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異変
第6話 お泊まり
しおりを挟むあれからやることがなく、猫でいう伏せの状態でのんびり座っているとショウが勝った様子でガッツポーズを取り、桂は悔しそうに嘆いている。ゲームが終わったのか自分のスマホを覗くショウはスマホと私を向後に見ている。
メッセージは言葉に出来なかったことをメールで送ったのだ。
お風呂に連れていかれそうになった時に助けてくれなかったことから野良猫と言ったことへの不満が綴ってある。私の怒りがメールで伝わったのか申し訳なさそうに見てくる。
ショウがそんな顔しても私は知らんぷり。
ショウは何とも言えない顔だった。
「ねぇ、今日は泊まってく?姉ちゃん帰ってきてないけどさ」
「‥そんな事も言っていたな。凛からは部屋を使って良いと言ってたからさ」
「それなら遠慮いらず使っちまえ。あんまり部屋の中を弄ると姉ちゃんに何言われるかな?」
「しないって」
先程と違い弟にバレたのは痛かったが、ショウが泊まってくれるなら断然気が楽だ。メールやジェスチャーでやれば伝わる。
それに、リビングのソファで寝かせる訳にもいかないし、客室用の布団も古臭くて捨ててしまったから今回はベッドを使うのは大丈夫。
私の部屋に何度か遊びに来ているので心配することもない。
桂は夜ご飯を作ってる間にショウに遊ばれていた。私だと分かっても猫を触りたいのは分かる。まだくすぐったいが我慢はできる。撫でられている内に気持ちよくなって、本能的に喉からゴロゴロと鳴って甘えてしまう。………猫だからしょうがない。
保健室の時は突然触られてビックリしたのだ。今回は知った上で驚いていない。
良い香りが漂い、私もお腹が空いてきた。この匂いはチャーハンかな?
「猫のやつはこれな」
「に……」
「猫用に買ってあってよかった。ほら、食べな」
(ツナ缶………)
お皿に盛られた猫用のツナと小さく切られて茹でられた野菜がある。茹で野菜はまだよしとして、ツナと一緒に何かが入っている。
躊躇いながらもそれを口にすると口の中でツナの甘味と何かの苦味、不味さを感じた。ゲロ不味い。
味覚までは猫になっていないようだ。
(美味しくない………)
「お代わりは無いからな。俺らも食べるか」
「珍しくエビチャーハンじゃん。こんなにエビが沢山」
「おう!なんか特売やってて買ってきた。これ姉ちゃんには内緒な」
ここに姉はいるがそれよりも野菜だけしか食べれなかった。
もう口にしたくない不味さで人間の食べていた物より圧倒的に不味い。
横に置いてある水も舌で掬わないといけないので、飲みにくい。ショウ達が食べているチャーハンの匂いが生殺しのよう。
ショウにお願いすれば一口貰えると思い、前足を椅子にかけて鳴く。
(一口ちょうだい)
「にゃあ、にゃぁ」
「ダメだよ。これは猫が食べちゃダメな物が入ってるの。ショウもあげないで」
「ダメなのか?」
「猫の食べちゃダメな物もあるの。そう易々とあげたらお腹壊すから絶対ダメ!」
「………そうか」
(エビだけでも!一口ちょうだいよ!)
「そんなに鳴いてもダメ。ほら、自分のご飯あるだろ。好きじゃなかった?」
(あんな不味いの食べきれないよ。温かいご飯が食べたいのに………)
舌が猫じゃなくても内臓は猫に変わっているかもしれない。
それでも味が不味ければ食欲など起きるはずもなく、食べる気も起きないのだ。猫だと人間と違いお腹を壊す物が多い為、そう易々と食べさせてくれなかった。
凛はご飯だけは猫になったことを恨むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあ、俺は猫と寝ようかな。父さんにバレたらやばいしリビングに居させるのもどうかと思うからさ。あ、猫用のトイレ買ってこようかな」
お父さんにバレないようにするのはありがたいが、猫用のトイレはやめてほしい。
弟と寝るなんて何年ぶりだろうと考えていると、お風呂の事を思い出して恥ずかしさが込み上げてきた。
「おい、怯えてるからやめとけ。猫は俺が預かるから寂しく一人で寝てろ」
「な!癒しがないと寝付けにくいんだよ!このモフモフが側に居るだけでも堪らないのに」
確かにお風呂の入ったばかりの猫や犬は毛がふわふわで、触っていると離れられなくなってしまう程。猫好きなら更に尚更。
でもね。姉の身体を撫で回すのはちょっと………。
私はショウに抱っこされて状態で自分の部屋に連れていかれる。扉を閉めて私を床に下ろすとショウは一息ついている。
「ふう。やっと落ち着いた‥」
「にゃあ」
「ごめんな。野良猫なんて言って。あのときなんて言えばいいか迷ったからさ」
「‥にゃぅ」
発言に気をつけてね。もうお風呂は懲り懲り。
「悪かったよ。………猫って機嫌悪いと尻尾を降るんだっけ?」
「!?」
振り替えると確かに尻尾がパタパタと振っている。猫は犬と違って尻尾を振らないが、猫は何か不機嫌な事があると尻尾を振る習性を持つ。
自分の感情が尻尾で表されているのは何故か恥ずかしく感じて尻尾をクッションで隠す。
「なんだ?恥ずかしいのか?」
「にぅ」
そんなに尻尾見ないで。
「なんか。人間の時のお前の声が聞けなくて、嫌だな」
(え?それってどういう………)
ショウの発言に一時は固まったが、その瞬間に抱っこされ頭をわしわしと撫でられる。
「まあ。今日は家に泊まるからな。ベッドは使って大丈夫?」
「に、にゃう!」
幼馴染だとしても自分のベッドに寝かせるのは悩んだが、泊まるとなると猫の姿では何も出来ず、ショウの為に新しい宿泊用のベッドを用意させるのも大変だろうと自分のベッドを使わせた方が無理をさせずに済む。
頷くとショウは無意識に凛の首に手が行き、軽く撫でる。
(あ、そこ気持ちいぃ‥)
無意識に身体を擦りつけて、気持ち良さそうに喉からゴロゴロと鳴る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
猫の身体になっても味覚はどうなるのか………。迷っちゃった。
次回、復習&添い寝
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