


「ウチの高校で、高校野球界の秩序を乱さずに、三年間公式戦全勝。そんなもん、普通のヤツには絶対できへん。けど、ワシなら……」



 深く、深く、思考の底へと沈んでいく。



「……考えろ……この状況で……三年間……全勝……秩序……魅せ方……秩序を乱さずに五連覇……」

 その長考は、






「……あった」



 実る。



「可能性。ゼロやない。ワシならできる。というか、ワシにしかできん。みとけよ、あほんだら。高校球界の秩序を乱さず甲子園五連覇……やったろやないけ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

処理中です...