だが剣が喋るはずがない

娑婆聖堂

文字の大きさ
上 下
10 / 23
動地剣惑星 (どうちけんまどいぼし)

金が無ければどうにもならない

しおりを挟む
 「うぎょわぁぁ!」
 「やかましい!カエルが地雷原歩いたみたいな声出しやがって、キリキリ撒かんか!」
 「撒くって言っても、これバッタじゃないですかー!」

 家庭菜園の耕筰の手伝いに来た風雅の、とても女子高生とは思えない悲鳴が、茶色に乾いた雑草の葉を揺らした。
 
 デパートで売っているプラスチック製の飼育容器に、所狭しとバッタ、バッタバッタである。気の弱い者なら正気度が削れそうな光景だ。
 これを冬が近いために雑草しか生えていない家庭菜園に放っている。

 「というかなんでバッタなんか放すんですか!?」
 「ふはははは!ただのバッタではないのだよ能島君!よくよく観察してみたまえ」
 「いやー!見たくなーい!」
 「みたまえ!」

 藤堂導人がバッタを風花の顔にかざす。小学生並である。
 「ほら、ふつうのバッタより羽が小さいし、色が黒いだろう!これぞ私が品種改良の末に開発した除草バッタ!」
 「見たくなーい!」

 「飛蝗と言えば、古来より地震雷火事親父と同列に扱われた災害だった。大群で一挙に押し寄せる機動力、植物ならば種類を選ばない悪食さ!農耕民族にとって悪夢以外の何物でもなかっただろう」

 「だが私は考えた!この機動力を殺し、悪食を制御できるならば!強力かつ速攻!さらにはエコな除草剤になるのではないかと!で作った!」
 「夏休みの自由研究感覚で言ってますけど、結構とんでもないじゃないですかー!」
 「気のせいだ!心を強く持ちたまえ」
 「稲ちゃぁぁん!なんとかして下さいぃ」

 脳筋バカ天才ばかに囲まれた風花は稲に泣きつく。ちょうど手伝いの謝礼を持ってきた稲は、風花を見る。

 「風花さん。お嬢様生活の長いあなたにはまだ難しいかもしれませんが」
 実験の費用として渡された諭吉を出して、言った。

 「世の中金なんです」
 「中学生の台詞じゃない!」

 叫んでも味方はいない。畑仕事のため三つ編みにまとめた長い髪が、俯く頭にあわせて垂れた。
 服装は芦屋家の納屋になぜだか置いてあったもんぺ姿である。

 「ううっ。いくら賠償代わりの労働とはいえ、この扱いはあんまりです。乙女にやって良いことじゃないですよ」
 「ポン刀でちゃぶ台両断する危険人物が乙女と言えるかは、意見に個人差があるだろうな」

 風花の嘆きを堂馬はばっさり斬った。
 ああ、私が何をやったというのだろう。2週間前の夜、芦屋堂馬に切りかかり、家を訪ねてちゃぶ台を割り、補償が出来ないので道場に誘い。
 あれ、わりと同情の余地がない。
 いやいや、と風花は首を振る。責任の所在が自分にあるのは分かっている。つらい労役に文句をつけるつもりはない。
 だがもうちょっと、何か気を使ってくれてもいいんでなかろうか。これでも女の子なのだ。さり気なく大丈夫かの一言くらい貰いたいのが人情である。

 「ふむ、いい感じに雑草だけ食べて、ハーブ類は避けているな。条件づけは成功と」
 導人がノートに何やら書き付け始めた。
 「あとは食べきった後にどう誘引するかだけですね」
 堂馬も風花から興味を失う。ススキ位に思っているんじゃないか。

 そう思うと道理に沿わない怒りが溢れてくる。仕方ない。人間なのだ。
 ぶるぶる震える身体。三つ編みが跳ね、顔が正面を向く。覚悟を決めた眼差し。堂馬もつられて目つきが鋭くなる。真剣勝負の目だ。

 「堂馬さん。お話があります」
 「数秒見ん内にいい面構えになったもんだな。言え!」
 「私能島風花は、芦屋堂馬に決闘を申し込みます!」

 「ええっ!」
 稲が驚く。
 「ほほほう!」
 導人が興味深そうに見つめる。
 堂馬は、にやりと、口の端を吊り上げた。

 「期日は!」
 「一週間後!」
 「場所!」
 「ここで!」
 「武装!」
 「あり!」
 「種類は!」
 「飛び道具を除き、問わず!」
 「願いは、なんだ!」
 「私が勝てば、か弱い女の子として接して貰います!」
 「良かろう。その勝負、受けた!」

 堂馬は回れ右して家に入る。決闘ならば準備を整えねばならない。鍛錬だ。鍛錬有るのみ。
 風花ももんぺ姿のまま、私服をひっつかむや否や駆け出した。敵は己より優勢。工夫を凝らさねば。事態は急変した。今ここに突如として少年少女による決闘が生起したのである。

 「ん!?2人とも帰ってしまったぞ?これは私も帰らねば!さらば、稲君!」
 導人も意味もなく帰ろうとする。
 「それはいいですけど、バッタは回収して下さいね」
 稲、あくまで冷静であった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

処理中です...